第2372話:知らないイベントがあるらしい?
――――――――――三五一日目。
『御主人、パラキアスだぬ!』
『ユーラシアだな?』
「そうそう、美少女聖女精霊使いことあたし。朝早くごめんね」
朝からパラキアスさんに連絡だ。
『こちらからも連絡を取りたかったんだ。三日前連絡くれたあとに、西域にドラゴンが出たろう?』
「出た出た。午後ね。すげえ迷惑」
『ユーラシアが現場に急行して退治してくれたと聞いた』
「あたしだけじゃないけどね。たまたま後輩の『アトラスの冒険者』が、ドラゴンの出た近くの集落クルクルの出身でさ。すぐにギルドに連絡くれたの」
『四体だって?』
「うん。『逆鱗』四枚だった。内二枚はあたしがもらった。満足です」
『ソールから報告を聞いたんだ。どうやら異世界の『アトラスの冒険者』本部が関わっているのではないかと』
「マウンテンドラゴンって言う、ドーラにいない種類のドラゴンだったんだよ。バアルによると、召喚って召喚されるもののいる場所がわかってないといけないらしいじゃん? あーんどかなり洗練された術式だから、動機も考え合わせると『アトラスの冒険者』本部しかないかなって」
『間違いないな。『アトラスの冒険者』ほどエゴイスティックな組織もない』
あれ、パラキアスさんにしては珍しく個人的な感情盛り盛りですね?
成り立ちからして厄介な旧王族をこっちの世界に押しつけ、かつこっちの世界の住人を『アトラスの冒険者』のメンバーに選んで番させてるんだもんな。
エゴイスティックとゆーのもわからんではない。
あたしは多大な恩恵を受けているけれども。
「ソル君に異世界が接触してきてるんだ」
『聞いている。ダブルスパイ的な役割を担わせているんだな?』
「まあそう。どーでもいいエルの情報を大量に流してるから、それなりに信用されてるんじゃないかと思うんだ」
『ソールは真面目で信用したくなるという面もある』
よくわかる。
真面目は武器になる。
「異世界からの連絡員にソル君が怒れば、もうドラゴン送り込んでくるなんてことはできないでしょ」
『そうだな。しかもソールに脅させて、向こうの選択肢を狭めようとしてるだろう?』
「まずかったかな? もう攻めてくる期限が迫ってるから、異世界のやってくることをこっちの予測範囲内に落とし込めるんじゃないかと思うんだ」
『パーフェクトだ』
ハハッ、パラキアスさんは陰謀が大好きだから。
「向こうの世界のお偉いさんからの情報で、攻めてくるのが今月の二二日、五日後だね。『アトラスの冒険者』本部所長以下二〇人程度の規模だって。ブラフかもしれんけど、二二日ってのがありそうなタイミングだなーって思ってる」
『二二日……確か塔の村で何らかのイベントが開催される日だったな』
「え、イベント? それ知らないわ」
『イベントに紛れてというタイミングだな。おそらく一回目の侵攻は二二日で決まりだ』
やはりパラキアスさんも複数回の侵攻があり得ると見ている。
要注意だな。
パラキアスさんが決まりと言ってるくらいなら、一回目は二二日でまずまちがいない。
しかし塔の村のイベントって何だ?
まーいーや。
ドワーフから納品された転移の玉のチェックしてもらいに塔の村へ行くから、誰かに教えてもらお。
『ユーラシアは二二日、異世界に逆侵攻か?』
「そーなりそうだね。せっかく最後の転送魔法陣があるから使ってみるよ。塔の村で待機してて、向こうから人員が来たのを確認したら行ってこようかと思ってる」
『わかった。しかしイベントの日というのは嫌らしいな』
「紛らわしいよねえ」
『ある程度趣向を凝らしてくれないと面白くないが』
「あたしは面倒なところでエンターテインメントを求めてなかったな」
パラキアスさんったら、好敵手を求めるタイプなのかな?
あたしはリアリストだから、楽して勝ちたい。
ハプニングなんて好んでないって。
本当だとゆーのに。
「バアルを解放することになるんだ」
『必要な措置なんだな?』
「うん。ごめんね」
『いや、もう特に危険はないと、ユーラシアが判断しているんだろう?』
「バアルはウソ吐かない子だからね。他人に迷惑かけないって誓わせてあるし、バアル美術館でも気持ち良く協力してもらいたいから」
『バアル美術館か。イシュトバーン殿に聞いた』
「ドーラの新しい観光名所だよ。バアルからかっぱいだ美術品を中心に、イシュトバーンさんの絵や高級魔宝玉を展示すれば、外国からも人を呼べると思うんだ」
『観光客を呼ぶというのは、今後のドーラに必要な構想だろうな。夢がある』
うむ、今はまだドーラにおゼゼがないから何ともならんが、いずれは観光業をどうにかしたいのだ。
ハマサソリのビーチもあるし、亜人の協力を受けることもできる。
楽しみは先にある。
『帝国の引退文官を講師に呼ぶというという話はどうなった?』
「今日の報告のメインの用件だったわ。ルーネによると、とりあえず皆さんドーラに興味があるから、見物してみようってことになったの」
『いつだ?』
「今日の午後だよ」
『行政府に連れてきてくれるか?』
「ドーラを気に入って、働いてもいいっていう了解もらったら連れていくね」
『いきなり魔境ツアーを体験させて断れなくするんだろう?』
「バレたかー」
アハハと笑い合う。
何をやるにしてもドーラのビンボーが祟るのだ。
役人を増やしたいは増やしたいけど、人件費が重くて急にたくさんは雇えないという悲しい現実がある。
雇って育てるにしても、なるべく即戦力に近いくらいにまで前もって教育しておきたい。
貿易での手数料収入を見込んで、少人数ずつ投入するということになるな。
政府事業による確実な収入が欲しいんだけど、何とかならんものか?
とにかくオルムスさんの代わりが務まる人材を早めに育成しないといかん。
「今からお肉を狩って聖火教の礼拝堂あるところの集落行こうかと思って」
『新『アトラスの冒険者』のメンバーに、聖火教から出せという話か?』
「うん。ドーラのスーパーヒロインは大変働き者です」
給料が出ないことはわかってるってばよ。
「パラキアスさん、じゃーねー」
『また楽しい連絡を楽しみにしているよ』
「オーケー、期待してて。ヴィルありがとう。こっち戻ってきてね」
『はいだぬ!』
さて、聖火教の本部礼拝堂に行くか。




