第240話:理由がひど過ぎてひでえ!
センスのおかしいピンクマンに言い聞かせる。
「需要わかった? この際あんたと黒の民のセンスはいらんから、他所の人に売ることに力尽くして。あの酢は戦略商品だよ。帝国から輸入するお値段のバカ高い酢に負ける理由なんかない。シェアを独占できるチャンスだぞ!」
この辺のやり取りはどうせラルフ君がパパさんに話すだろうからな。
せいぜい黒の民の村の酢の商品的な魅力を宣伝してくれい。
あの酢が売れないのはドーラ全体の損失であり、食文化の敗北だ。
ぜひ売れてもらいたい。
酢が売れれば、あとには醤油も控えているしな。
「次、ラルフ君」
「はい。先日の盗賊退治でレイノスの警備局から報奨金が出ておりまして、当家に支払われておりますが、これは師匠の働きですので、ぜひお受け取りいただきたく」
「ラルフ君だって働いたじゃん。あたし達はおいしい御飯食べさせてもらったから、べつにいいんだよ」
ラルフ君パーティーが互いに顔を見合わせている。
でも本当にいらないんだぞ?
面倒な手続きしてるのラルフ君パパだし、報奨金もらっちゃうと却って借りを作りそうだ。
ラルフ君パパは敵じゃないけど、カラーズ~レイノス間の交易が軌道に乗るまでは、流通を担当してくれる人に隙を見せたくない。
「何もなしはあまりにも」
「ラルフ君パーティーだってこれから物入りなんだぞ? 自分らのことも考えなよ」
「でも師匠はおゼゼがないと言ってらっしゃるではないですか」
「いいってば。どうしても礼がしたいって言うなら、魔境に付き合いなよ。あたし達にとってはうんとありがたいんから」
ラルフ君パーティーが硬直する軽いジョークで、この件についてそれ以上の話を打ち切る。
時間のムダだ。
メリットデメリット考えると、もらっていいおゼゼじゃない。
「カラーズ各村の売ることのできる商品のリストが、今日明日にでも上がってくるんだよ。それ持って親父さんと話したいから、段取りつけてくれないかな?」
「わ、わかりました。早急に」
「お願いしまーす」
ピンクマン聞いてるか?
時間とともに交渉は進むのだ。
くれぐれもクロード族長を先走らせるなよ。
しかし赤の民青の民だけじゃなくて、黒の民まで商売に対して前傾姿勢取り過ぎなんだが。
海千山千の商人のいいカモになりそうだ。
先が思いやられるなあ。
「次、アンセリ。ソル君がギルド来ないってどういうこと?」
「理由がわたし達にもサッパリ」
「心当たりはないのか。クエストは順調だったんだよね?」
「もちろんです」
ふーん?
ソル君真面目だから、理由もなくサボるなんてことはないだろうしな?
「ダンピンクマンラルフ君達。ソル君について何か聞いてないかな?」
「聞いてねえな」
「聞いてない」
「「「「聞いてないです」」」」
「聞いてないぬよ?」
ダンが知らないくらいならギルドは関係なさそう。
じゃあソル君家に問題がある?
「ソル君の住処って、レイノスより東の自由開拓民集落だよね。何てとこだっけ?」
「「グームです」」
「ラルフ君。この前の盗賊に残党がいて、グームを占拠してるなんてことないよね?」
「少なくとも報告はありません」
たかだか盗賊程度の人数で、他所に知られず集落一つ丸々占拠するなんてまずあり得ない。
でも重要人物が人質に取られたりすることもなくはないからな?
「……心配だな。行ってみようか。グームってラルフ君家から近い?」
「一番レイノス寄りの集落です。自分の家から強歩三〇分強です」
「ピンクマン、悪いけど付き合ってくれる? ラルフ君とフレンド登録して、アンセリ連れて一緒に飛んで」
「了解だ」
ダンが言う。
「誰か忘れてやしませんかね?」
「誰だろう? 心当たりがない」
どうせあんたはついて来るんだろ?
ピンクマンと一緒に来い。
◇
総勢一二名、フレンド連携の転移の玉でラルフ君の家に到着した。
「ヴィルカモン!」
挨拶もそこそこに、ギルドで一旦離れたヴィルを呼ぶ。
様子がわからん時は、セオリー通りまず偵察だ。
プロフェッショナルのヴィルにお任せ。
「呼ばれて飛び出てヴィル参上ぬ!」
「よーし、いい子! ここから一番近い自由開拓民集落グームの様子見てきてくれる? ソル君がいるはずなんだ。様子がわかるようなら教えて。あたし達も歩いてグームに向かうから」
「わかったぬ! 行ってくるぬ!」
さてと出発だが……。
「ラルフ君達はどうする? グームまで行く? それともクエスト?」
「自分達も皆さんと行きますよ。面白いことが起きそうですから」
「おお、冒険者らしい答えだね。見違えるようだよ」
面白いことが起きそうだからっていう、エンターテインメントを追求する姿勢がいいね。
魔境にビクつくパーティーとは思えないよ。
いつも今みたいなふてぶてしい表情を見せていればいいのに。
「じゃあ行こうか」
途中まで行ったところでヴィルが戻ってくる。
よしよし、いい子だね。
ぎゅっとしてやる。
「グームの様子はどうだった?」
「集落は平和で何事もないぬ。ソールの気配は家の中にあるぬ。でも何をしてるかはわからんぬ」
「ありがとう。じゃあヴィルはいつもの任務に戻っててね」
「わかったぬ!」
ふむ、少なくとも村全体を巻き込んだ大事ではない。
盗賊に関係はなさそうだな。
荒事のセンはないか?
「おい、どう見る?」
ダンが話しかけてくる。
「わかんないね。まあラルフ君パパに報告しなきゃいけない、深刻な事案ではなさそうだから一安心だけど。でもソル君がカゼ引いたりお腹壊したりしてるんだったら、それはそれで心配だし」
アンセリが不安そうになる。
うーん、何でもなきゃいいんだが。
「ところでラルフと盗賊退治の後な。こいつユーラシアを何としてでもものにしろって、親に発破かけられたらしいぜ」
「ダンさん!」
ラルフ君が悲鳴を上げる。
緑髪に赤くなった顔って目に優しくないな。
「そーなん? あたしが可愛いからかな?」
「あんたの持ってる人脈や交渉術だろ。評価されてるのは」
「まあ嬉しいことだね」
「嬉しいのか?」
ダンは意外そうだ。
アンセリもだ。
「誰かに必要とされてるってことは嬉しいでしょ。ラルフ君家はお金持ちだし、尻に敷けそうだし、お金持ちだし」
「理由がひど過ぎてひでえ!」
笑いの中、集落が見えてくる。
この前盗賊捕まえたところに近い。
あれがグームか。
さて、何が起きてる?




