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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第2366話:仮面女子の絵

「どれがいいでしょうか?」

「随分たくさん持ってるんだね?」

「趣味ですから」


 何がって仮面の話だ。

 絵を描かせてもらうためにどの仮面がいいかという話になったら、メッチャたくさん出てきた。

 ルーネと、何故かヴィルも興味あるみたい。

 じーっと見てるわ。

 イシュトバーンさんが蝶みたいなデザインの一つを選び指示する。


「右手で掴むようにして顔の左にずらしてきてくれ。ストップ。その位置をキープするんだぜ」

「はい」


 さらさらと描き始めるイシュトバーンさん。

 なるほど、バストアップで描くらしい。

 バストアップって上半身のことな?

 いやでも形のいい胸どうこう言ってたから、サイズもバストアップするかも。

 ルーネが感心している。


「格好いいポーズですね」

「イシュトバーンさんは格好良く美しく描くのに懸けてるからねえ。ポーズはいつも前もって考えてるみたいなんだよ」


 初見で描かせてもらう時以外は。

 イシュトバーンさんも拘りがある人だからなあ。


「仮面も格好いいですよね」

「格好いいんだぬよ?」

「あれ? あんた達は仮面が好きなの」

「自分じゃない自分を演じられる感じですよね。素敵です」

「仮面のわっちと仮面じゃないわっち。二重でお得ぬよ?」

「おおう、随分と強欲なことを言い始めたぞ?」

「御主人ほどではないぬ!」


 アハハと笑い合う。

 可愛いやつらめ。

 ヴィルとルーネをぎゅっとする。

 ん? 仮面女子の父ちゃんは聞きたいことがあるようだ。


「……」

「イシュトバーンさんがただの絵師には見えない? 元々はドーラ一の商人だったんだ。今は引退してるけど」

「……」

「修羅場を潜ってそう? イシュトバーンさんはさほどでもないと思う。だけどドーラは魔物の多い土地だから、あちこち巡ってるとレベルもある程度必要なんだよね」

「……」

「うん、ビックリした。この辺は海の魔物がいるんだって? 漁師さんも大変だねえ」

「……」

「いや、ドーラの近海は魚人の領域だから、漁業は発達してないの。港も一つしかなくて、そこから外洋に出ることを認められてるだけ」

「……」

「陸生の魔物はドーラにはメッチャ多いね。ドーラでお肉は骨皮付きでその辺を歩いてるものだと言われているんだよ。言ってるのあたしだけだけど」


 アハハと笑い合う。

 ルーネが感心しているね。


「よく会話になりますね」

「そこは注意力だぞ? 仮面さんのお父ちゃんの場合は目が訴えかけてくるよ」

「……」

「冒険者ギルドは失敗すると思ってた? まあねえ。戦闘向きの固有能力持ちを集めるってのはいい考えではあるけど、ちょっと仮面さんの見切りが甘かったね。でもレベルの高い人が一人いりゃ、放っといてもものになりそうではあったよ」

「……」

「感謝なんていいんだぞ? お父ちゃんもギルドが失敗しそうだったら、レベル高い人を送り込んでくれる気だったんでしょ?」

「……」

「わかるってば」

「……」

「べつに仮面さんが結婚したって、冒険者ギルドは続けて構わないと思うけどな? 結局働くのはギルドのメンバーであって、仮面さんが自ら出張るわけじゃないし」

「……」

「いや、漁師さんも聞いてるかもしれんけど、武装できる人員の数には法律で制限があるんだよ。だから際限なくギルドが大きくなっちゃうことはないの。ルイトポルトさんは二〇人が上限って言ってた」


 大分描けてきたな。

 そろそろ謎の色気が加味されてくる頃だ。


「……」

「ルイトポルトさんに聞いたのかな? 聖モール山越え街道はあたしのおかげってわけでもないんだ」

「……」

「帝国本土北西部の再開発ってのは、大きいテーマでさ。もちろんやりようは色々あるんだけど、労少なくして利を多くしようと考えると、やっぱ山越え街道を利用しての交易なんだよね。昔からゼムリヤのメルヒオールさんがやろうと思ってたみたいだよ。でも地方領主が力を持つことは、中央政府から見ると好ましいことじゃないらしくて」

「……」

「うん。地方の実情が施政館には見えてない。でもカレンシー上皇妃様やザビーネさんが先帝陛下に嫁いで。逆に双子皇子がそれぞれザイフリート侯爵家とキルヒホフ伯爵家に縁付いて。それで初めて山越え街道再開通を政府にも認めさせる環境が整ったって感じなんだ」

「……」

「強烈なウリがないとムリだなー。魚だけじゃ人は呼べない。でも今後ブラウンシュヴァイクは、帝国本土北西部からものが集まる交易地として発展するじゃん?」

「……」

「あるある。内陸の地方領に魚売り込むチャンスだと思うよ。加工品の開発を推奨する」


 チラッとイシュトバーンさんの方を見たら、絵はもう少しっぽい。

 親父さん全然喋ってねえじゃねえかって顔してるけど、何言いたいかくらいわかるってばよ。

 ユーラシアさんだぞ。


「……」

「仮面さんのお相手? どーだろな。漁業の方の力関係は知らんけど、仮面さん自身が冒険者ギルドっていう交易に関わることを始めてるじゃん? 商業関係の有力者の子弟がお相手としていいと思うけど」

「……」

「貴族を婿に迎えて繋がりを得たい? 全然ありだぞ。チョップ男爵家には年回りのいい人いないみたいだけど、近隣の領主の次男三男とかでよさそーな人リストアップしといてよ。新画集が早速役に立つわ」

「……」

「あたしは美しくて可愛くてまさに聖女で頼りになるって? まあそんなことあるよ」

「そんなこと仰ってませんよね?」

「何でルーネはこんな時ばっかりわかるのかなー」

「バレバレだぬ!」


 爆笑。

 楽しいなあ。

 仮面女子のお父ちゃんも、こんなに楽しく会話できたのは初めてだって顔してる。

 皆が顔色を伺おうとする?

 そりゃ仕方ないと思うぞ?


「よし、描けたぜ。仮面の姉ちゃん、ありがとうな」

「いえいえ、こちらこそありがとうございました」

「どらどら?」


 安定のイシュトバーンさんのえっちな謎絵。

 今回はおっぱいかと思いきや、唇ぷるんに焦点を合わせてきたぞ。

 仮面女子は唇が魅力的だったのか。

 こうして改めて見ると、イシュトバーンさんは見る目あるよなあ。


「……」

「素晴らしいって? イシュトバーンさんの絵は何でこうなるのか、理屈がわかんないところがすげえ」

「私も楽しみです!」

「ルーネは表紙だから多分最後だぞ」

「……」

「お昼御飯食べてけって? やたっ! ありがとう!」


 計画通りだ!

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