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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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2402/2453

第2402話:丸投げの下請け

 お父ちゃん閣下が言う。


「セウェルス、随分頭がしゃっきりしたように見受けるが?」

「ああ、おかげさんで」

「健康の方は問題ないんだろう?」

「と、自分では思ってるがね」

「ポストを用意しようじゃないか。帝都に戻ってこい」


 ふーん、そーきたか。

 バルタザールさんとルーネが驚いている。

 おそらくお父ちゃん閣下がセウェルス殿下を嫌っていることを知ってただろうから。

 しかしセウェルス殿下を帝都に呼び戻すことは、一つの有効な手段ではある。


「セウェルス、昔の君は才気に溢れていた。子供心にガレリウス兄上を支えていくのは君だろうと思ったものだ。いや、君が帝国政府の重鎮となると考えていたのは、決して予だけではなかったろう」

「周りはそう思ってたかもな」

「これは贔屓目ではない。今の君なら公務に耐えられる。施政館に協力してくれ」


 調子のいいことを言っている。

 お父ちゃん閣下の考えとしては、セウェルス殿下を辺境伯領から引き剥がして反乱の噂を消し、適当な見栄えのいい役を振るとゆーことだろう。

 同母の姉ヴィクトリアさんが喜ぶに違いなく、また市民に仲良しアピールもできる。

 メリットの多いやり方であることは異論がないけど……。


 セウェルス殿下はどう出るかな?

 自嘲気味に言う。


「ドミティウス兄者の言うこともよくわかる」

「では帝都に……」

「オレはガレリウス兄者を支えるつもりなんてこれっぽっちもなかったんだ。自分が皇帝になることしか考えてなかった」

「「!」」


 自分でバカ正直に言っちゃうのな?

 バルタザールさんとルーネが再び驚いているが、お父ちゃん閣下はセウェルス殿下の皇帝位を狙う思いには気付いていたのだろう。

 でもセウェルス殿下もこう言うってことは、帝都に戻ってくる気はないみたい。


「力を得て、特にそう思っていたな。ユーラシアに会うまで思い上がっていた」

「ごめんね」

「何を言うか。オレは感謝しているんだ」


 『強奪』の固有能力は生まれつき持つものでなく、皆あとから発現するとマルーさんが言っていた。

 セウェルス殿下にいつ『強奪』の固有能力が発現したのかはわからない。

 知る機会も意味も全くないことだが。

 『強奪』の固有能力が失われるまで、皇位を得るという妄執から逃れられなかったんだろうな。

 寂しいとゆーか、もう遅いとゆーか。

 自分の持ち固有能力を知ることで人生が狂ってしまうというケースがあることは、あたしも覚えておかなきゃいけないな。


「今は自分を客観視できている。オレは心が弱かった。かつてのオレは、若い女のうなじしか見えていなかった」

「えっ?」

「ルーネロッテ。久しぶりに見たが、美しくなったな。いいうなじだ」


 あれ? これは冗談なのか本気なのかわからねえ。

 閣下ルーネバルタザールさんが硬直してるがな。

 セウェルス殿下がうなじフェチであることは間違いないと思うけど。


「画集でルーネはうなじを見せるポーズでもいいかもね」

「もう、ユーラシアさんったら」

「イシュトバーンさんに提案してみよ」

「画集とは何だ?」


 ズデーテンに引っ込んでるバルタザールさんはともかく、セウェルス殿下も知らなかったか。

 ナップザックから画集『女達』を取り出し手渡す。


「これだよ。帝都で大人気でメッチャ売れてるの」

「「おおおおおおお?」」

「いいでしょ? 表紙はあたしがモデルだよ。これ今第二弾の帝国美女版の企画が進行してるんだ。次はルーネが表紙になる予定なの」

「おお、素晴らしいではないか。ユーラシアの企画なのか?」

「まあそう」


 お父ちゃん閣下が閉口してるけど、話続けちゃうよ?

 せっかくセウェルス殿下の口が滑らかになってきたところだし。


「絵師が贅沢でさ。若く見えて未婚でちょっと特徴のある人しか描こうとしないんだよ。モデルが足んないの。殿下に心当たりない?」

「若くて未婚で特徴のある女か。実にわかってる絵師ではないか」

「そお?」

「帝都ならば、踊り子キリアナは外せないだろう」

「キリアナお姉ちゃんはもう描かせてもらったんだ。ばいんばいんのやつ」

「では『笑わない酌婦』コレットはどうだ? 流れのホステスだから、会うのは大変だが」

「知らない人だった。流れのホステス? そんな職業が成り立つのか。殿下ありがとう!」

「ユーラシア君、もういいだろう?」


 少し脱線してました。

 『笑わない酌婦』コレットさんは覚えておかねば。

 場は温めといたから勘弁してよ。


「それでセウェルス、どうだ? 帝都に戻ってくれるか?」

「……ドミティウス兄者に避けられていたことは知っている。ルーネロッテもオレに会わせないようにしていただろう?」

「ああ。帝都にいた時の君は危険な厄介者でしかなかったからな。しかし今は違う」

「周りの目は、今は違うと見ないのだ。オレは今でも巡回の騎士に迷惑をかける、危険な厄介者で変わらない。オレが帝都でできることは何もない」


 セウェルス殿下の指摘は正しい。

 お父ちゃん閣下は殿下を地方に置いておくことこそがまずいと考えているが、帝都に連れ帰ることもまたよろしくない。

 評判の悪いセウェルス殿下にポストを与えることで、政権の評価を下げかねないからだ。


「かといって、オレがズデーテンにいるだけでバルタザール伯父が疑われるのだろう? オレが唆してよからぬことを企てていると」

「その通りだ」

「オレもバルタザール伯父を苦しい立場にすることは本意ではない。落としどころを考えてくれ」


 丸投げしてきたぞ?

 もっともセウェルス殿下に決定権がないから仕方ないか。


「ユーラシア君、何かないか?」

「えっ?」


 丸投げの下請け。

 こーゆーの多いな。


「ならセウェルス殿下にはこのままズデーテンにいてもらって、新聞記者連れてくる?」

「新聞記者?」

「『享楽者セウェルス殿下のズデーテンルポ』っていう記事を寄せてもらうの」


 遊び人であることを逆手にとった記事なら、興味ある人も多いんじゃないか。

 そしてズデーテンとセウェルス殿下の近況が知れれば危険視する人は減る。

 同時にズデーテンの魅力も配信できる。


「名案だ!」

「じゃ、今度新聞記者連れてくるから、殿下は原稿の草案作っといてよ」

「わかった」


 よーし、今日のお仕事終わり。


「バルタザール殿、邪魔をしたな。今日はこれで失礼する」

「バイバイぬ!」

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