第2391話:親船占領
若い男が猛る。
「オレは急いでいるんだ! 何なんだ、お前達は!」
「そーいえば名乗ってはいなかったな。そちらガリアのピエルマルコ王。あたしはドーラの美少女聖女精霊使いユーラシアだよ。こっちがうちの子達の精霊と悪魔」
「ガリア……王?」
「おお、やっぱり北の国はガリアの存在感が大きいんだね」
精霊と悪魔はスルーか。
海賊に町が襲われているからか、市民の気が立ってるみたい。
ヴィルがソワソワしてて可哀そうだな。
ぎゅっとしたろ。
「ノバウラセアでも我がガリアが重んじられていると知ると、嬉しいものだな」
「本物なんだな?」
「本物だとゆーのに」
「お願いだ! 略奪を止めてくれ!」
縋ってくる男。
だから海賊なんてのはあたしの目指す世界にとって邪魔なんだとゆーのに。
キッチリ退治するつもりなんだってばよ。
ようやく本題だわ。
「あんたの知ってること教えてくれる? 敵の海賊兵力はどのくらい?」
「上陸してるのは一〇〇人前後だと思う」
「ふむ、多いな」
「ビョルンってのは強いの?」
「海賊の戦闘員はそりゃ強いに決まってる。中でもビョルンは別格だ。一対一で勝てる者はいないと言われてる」
「ならばユーラシア担当だな」
「もー、すぐそーゆー勇士っぽい役を振るんだから。聖女っぽい役を回してよ。キャスト変更を要求する」
「冗談ごとじゃないんだ!」
こっちも冗談でなんか言ってないわ。
目一杯本気だわ。
だから聖女に相応しいイベントを寄越せ。
「海賊は当然船で来てるんでしょ? どこに上陸したのかな?」
「港だ! 俺は港から逃げてきたんだ!」
「港か。随分と真正面から来るもんなんだね」
「一〇〇人からの編成であろう? 略奪品は大きな船でないと運べまい。意表を突いた場所から上陸しようと思うと、座礁して動けなくなるのではないか」
「あ、なるほど。海賊にも理屈があるんだな」
「その通りだ。親船が一隻と、小型船が数隻だ」
「じゃ、船を奪っちゃうのが定石かな。逃げられなくなれば降参するだろ」
「え? 船を奪えるなら勝てるかもしれないが……」
このあんちゃんは一体何を言ってるんだろうか?
あたしが不本意にも勇士役を務めてやるとゆーのに、負けるわけがないだろーが。
「留守は強者が守るのも定石だぞ?」
「陸のノバウラセア守備隊からと海の船からの攻撃は想定してるだろうけど、空からいきなり乗り込まれるとはさすがに考えてないでしょ」
「実に面白いな」
王様はどーして機嫌がいいんだろうな?
笑いごとじゃないんだが。
「親船を占領してその他の小船は焼いちゃおう。クララ、飛行魔法で太陽の方向から突っ込むよ。迎撃が少々の矢程度ならあたしとアトムで払い除けて強引にいきます。バカにならん応射だったら親船の奪取は諦めます。その時はダンテ、上からガンガン火魔法で攻撃して全部燃やしちゃって。ヴィルは別行動ね。敵の親玉と主力の行動で特別なことがあったら知らせて。いいかな?」
「「「了解!」」」「了解だぬ!」
「よーし、行こうか。案内してよ」
「お、俺がか?」
「当たり前じゃないか。あたし達は港がどっちか、海賊船がどれか知らんもん。時間が経てば経つほど犠牲と損害は大きくなるんだぞ? あんたが案内してくれるのが一番早い」
「そ、そうだな」
「クララ、お願い」
「はい、フライ!」
「ひやあああああ!」
悲鳴が上がるのは想定内。
敵に見つかりにくくするため、空高く舞い上がる。
◇
「あれだ」
「ふむ、結構な船団ではないか」
「周りに関係のない船がないからやりやすいな」
港に出る。
案内男が指差す先に大型船が一隻と小型船が四隻か。
小型船って言ってもあんまり小さくはないな。
たくさん略奪するつもりだったのかなあ?
「クララ、計画通りに」
「はい」
太陽を背に大型船に急接近する。
油断してるな?
攻撃はない。
フワリと着地する。
「じゃーん! 美少女精霊使いユーラシア参上!」
「曲者め!」
「間違えた。美少女聖女精霊使いユーラシア参上だった」
「ふざけた姉ちゃんだぜ!」
ふざけてないとゆーのに。
甲板にいた人員が、ぐいっと曲がった厚手の鉈みたいな片手剣で撃ちかかってくる。
三人か。
べしべしっと気絶させて、とりあえずオーケーだな。
「あたしは船内から出てくるやつを警戒してるよ。皆はそいつらをロープで縛り上げといて。魔法使えるかもしれないから、猿ぐつわ忘れないでね」
「「「「「了解!」」」」」
ハハッ、案内人の男も楽しくなってきたみたい。
「『赤毛のビョルン』の親船を、こうも簡単に奪えるとは」
「まだ占領したわけじゃないぞ? 中に何人もいるだろうからね」
「懐から温石を取り出すくらいの能天気さで、船を奪取するみたいなこと言ってたからな。何言ってるんだと心配してたんだ」
「あたしが慎重派だってことを知らなかったか。ムリなことはやらない主義なんだよ」
あれ、王様が何か言いたそうだな?
きっとユーラシアは賢くて美しくて可憐な上に慈悲深いと思っているんだろう。
「甲板でバタバタやってるのにも拘らず、誰も出てこんな」
「そうだねえ」
甲板にいた船員三人はすぐ倒しちゃったから、静か過ぎて気付いてない可能性もある。
が、船内で待ち構えてると厄介だな。
「ダンテ、周りの船燃やしちゃって」
「オーケー、ボス!」
随伴船を皆焼いちゃえば、さすがに無視したままではおれまいが。
ストレスから解き放たれたように『ファイアーボール』を撃ちまくるダンテ。
そんなに攻撃魔法使いたかったのか。
いつも『実りある経験』や『豊穣祈念』ばっかりだからなあ。
ハハッ、周りの小船で大騒ぎになったら、親船の船内の乗組員も顔を出すようになったぞ?
甲板の様子にはマジで気付いてなかったみたいだな。
出てきたやつらを芋づる式に気絶させて縛り上げる。
簡単なお仕事だったな。
「これで全員か?」
「みたいだね」
「小型船に乗ってた連中は逃げ散ったようだが」
「いいよいいよ。本隊に合流すれば、船が奪われたことを知って動揺するでしょ。急いで引き返そうとして、ノバウラセアの守備隊に追撃されりゃいいわ」
「ハハッ、その通りだな」
「あたしとアトムが船内見てくるよ。王様は誰か一人から事情聴取しといてくれる? 着てるものからして、あっちの人が留守居役のトップかな」
「おう、任せよ」




