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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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2404/2453

第2404話:亜人との交流

「塔の村のダンジョンにチャレンジしている方がいるんじゃないでしょうか」

「うん、あり得るね」


 ルーネと海の王国の商店街をぐるっと回ったあと、ギルドに来て食堂で話をしている。

 今日雨だからクエストに出られない連中がもう少しいるかと思ったら、そうでもなかったな。

 塔のダンジョンがどんなものか、試しに潜ってみようっていうメンバーが多いんだとすると説明がつく。


「今後新『アトラスの冒険者』は、雨の日でも塔のダンジョンで働けるわけか。いいことだな」

「商売としてはいいかもしれませんけど」

「あれ、ルーネは不服そうだね?」

「私は色々な経験をしたいんですよ」


 わからんでもない。

 ルーネは帝国の皇女でおゼゼに困ってるわけじゃないから、もっとトリッキーな経験をした方が身になるのだろう。

 あたしとはエンターテインメントを求める同志とも言える。


「この前のカルテンブルンナー公爵家領以北の魔物掃討があったじゃないですか」

「ああ、領地繰り入れのやつね」

「ウルリヒは結果に満足してるぬよ?」

「様子をチェックしてくれてたか。ヴィルは偉いな」


 ぎゅっとしたろ。


「ゴブリンは勉強になりました。でも塔のダンジョンはゴブリンがいないんです」

「うーん」


 ゴブリンは単体じゃ弱いけど、罠張ったり不意打ちしたり数にものを言わせたりする嫌らしい魔物だ。

 ゴブリンは冒険者たるもの、一度は経験しとくべき魔物だと思う。

 ルーネも同じ考えみたいだな。


「確かに塔の村だけで冒険者してると経験が偏るだろうな」

「でしょう?」

「実はあたしも自分のクエストでゴブリン戦を経験したことがなくてさ」

「ユーラシアさんがですか? 何故でしょう?」

「レベルの問題だと思う。中級冒険者になるとゴブリンとかコボルトみたいな、小ズルい魔物のクエストを振られるらしいんだ。あたしの場合は中級冒険者になってすぐ、現在移民の開拓地になってるところの掃討戦があってさ。その時のボスがデカダンスで、いっぺんにレベルが上がって上級冒険者クラスになったから」

「そんなことがあるんですねえ」

「今は真経験値君とか言ってるけどさ。当時はレベルがまだ一〇台で、人形系魔物にダメージを与えられる手段が『経穴砕き』しかなかったんだわ。デカダンス倒すのマジで大変だったんだぞ?」


 皆に助けてもらった総力戦だった。

 実に懐かしい。

 昔はスライムとかウィッカーマンとか飛空艇とか、それなりに苦労する戦いがあったなあ。

 そして人形系魔物の重要性も倒す手段も知られてきた。

 まだ一年も経っちゃいないけど。


「海の王国行きの転移石碑はあった方がいいと思うんですよ」

「ん? 急に話題が変わったね」

「ドーラは各種の亜人がいるじゃないですか。ドーラの冒険者は、皆さん亜人に詳しいのかと思ってたんです。ところが亜人に関わってるのは、ほぼユーラシアさんだということを、ギルドに来るようになってから知りまして」

「言われてみれば。獣人の『アトラスの冒険者』はいるし、パワーカード工房のアルアさんはドワーフだけど、それ以外はあんまり」

「もったいないのではないかと。先ほどの様子だと海の女王様は、ノーマル人が商店街で買い物することは歓迎のようです」

「魚人との交流の意味でか。ルーネはやるなあ」


 あたしも考えてなかったわけじゃないが、レイノスのノーマル人至上主義がある。

 海の王国から海産物が入ってるから、魚人に対する当たりは弱くなっていると思いたいが、実際の感覚はよくわからないところだ。

 保守的な人も多いだろうし、ゆるゆる改善していけばいいかと思ってた。


「お父様とドーラについて話していた時に、亜人についての話が出たんです。お父様は、もっと亜人を活用すべきだって。ノーマル人にない技術を保持しており、それは経済規模の拡大と国力の増強に繋がると」

「ははあ?」


 おそらくルーネは、どうしてお父ちゃん閣下がドーラ支配を強化しようと考えたかを知りたかったんだろう。

 それでお父ちゃん閣下に聞いて、娘から話を振られたのに喜んで閣下はドーラに対する思いの一端を喋ったんだろうな。


「お父ちゃん閣下は亜人と親しくすべきって考えてたのか。意外だな」

「ユーラシアさんは亜人の持ってる技術の重要性をわかっていて亜人と付き合っていらっしゃいますけど、あくまで個人レベルじゃないですか。ドーラ人皆が皆、亜人との交流を深めるべきだという考えを持っているわけじゃないのは、私も残念だと思います」

「その通りだね。今度海の王国行った時に、転移先ビーコン置かせてもらうように頼んでこよう」


 お父ちゃん閣下がドーラ経営に関してどういう目論見があったのか、暇な時聞いてみよ。

 ルーネがいればベラベラ喋りそう。

 今後ドーラをどういう方向に発展させるべきかの参考になるかもしれない。

 ドーラにはおゼゼがないから、まんま実現できるわけじゃないけど。


「レイカさん、こんにちは」

「あれ、一人? 珍しいね」


 塔の村のむちむち火魔法使いレイカが来た。

 いつもパーティーメンバーのジンとハオランが一緒なのにな。


「いや、今まで塔に潜っていたんだ。塔の村はゴーストアイドルライブの準備でバタついていてね。こっちで静かに遅い昼食を取ろうかと思って」

「そーゆーことだったか。ごゆっくり」

「いや、ユーラシアの意見を聞きたかったんだ」

「何だろ?」

「最近エルの様子がどことなくおかしくてな」

「そのことか」


 平常心でいて欲しいんだけどな。

 事件の当事者ともなるとやっぱムリか。

 周りの人間だけでも落ち着いてて欲しいもんだ。


「内緒だぞ? 明後日エルの母ちゃんが一隊を率いてエルを連れ戻しに来るんだ。エルはそれ知っててナーバスになってるだけだから、気にしなくていいよ」

「ユーラシアが悠長に構えてるなら、大したことないんだな?」

「とゆーか異世界の技術が大したもんだから、向こうを刺激して本気にさせると勝てないの。明後日ライブで大変だと思うけど、いかにも怪しいやついたら、何げなくエルから遠ざけて時間稼いでくれる? その間にあたしが決着つけるから」

「わかった」

「じゃねー」

「バイバイぬ!」


 最近のレイカは随分と精神的に落ち着いている。

 うまくやってくれるだろう。

 転移の玉を起動し帰宅する。

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