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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第2387話:初めてのお酒

「ごちそーさまっ! おいしかったです!」

「大満足だぬ!」


 おいしい御飯はパワーの源。

 ガルちゃんも満足そうでよかったよかった。

 イシュトバーンさんが話せよって顔をしている。

 あたしだってもったいぶりたいんだよ。

 まずは当たり障りのないところから。


「新『アトラスの冒険者』で、ヴィルとガルちゃんはエクストラメンバーって扱いになるんだ」

「ほう?」

「特別会員なんですのよ?」

「特別なんだぬ!」

「どう特別なんだ?」

「『アトラスの冒険者』はドーラの治安を担ってるじゃん? でもさすがに悪魔が人間の犯罪を裁くってのはどーかと思うんだよね」

「そりゃそうだな」


 人間側が納得いかないだろうってのもあるが、悪魔は基本的に人間の感情を摂取するものだ。

 悪感情を得るために過剰な罰を人間に与える、もしくは人間からそう見做されるようなことがあると、人間と悪魔の対立に繋がっちゃうから。


 あたしは契約ないし誓約下ならば、悪魔がメチャクチャなことなんかしないとわかってはいる。

 ただそれを人間にわからせることも証明することも難しい。

 見えてるトラブルに突入するようなことはしちゃいけない。

 違うわ! あたしはトラブルなんか求めてないわ!


「そんでヴィルとガルちゃんは、今まで通りギルドに顔を出したり依頼を請けたりしていいですよとゆー立場。これまでと違うのは、身分証を発行して新『アトラスの冒険者』が認めますってことだね」

「嬉しいですわ!」

「嬉しいんだぬ!」

「悪魔は認められることが好きだから」

「あんたほどうまく悪魔を扱えるやつはいねえな」

「そうだねえ」


 これは自慢でも何でもない。

 ヴィルが言うには、パワーの大きい人間に認められるのは悪魔にとって嬉しいことらしい。

 つまりレベルが高い人ってことなんだろうけど、あたし以上にレベル高い人なんていないだろうしな。

 おまけに今のあたしは『魔魅』持ちだ。

 あたし以上に悪魔とうまく付き合えるなんて、条件面からちょっと考えられない。


「天使にも面白い子いるんだけどさ。でも個性の面で悪魔の方がバラエティに富んでて、あたしは好きだな」

「たわわ姫には聞かせられねえことがあるんだろ?」


 イシュトバーンさんが強引に話題を変えてきた。

 焦れてきたか。

 もっとも今日あたしはイシュトバーンさんには話しとくつもりで来たんだが。


「あるねえ」

「四日後、どうするつもりだ?」

「今日の面白話はまさにそこなんだよ」

「じっくり聞こうじゃねえか」


 好奇心を隠し切れないイシュトバーンさん。

 視線だけでセクハラなんだが、本人はわかってるのかしらん?


「向こうの世界が亜空間超越移動を使えるのは今月一杯。これは向こうの世界の事情も神様の事情も絡んでるから、『アトラスの冒険者』本部の意向だけじゃ変えられないの。ここまでは決まっていると見ていい」

「おう、それで?」

「二二日に来るって早いじゃん?」

「オレもそう感じたな。理由があるのか?」

「エル奪還作戦に失敗したら、もう一度強襲をかけてくるつもりだと思うんだ」


 頷くイシュトバーンさん。

 やはり同じ結論か。


「偵察がてら作戦決行してみろってことだろ。うまくいきゃ御の字、意図した結果にならなくても、反省を生かした次がある。それ以外に考えられねえな」

「だよねえ。妥当な手段」

「トップのエルの母も、こっちの世界を実際に見たことはねえんだろ?」

「どーだろ? ギルドの正職員の面接はエルの母ちゃんがしてるんだよね。面接の場所によっては、こっちの世界を見たことくらいはあるのかもしれない。でも詳しいってことはないな。特に現場となる塔の村は、できてまだ一年にもなんないわけだから」

「そりゃそうだな。とすると……」


 無乳エンジェルは二回目が本番だという気でいるかもしれない。

 対策を打たれると苦しいな。

 こっちは向こうの技術力や対応力を知らんのだから。

 一回で勝負を決めないと。


「あたしはエルの母ちゃんが攻めてくるのを確認してから、向こうの世界に攻め込む」

「いよいよ例の管理者用の転送魔法陣の出番か」

「そうそう。こっちからも攻撃できるんだぞってことを見せつけてやれば、おそらくすぐ亜空間超越移動は禁止されると思う。『アトラスの冒険者』の転送魔法陣と転移の玉も使えなくなる」

「つまり二回目の侵攻はない、か。目的達成だな。だがつまらねえ」


 エンタメのハードルが高いな。

 二回目の侵攻がないのは、全てがうまくいけばだぞ?

 マーシャの占いが当たりますように。


「もう少し面白ポイントを足せよ」

「面白ポイントか。バアルを解放するつもりなんだ」

「ほう? 何故だ?」

「向こうの世界は『スキルキャンセラ』っていう、先制でかかって全ての魔法・バトルスキルの発動を止めてしまうスキルってのが普及してるんだそーな」

「厄介だな。が、バアルと何の関係がある?」

「今まで話してなかった気がするけど、バアルは『抑圧者』の固有能力持ちなの」

「『抑圧者』とはどんなやつだ?」

「対戦相手のマジックポイントを使用する魔法やバトルスキルの使用を禁止する能力だよ。要するにバアルがいれば『スキルキャンセラ』を完封できる」


 イシュトバーンさんのその顔は感心してるのかな?

 呆れてるのかな?


「バアルってそんなとんでもない固有能力持ちなのかよ?」

「無敵って言われてただけのことはあるねえ」

「しかもワープもできるんだろ? あんたよくバアルを捕まえられたな?」

「マジックポイントを使わないスキルには効果がないとか、効果に有効範囲があるとかの穴もあるんだよね。ちなみに黒の民のサフランも『抑圧者』持ちだよ」

「ドクロの姉ちゃんか。あの子も不思議な雰囲気がある」


 わかる。

 サフランは可愛いけど、言っちゃなんだがかなり不気味。

 イシュトバーンさんがお酒を注いでる。


「飲めよ」

「ん? じゃあ一口だけ」


 断るのも無粋なので少し口にする。

 のどの奥が熱くなる感覚。

 これがお酒か。


「いいもんだろ?」

「よくわかんない」

「ハハッ、そうか」


 イシュトバーンさんが愉快そうだ。

 あたしも二〇歳超えたら、誰かとお酒を酌み交わすことがあるのかな。


「今日は帰るね」

「次は事後だな?」

「全てが片付いたらになりそーだね」

「バイバイぬ!」


 転移の玉を起動し帰宅する。

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