第2364話:仮面女子の家へ
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
帝国北西部の町ブラウンシュヴァイクの冒険者ギルドにやって来た。
飛びついてきたヴィルルーネクララをぎゅっとする。
仮面のギルドマスターがウズウズしているね。
ハグしてやるからこっち来いぎゅー。
イシュトバーンさんが言う。
「おい、それを描かせろ」
「毎回言うなあ。楽しみは取っときなよ」
今日のイベントは、仮面さんのお父ちゃんを説得するのが先だとゆーのに。
絵を描くとこまでいけるか、まだわかんないんだからな?
「はあはあ、気分が高揚します!」
「そーなの?」
あたしのハグが人間に対してどういう効果があるのか、実はよく知らない。
『閃き』の感覚が共有されるから気分がいいのかな、とは思ってるけど。
仮面女子が聞いてくる。
「そちらが?」
「精霊のうちの子達だよ。精霊は普通の人と喋んないけど、あんまり気にしないでね」
「こちらが?」
「先帝陛下の第二皇子ドミティウス殿下の娘ルーネロッテだよ」
「「「「「「ええっ?」」」」」」
「あたしが皇族を連れてくることがあるとゆーのを、まだ理解してないのか。学習能力のないやつらめ」
「学習能力がないぬ!」
「あんたに全然敬う気配が見られないから、皇女様だと思わなかったんだよ!」
アハハ、あたしのせいにしちゃって。
あれ? 何だかギルメン達が皆テンション高いな?
嬉しそう。
「領主様から武器が下げ渡されたんだぜ」
「これで護衛の仕事や魔物狩りができます!」
「そーだったか。よかったね。あたしからも一つプレゼントしよう」
ナップザックから一枚のカードを取り出す。
「何だ? ああ、あんたが使ってる不思議な装備品だな?」
「パワーカードね。その内の『ホワイトベーシック』ってやつだよ。これ装備してると回復魔法『ヒール』と治癒魔法『キュア』が使える」
「えっ? 装備してるだけで誰でも魔法が使える?」
「誰でも魔法が使えるね」
注目が集まるなあ。
やはり魔法が使えるということには興味があるか。
『ホワイトベーシック』はどこでも人気者。
「ギルドでケガを安価で治療しますってことにすれば経営が安定するでしょ。『白魔法』君がいるのは知ってるけどさ。『白魔法』君がお仕事で出の時もあるし、逆に『白魔法』君が留守番の時に出のメンバーが持っていってもいい」
「そうですね」
『白魔法』君がマジックポイント切れでマジックウォーターを持ってないってこともなくはないし。
そんなギリギリのことはあっちゃいけないけどな。
「これ高いんじゃないですか?」
「多分想像するほどではないな。ドーラでのお値段は一五〇〇ゴールド」
「「「「「「一五〇〇ゴールド?」」」」」」
驚く皆さん。
コストパフォーマンスがバカげているのはわかる。
輸出品にしたいのは山々だけど、パワーカード職人の数が全然足りないんだよな。
まあいい、職人の数はいずれ増えるだろう。
こーやってこまめに『ホワイトベーシック』を配って存在を認知させておけば、いずれバカ売れさせることができるんじゃないかな。
「ただマジックアイテムと同時に使うと、効果が干渉しちゃうことがあるそーな。もし魔法の装備品なんかを手に入れたら気をつけてね」
「わかった」
「仮面さん借りるね。行こうか」
◇
「で、お父ちゃんはどんな人なん?」
仮面女子とイシュトバーンさんノアルーネ及びうちの子達で港へ行く途中だ。
仮面女子のお父ちゃんよりどんな魚が獲れるのかの方がずっと知りたいけれど、あたしも雰囲気の読める子ではあるから。
「頑固ですのよ」
「頑固かー。この前から厳格とか頑固とかのワードしか出てこないじゃん」
「おまけに無口で、俺の言いたいことを察しろみたいな雰囲気があるんです」
「おい、どうするんだ? 説得できるのか?」
説得できなきゃ画集のモデルの当てが減ってしまう。
あーんどイシュトバーンさんの右手の疼きが止まらない。
「実際に会ってみなきゃわからんってば。でも仮面さんのお父ちゃんでしょ? 子は親に似るもんだから、大丈夫だと思うけどな」
「ユーラシアさんは何か対策を考えているのですか?」
「いや、お昼にどんなお魚を食べさせてくれるのか気になって気になって、それどころじゃなかった」
だから今少しでも予習しとこうかと思ってるんだよ。
「港ですよ」
角を曲がって急に視界が開けた。
潮の香りと磯の香りが海の近さを感じさせてはいたけれども。
活発に人が行き交っているな。
漁業がブラウンシュヴァイクの主要産業なんだということがよくわかる。
「思ったより立派な港だった」
「帝国本土西海岸では有数の港なんですよ。漁船だけじゃなくて、ゼムリヤや南方へも船は出ていますしね」
「へー」
海運が利用できるのはいいなあ。
近海が魚人の領域であるドーラでは考えられないことだ。
もっともドーラではレイノスにしか港がないことを逆用しているところもあるけれども。
「あれ?」
「ん? どうした」
「ちょっと違和感が」
レベル高めの人が多い気がする。
あ、船乗りや漁師さんっぽい人達がそうみたいだな。
何でだ?
仮面女子が説明してくれる。
「ブラウンシュヴァイク近辺の海には魔物がいるんですよ。魔物退治の機会があるとレベルも上がるということだと思います」
「魔物の恩恵だったか。シーサーペントとかクラーケンとか出ちゃう?」
「そんな伝説級の魔物は出ないと思いますけど」
クラーケンはともかく、シーサーペントは伝説級じゃないだろ。
でも小さい漁船がシーサーペントに遭遇したら、船ひっくり返されたり壊されたりしそう。
好戦的だからな。
さすがにヤバい魔物が出るような場所で漁業が発達することはないか。
「固有能力だけが大切なんじゃないぞ? 冒険者にはレベルが必要だってわかりきってるんだから、強そうな人をギルドにスカウトすればよかったじゃん」
「レベルの高い人はちゃんとした正業に就いてますってば。冒険者になろうなんて酔狂は起こさないのです」
「そーかー。さすがに仮面さんの魅力でも、正業に就いてる人を引っ張ってくるのはムリかー」
「えっ? 私の魅力?」
照れるな。
仮面女子は十分に魅力あるとゆーのに。
でなかったら画集モデルに誘ったりしないとゆーのに。
「ここが私の家です」
着いたか。
有力者だけあって大きな家だなー。




