第2392話:海賊祭りの正体は
「……ということなんでさ」
「事情はわかったよ。大変だねえ」
捕虜にした海賊達から北の海の話を聞いていた。
奪い奪われる、だから武装するというシンプルな行動原理だ。
概ねガリアの王様から聞いていた内容と同じ。
ただ殺伐としてるんだけど、悲壮感は感じないわ。
海賊達のメンタルは陽性だな?
「この時期に略奪ってのは年中行事なんでさ」
「何で夏になの?」
「夏から秋にかけてだぜ。寒くなる前に冬越しの準備が必要だろ?」
「そうそう、祭りみたいなもんだ」
ちなみに猿ぐつわはもう外してある。
さすがに戦闘民族だからか、一瞬でうちのパーティーのレベルを理解し、抵抗はムダだと知ったから。
「何が祭りだ!」
「うーん、意識にズレがあるね」
案内役だった男はノバウラセアの首都ヨークソムの市民だ。
すげえ怒ってる。
先祖は海賊だったかもしれないが、そーゆー意識は彼には全くないのだろう。
町を襲う海賊なんてものは害悪でしかないんじゃないかな。
イベント気分でいたあたしもちょっと反省だ。
おっと、赤プレートに反応がある。
『御主人! 海賊の主力が反転したぬ! 港に戻ると思うぬ!』
「わかった。親玉のビョルンって人の強さわかる?」
『レベル四〇を少し超えたくらいだぬ!』
「へー、まあまあだな。ヴィル、ありがとう。引き続いて海賊本隊を監視しててね。港に着いたらこっちに合流しなさい」
『はいだぬ!』
恐る恐る聞いてくる海賊。
「姐さん、今のは?」
「偵察に出してるうちの子からの連絡だよ」
「つまり魔道具による通信なんで?」
「魔道具なんかな? ちょっとわからんけど、悪魔は皆こーゆープレートを持ってるの。遠隔で話ができるんだよ」
「悪魔?」
「レベルカンストしてる悪魔だよ。あたしから見りゃ可愛いうちの子だけど」
うちの子達は皆優秀なのだ。
「精霊に悪魔……姐さんは何者なんで?」
「その辺を教えとかなきゃいけないね。あたしはドーラの美少女聖女精霊使いなんだ」
「「「「「「「「美少女聖女?」」」」」」」」
「美少女聖女の方に突っ込むのか。ドーラじゃなくて」
美少女聖女は見たままだろーが。
疑問の余地なくない?
まあいいけれども。
地図を取り出す。
「この島がノバウラセアでしょ」
「ふんふん」
「で、こっちの大陸がドーラ」
「メチャクチャデカい国!」
「に見えるけど、ノーマル人は大陸の南側にしか住んでないんだ。人口は大したことないの。一〇万人から一五万人くらい。ちなみにこちらにおわすのは、ガリアのピエルマルコ王ね」
「「「「「「「「ええっ!」」」」」」」」
何で? って思いはあるだろうな。
いや、あたし達だってノバウラセアへ飛んできた時は何騒いでんだと意外に思ったけど、あたしの人生は驚きの連続だから。
適応力が違うわ。
「今日はノバウラセアの女首長様のところに話があって来たんだよ。そしたら海賊祭りなんてやってるじゃん? つい参加しちゃったわ」
「ガリア王がどうして供も連れずに……」
「あたしがいるのに何で供が必要なんだよ」
「そ、それもそうか。姐さんがいるんだもんな……」
「海賊祭りとゆー、北の海の愉快な風習は理解した。けど世界的に貿易が活発になる今後、海賊行為を許すわけにいかないんだな」
「「「「「「「「世界的に貿易が活発になる?」」」」」」」」
「あれ? 貿易の活発化を疑問に思っちゃうのか。今日はそれに関する要件でノバウラセアに来たんだよ。世界の通貨単位を統一しようっていう」
わからんか。
海賊全員が首をかしげてるがな。
「今北の海の辺りでは、通貨はギルを使ってるじゃん?」
「ギル以外の金は見たことねえな」
「ところが放熱海から北では、一般に帝国ゴールドが通用するエリアが多くてさ。じゃあギルとゴールドを統一すれば商売がやりやすいよねっていう、ごく当たり前の発想だよ」
「そ、そんなことができるんで?」
「とゆーかもうキーになる国の了解は取りつけてあるんだよ。それをノバウラセアの女首長様のところに伝えに来たの」
「「「「「「「「……」」」」」」」」
イマイチピンと来ないかもしれないけど、海賊が時代にそぐわないという空気は感じてもらえただろうか?
「なのであんた達には商売替えをしてもらいまーす」
「縛り首じゃねえのか?」
「何でだ。レベルもある程度あるまとまった集団を首ちょんぱしてたら、もったいなくて仕方ないわ。ビョルン海賊団はこの辺じゃ一番の大勢力らしいじゃん?」
「え? まあそうだが」
「ノバウラセアの海軍になるか、商船団を率いてくれたら嬉しいに決まってるでしょ。ふつーに考えて」
「で、でもよ。ノバウラセアじゃ恨まれてると思うんだよ」
「まー受け入れるか受け入れないかは女首長の胸一つだからな」
おっぱいは二つだけれども。
「ノバウラセアで受け入れられないなら、ドーラが引き取ろうじゃないか。非戦闘員まで含めると何人くらいいるの?」
「四〇〇人弱だな」
「ドーラの気候は温暖で沃野が広がっているけれども、魔物が多いんだ。冒険者でも開拓民でも歓迎しまーす。でも逆らって迷惑かけるようならドラゴンのエサにするぞ?」
「ど、ドラゴン? 伝説の?」
「北の海の伝説は知らんけど、ドーラでドラゴンはただの魔物だよ。でも凶暴で結構強い」
「どれくらい強いんだ?」
北の国にもドラゴンに興味ある人は多いんだな。
やっぱ有名な魔物だからか。
「サンダードラゴンやアイスドラゴンみたいな比較的弱いやつでも、あんた達の親分をレベル二〇上げてフル装備でそれなりのスキルを習得して、やっと互角に戦えるくらい。あんた達ならあたしのレベルは把握できると思うけど、あたしでも一人でドラゴンに立ち向かったことはないな」
「「「「「「「「……」」」」」」」」
メリットがないから。
海賊達は違う意味で受け取ったみたいだけど。
王様が笑う。
「ハハッ、ドーラは厳しいだろう? ガリアで引き取ってもよいぞ。今後の情勢を見据えて、外洋の知識の豊富な者を増強したかったところだ」
「あー、ガリアの方が今の生活に近くて楽かもな」
ドーラの近海は魚人の領域だから、元海賊だと全然要領の違うお仕事しなくちゃいけなくなっちゃうもんな。
ま、ノバウラセアに受け入れてもらうのが一番いいと思うけどね。
トップとの交渉次第だ。




