第2403話:ルーネを連れて海の王国へ
フイィィーンシュパパパッ。
「ここが?」
「海の王国だよ」
ズデーテンで第三皇子セウェルス殿下をホニャララというイベントが早めに終わったため、ルーネを連れて海の王国へやって来た。
今日ドーラは土砂降りなので、通例に従って昼御飯を食べに来たのだ。
女王も待ち構えているだろうから。
ちなみにお父ちゃん閣下も海の王国に興味はあったようだけど、ズデーテンでの報告をプリンスルキウス陛下に提出するのを優先するんだって。
昼御飯の時間くらいいいのにと思うんだが、閣下には閣下の考えがあるみたい。
行く前に海の王国の調査をしておきたいのか、それとも楽しみは取っておきたいのか、ちょっとわからんけれども。
「不思議な場所ですね」
「天井が高くて、とても海の底とは思えないよね。ルーネには銅鑼を鳴らす権利をあげよう」
「銅鑼、ですか?」
「そこに吊るしてあるやつ。本来は警報として使われてるもので、メッチャいい音が出るんだ。あたし達が来たぞーっていう合図で鳴らすことにしてるの」
「変わっていますね。思わず叩きたくなります」
「でしょ? これ今帝国にも輸出されてるんじゃなかったかな。悪魔が嫌う音を出すから魔除けってことで」
「えっ? ヴィルちゃんは大丈夫なんですか?」
「盾の魔法をかけてシャットアウトするから大丈夫ぬよ?」
納得しましたか?
「さーいってみようか!」
「はい!」
「ファストシールドだぬ!」
「グオングオングオングオングオングオーン!」
銅鑼の音が重々しく響き、唸る。
心に染み入る音だなあ。
「素晴らしい音ですね!」
「ルーネもそう思うよね。これ販売してるから買ってく? あ、来た」
真っ先に転げ出てくる海の女王。
反応がいいとゆーか実に心配なセキュリティとゆーか。
「肉々しい肉じゃな?」
「肉々しい肉だよ!」
「やったぞほーい!」
ヒラヒラ舞い踊る女王と、うんとこどっこいとお肉を調理場へ運んでいく衛兵達。
見慣れたいつもの風景だ。
「ところでそちらは誰じゃな?」
「帝国のルーネロッテ皇女だよ。今プリンスルキウスが帝国の皇帝やってるんだけどさ。そのお兄さんの娘だね。新『アトラスの冒険者』の一員でもある」
帝国皇帝を巡ってプリンスと争った第二皇子の娘と悟ったかはわからない。
細い興味深げな目を向ける女王。
「ほう、海底へようこそ」
「こちらこそよろしくお願いいたします」
「昼食を食べに来たのじゃろ? 席についてたもれ」
◇
「ごちそーさまっ! 満足です!」
いつものようにのたうち回り床をテカテカにする女王と、それに付き合ってゴロゴロするヴィル。
ルーネもやりたそーな顔してるけどダメだぞ?
お父ちゃん閣下にバレたら言い訳できないからね。
「画集の女王陛下の絵ですけれども、このポーズだったんですね」
「ポーズと見るか。まあそう」
「はあはあ、堪能したぞよ」
「堪能したぬ!」
女王はお肉を堪能したのかゴロゴロのたうち回るのを堪能したのかどっちだろうな?
いずれにせよ美味いお肉は絶対正義なのだ。
ヴィルをぎゅっとしたろ。
「女王に二つ報告があるんだ」
「ふむ、『アトラスの冒険者』の関係かの?」
「両方とも関係あるね」
さっきルーネのことを新『アトラスの冒険者』の一員と紹介したしな。
『アトラスの冒険者』については、廃止になることまで含めて話題にしてもいいと判断したんだろう。
正解です。
「『アトラスの冒険者』は今月一杯で廃止だったかの?」
「その予定だったんだけど、明後日廃止になりそう」
「む? 説明してたもれ」
「やや複雑なんだ。遠回りになるけど順に話すね。明後日二二日に塔の村でゴーストアイドルの初ライブがあるんだ」
「ゴーストアイドル?」
「ほら、以前塔の村の精霊使いエルがここに攻めてきた原因になった、沈んだ船に乗ってた四六人の子達だよ。ゴーストになったけど、初心を通してデビューするんだって。歌や踊りを披露するみたい」
「ほう、それは素晴らしいことだの!」
女王も気になってただろうからな。
表情はわかりにくいけど、喜んでるのはわかる。
『永久鉱山』である塔の村から放出される魔力があれば、ゴースト達はいつまでも存在し続けられるようだよ。
ライブが定期的に開催されるようになったら、女王も見に来りゃいい。
「この件が伝えたかったことその一ね。で、二二日のライブのドサクサに紛れて、異世界がエルを連れ去りに侵攻してくる」
ルーネが驚いた顔してる。
断片的には知っていても、全体像は知らないことだったか。
「ユーラシアには世話になっておる。力を貸してもよいのだぞ? わらわにできることはないのかの?」
「ありがとう。でも力を借りることはないかな。とゆーか異世界の技術はメッチャ進んでるから、向こうが綿密な作戦立ててきたら勝ち目がないんだ。油断させといて一気に勝負つけるしかない」
「かもしれぬの」
頷く女王。
何の前触れもなく海底へ転移してきた異世界の驚くべき技術は、女王も知ってるからな。
「だからこっちは無警戒ですよっていう態度を見せておく作戦なんだ。せっかく兵隊を借りても、それは異世界を警戒させちゃうだけだから必要ない」
「ようわかった。ではもう一つの報告とは何かの?」
「バアルを解放しなきゃいけないんだ」
空気が冷えた気がした。どういうことかわからなくても、場の緊張感が増したことは察したのだろう。
ルーネが息を呑む。
女王も一〇〇年以上前の敵対勢力との戦いの際、状況を引っ掻き回していたずらに被害を拡大したバアルには恨むところあるだろうから。
しかしバアルの『抑圧者』の固有能力は、あたしの逆侵攻作戦に絶対に必要なのだ。
「……おんしがそうせねばならぬと思い定めたのだろう? わらわは構わぬ」
「ごめんね。今後海の王国には絶対に手を出させないようにするから」
まーバアルも『破魔の銅鑼』の音が不快なことは骨身に染みてるだろ。
何があっても海の王国にちょっかいかけようなんてことは考えないだろうけどな。
「報告それだけ。商店街で買い物してくね」
「うむ、次回おんしが海底へ来るのは、『アトラスの冒険者』の問題が全て片付いたあとじゃな?」
「うん」
エルも連れてくると言いたいところだが、おかしなフラグになっても困るしな。
「楽しみにしておるぞ」
「バイバイぬ!」




