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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第2368話:真珠

「……」

「クララ、そこのゴツゴツした岩場だって」

「はい」


 フワリと着地、とっても美味いんじゃないかと思われているウニの魔物がいる小島にやって来た。

 ごちそーはどこだ?


「島というより岩の塊だねえ。船で近付くの危なくない? ぶつけて壊れそう」

「……」


 ウニの魔物に挑むほどの者なら、地形や潮の流れは熟知しているものらしい。

 おいおい、血気に逸った若者が腕試しに挑むだけじゃなくて、ベテランの漁師さんが倒そうとする魔物なのかよ。

 どんだけ美味いんだろ。

 期待値が上がるなあ。


「……ユーラシアさん」

「気配があるね」


 魔物は一体しかいないようなので、まだかなり距離があるが気配を探りやすい。

 向こうもこっちのことを察知して敵認定したようだ。

 敏捷性はないんだろうが、どうも遠距離攻撃を持っているらしい?

 要注意だな。

 ゆるゆると近付く。


「……」

「棘を飛ばしてくる? へー、そんな攻撃があるのか。長い射程の攻撃を持ってるっぽいなとは思ったけど」

「……」

「返り討ちに遭った人は皆、棘に撃退されたのか。じゃあ結構な数を飛ばしてくるんだねえ」

「……」

「オーケー。今までウニの魔物が逃げたことはないんだね? やりやすい」


 うちの子達がほんとにそれ通じてるのかよって顔してるけど、話できてるとゆーのに。

 無口父ちゃんは声こそ出さないけど雄弁だとゆーのに。

 おっと、敵の姿が見えてきたぞ。

 なるほど、見かけはクリのイガっぽいな。

 直径は肩幅の倍くらいあるけど。


「ぜんたーい、止まれ! これよりは近付かないでね。やつがメッチャ警戒してる。攻撃の届く範囲に入りそう」

「はい」「……」「わかったぬ!」

「クララ、あれ何て魔物かわかる?」


 首を振るクララ。

 ふむ、『魔物図説一覧』に載ってないやつか。

 新種なのかレアなやつなのか。

 そんなことより楽しみは味の方だ。


「じゃ、予定通りに」


 一触即発だ。

 一歩踏み込んでレッツファイッ!

 ダンテの豊穣祈念! ウニの針千本! 全員がダメージを受ける。あたしの雑魚は往ね! よーし、効いた! ウィーウィン!


「レベル上がりました!」

「じゃあ経験値高いやつかな? リフレッシュ! 残念ながらドロップなしと。ウニってどこが食べられるんだろ?」

「……」

「中身か。クリと一緒だな」


 一刀両断で真っ二つ、中身をいただくというのがセオリーか。

 でもあの距離から棘を飛ばしてくるんじゃ、普通に考えると魔法で対抗したくなる。

 殻硬そうだし、ズタボロにせずに倒すってかなり難しいと思うぞ?

 特殊なスキルが必要。


「ウニを持って撤収するよー」


 新しい転移の玉を使用して仮面女子の屋敷に戻る。


          ◇


「うまーい!」


 先ほどの獲物のレアウニの魔物をいただいている。

 殻が硬くて割れなかったので、クララ先生の必殺包丁にお願いした。

 何じゃこれ?

 海を感じる甘み、とろける食感がたまらん。

 御飯既にかなりいただいてたのに、もっと食べたくなっちゃう。


「実に美味いぜ」

「世の中にはまだまだ知らないごちそーがあるんだなー」

「……」

「ウニは新鮮なほど美味いのか。じゃあ他所では食べられない味なんだねえ」


 ルーネやうちの子達も一心不乱に食べている。


「魔物じゃないウニもこれほどじゃないけど美味い。ブラウンシュヴァイクの名物か。わかる、この味知ったらまた食べたくなるわ。街道開通で他領の人がたくさん来るようになったら、ウニは美味いってすぐ広まるね」

「……」

「でも一匹獲れたらたくさん食べるところあるじゃん」

「……」

「ふつーのウニはあんなに大きくない? そーなんだ?」


 ちょっと誤解してたが、ふつーのウニはマジでクリのイガくらいの大きさらしい。

 今の魔物の半分くらいの大きさはあるのかと思ってた。

 おまけにガツガツ食べるもんじゃないらしい。

 滅多にない体験ができてよかったけれども。


「ごちそーさま。ウニって養殖できないのかな?」

「……」

「海藻や野菜を食べるなら養殖できそうだね。でも今は市場規模がないのかー。新鮮なうちに食べなきゃいけないんだと、売り込むのが難しいな」

「保存できる加工品にできれば、他所でも売れるぜ。新鮮なやつはブラウンシュヴァイクで食べられる。メチャクチャ美味いって煽ってよ」

「ウニの加工品か。旨みが凝縮されたらとってもイケそーだねじゅるり」

「……」

「塩漬けしたやつはまあまあ美味いって」


 ウニの美味さを皆に教えてあげたい。

 やりようがあるのは今後の楽しみだなあ。

 ん? 仮面女子の父ちゃんが立ち上がって箱を持ってきた。


「……」

「お礼にくれる? 気を使わなくたっていいのに。開けていい?」


 くれるものはもらうのがあたしのやり方けどな。

 パコッと蓋を開く。


「えーと、宝石?」

「真珠の一種だぜ。ピンクのものは珍しいな」

「帝都の貴婦人の間で真珠は大変珍重されるんですよ。真珠は貝の中で見つかると聞きましたが」

「真珠って貝が作る石なんだ?」

「……」

「貝が作るかどうかはわからない。食用で採った貝の中に稀に見つかるから、幸運の宝石とか奇跡の宝石って呼ばれてるのか。へー」


 いや、貝殻って硬いし、殻の中身が光って奇麗なやつあるな。

 つまりその手の貝にはキラキラしたものを作る能力があって、たまたま何かの拍子に丸く固まったやつが真珠って呼ばれるんじゃないかな?


「これ、何の貝から出たかわかる?」

「おい、何考えてんだよ?」

「殻の内側がテカテカしてる貝ってあるじゃん? そーゆー貝で真珠は作られるのかなって」

「……」

「やっぱそーか。真珠の成分と真珠を作る貝の殻の内側の成分が同じかどうか、魔道研究所なら調べられるかな?」

「独走すんな。説明しろよ」

「成分が一緒なら、ある種の貝は真珠質を作る能力を元々持ってるってことだよ。貝がどこからか見つけて後生大事に抱えてる石じゃない。なのに真珠が稀にしか見つからないのは、何かの偶然が関与してるんだと思う。逆に言うとその偶然を人為的に起こせるなら、真珠は量産できるかもしれない。幸運や奇跡に頼らなくてもさ」

「ユーラシアさん、すごいです!」

「ハッハッハッ、ぼろ儲けの気配だ!」


 真珠は需要があるようだ。

 腐らないから特産品として最適。

 さっきの真珠と殻をもらってと。


「ありがとう。ためになった。また来るね」


 新しい転移の玉を起動して一旦ホームに戻る。

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