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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第2362話:ささやかな潤いをちょうだい

「サイナスさん、こんばんはー」

『ああ、こんばんは』


 夕食後、毎晩恒例のヴィル通信だ。


「今日はサイナスさんお待ちかねのシンカン帝国のイベントでした」

『本当に待ちかねたんだよ。どうなった?』

「メインイベントの前に。シンカン帝国って、『世界最大のダンジョン』っていうクエストの転送先なんだよ」

『そういえばそういう設定だったな。忘れかけてたが』


 設定って。

 いやまあ単調なダンジョンよりウタマロ繋がりの方が、話が大きくなってって面白かったけれども。


「ウタマロとかサヨちゃんの話は正規ルートじゃなくて、ダンジョンのクエストを何とかしなさいっていう建て前なんだよね」

『それで?』

「『世界最大のダンジョン』のクエスト完了しました! パチパチパチ!」


 これは『アトラスの冒険者』として、最後のクエスト完了になるんじゃないかな。

 ぴー子の巣立ちが今月中に間に合えば、モイワチャッカの『傭兵』クエストも完了するかもしれない。

 でも早く巣立って欲しいわけでもないし。

 もうちょっと甘えてくればいいよ。

 『アトラスの冒険者』廃止で切ないあたしのハートを温めておくれ、なんちゃって。

 

『シンカン帝国の皇位継承に関する話はお預けか?』

「でもないんだけど、あとにしてくれる? 物事順序があるじゃん。まずはシシカバブの話から」

『シシカバブ?』

「シシカバブじゃなかった気がする。何て名前だったかな?」

『サッパリわからない』


 ただの寄り道だってばよ。


「『世界最大のダンジョン』には、小の試練中の試練大の試練ってのがあってさ」

『イベントか? ユーラシアの好きそうな』

「イベントとゆーほど盛り上がらなかったな。まあ単調なダンジョンクエストを彩るアクセントみたいなもんではあった」

『ふむ? どうせ試練と言うほど試練じゃないんだろう?』

「試練って何だっけな? ちょっと意味がよくわからないけれども」

『辞書を引きなさい』

「ぐう……」

『こら、寝るな!』


 アハハ、一連の掛け合いです。

 『アトラスの冒険者』廃止でぽっかり胸に穴が開きそうなあたしに、ささやかな潤いをちょうだい。


「今日最後の大の試練をクリアしたってこと」

『ほう? どんな試練だったんだ?』

「ライオンが寝そべってるんだよ」

『倒してお終いか? いや、君のクエストがそんなつまらないわけはないな』

「かなりのエンタメ察知力だね。そのライオンってのが、向こうで古の大魔道士って呼ばれてる人のなれの果てでさ。一部の高位の魔物は魔力濃度の高いところならば、食べたり飲んだりしなくても生きていけるじゃん?」

『そうらしいな』


 魔物の不思議なところだが。

 逆に魔力濃度の低いところでは生きていけない魔物もいる。


「不老不死を目指した古の大魔道士が、魔力さえあれば生きていける魔物の皇帝獅子に、自分の精神を移したんだそーな」

『精神を移すなんてことができるのか。驚異の魔道技術だ』

「確かにねえ。魔境にいるリッチーも似たようなもんだって聞いたことあるな」


 あれは肉体を魔力だけで生きていけるように変質させたんだったかな?


「ここからがバカな話なんだけどさ。洞窟最深部の魔力濃度の高いところにいれば、皇帝獅子の身体はずっと生きていけるらしいんだ」

『不老ということか』

「でもライオンになっちゃったから人と喋れない。元に戻そうとしても、ライオンの手足じゃ何もできないってことで、ただ寝そべって変化を待ってたみたいな」

『何だそれ?』

「光り輝く聖女が颯爽と現れて変化をもたらしたわけよ。ライオンは感謝を込めて言いました。がうがうがうと」

『ちょっと面白い』

「で、聖地のマスコットとして町にいることにしたみたい。不老じゃなくなっちゃうんだけどさ」


 聖地シンカンのライオンだもんな。

 人気者になる気がする。


『そのライオンって、君としか意思疎通できないんだろう?』

「どーかな? 元人間だからこっちの言ってることは完全に理解してるよ。根性があればライオンの言ってることもわかるような?」

『えぐい根性論』

「愛情を持って接すれば向こうの言ってることもわかるような?」

『形を変えた根性論』

「ええ? そんなことないって」


 ここまでは前フリだ。


「お待ちかねのサイナスさんの知りたがってた皇位継承権とか、そーゆー生臭い話だけれども」

『生臭いから好きなわけじゃないからな?』

「シンカン帝国の皇位継承権保持者は、金銀銅の三つのランクがあるんだそーな。金の皇位継承権保持者は現皇帝の正妃から誕生した男児と、女児の配偶者。銀は側妃系の皇子と皇女の配偶者、その他皇族については銅って感じ」

『なるほど。それで金の皇位継承権保持者が継承順位が高いということだな?』

「そうそう。面白いのは、同じ金のランクなら皇位継承順位に差がないってところ」

『つまりユーラシアが推してるウタマロ氏は?』

「次代の皇帝の最有力候補の一人ってことだよ」

『おお、ドキドキするなあ』


 これはマジで。


「金の皇位継承権保持者は何人いるんだ?」

『皇帝の継室に皇子と皇女が一人ずついるんだそーな。だからウタマロを合わせて三人だね。でも継室系は支持を皇子に一本化してくるだろうから、実質はその皇子とウタマロの一騎打ちになる模様』

『ウタマロ氏は優秀な人なんだろう? チャンスじゃないか』

「チャンスと言えばチャンスなんだけどさ。サヨちゃんによるとその異母弟皇子も可愛くて賢いんだって。皇太子最有力候補だと考えている人が多いんだそーな」

『……ははあ、都からの距離が厳しいと』

「距離はあたしの転移で何とかするにしても、都での人脈がないのは厳しいね」

『結局本人の能力より、どれだけ支持があるかで決まるだろうしな』

「地方の諸侯へ挨拶回りしようかっていう案が出てるから、来月になったらまた行こうかと」

『来月?』

「聖地ったってド田舎だもん。情報が集まってくるの遅いんだよね。ある程度目星ついてから動こうかと思って」


 今月末は異世界が攻めてくるから予定入れたくないっていう、こっちの事情もあるけど。


「面白くはなってきたよ。サイナスさん、おやすみなさい」

『ああ、御苦労だったね。おやすみ』

「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」

『はいだぬ!』


 明日は仮面ギルマスの実家へお邪魔する日か。

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