第2360話:『光る石』スタンドとのコラボ
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
『ミヤネヤ商店』を覗くと、ヤヨイちゃんいたいた。
商売人の抜け目ない笑顔だ。
頼りになるなあ。
「おや、ユーラシアかい? ルーネロッテ様、マイケ様もようこそ。そちらの紳士は?」
「ペルレ男爵家当主のゴットリープさん。マイケさんの父ちゃん」
「これはこれは、ようこそいらっしゃいました」
「うむ、世話になる」
おっぱいピンクブロンドはやはりこの店に時々来てるみたいだな。
領では凛々しい系だけど、帝都社交界ではセクシー系。
さらに私生活では可愛い系の三刀流のようだ。
アンテナ広げてるなあ。
ヤヨイちゃんが、どういうことだい? って目でこっちを見てくる。
うん、焦らない焦らない。
ヤヨイちゃんの力を借りたいのだ。
「ヤヨイちゃんの意見を聞きたくてさ」
「新聞記者がついて来てるのも関係あるのかい?」
「あるある。ペルレ男爵家領で、新しい産業としてガラスを始めたの」
「ガラス? 帝都で生活用品としてのガラスは足りているよ。他所から持ってきたところで、船賃の分だけ不利だと思うけどね」
「おおう、いきなり商売人らしいシビアな意見が出たな。さすがはヤヨイちゃん」
しかしビシッと言ってもらえるとありがたい。
やはり日用品としてのガラスを帝都に持ち込んで、ってのはムリらしいな。
やや憮然とした表情を見せるゴットリープさんとおっぱいピンクブロンド。
勝負はこれからだとゆーのに。
「勝ち目があるとすると芸術ないし高級品方面だね」
「だよねえ。そこでじゃーん! 『かわいいあくま』シリーズ!」
「ほう?」
ヴィルとガルちゃんの絵の描かれたコップを取り出す。
手に取ってしげしげと眺め回すヤヨイちゃん。
よしよし、気に入ってもらえたようだ。
「いいじゃないか」
「ヤヨイちゃんもいいと思うか」
「ああ。厚手なのが少々野暮ったいかと感じたけど、キャラ絵と相まって味になっているね。手に馴染みやすいし」
「実用面でも厚手なのは意味があると思うんだ。中に入れたお茶とかが冷めにくいじゃん?」
「冬用ということかい? だったら薄手の夏用があってもいいね」
アイデアは出るなあ。
可能かどうかは置いとくとして、商品展開として考えておかねばな。
「今第一弾として、うちのヴィルとその友達のガルちゃんがモデルのやつが出てるんだけどさ。評判良ければ他の悪魔にも協力してもらおうかと思って」
「実在する悪魔に? そんなことができるのかい?」
「できる」
「コレクション性があるということか。実在の悪魔をモデルになんてユーラシアにしかできないことだろうし、差別化はできるね。悪魔とは皆モデルに適しているのかい?」
「個性はあるけど皆大体ヴィルくらいのサイズで可愛いよ」
ヤヨイちゃん結構乗り気やんけ。
いいぞいいぞ。
「うちでもぜひ店頭に並べておきたいね」
「やたっ!」
「おいおい、うちは小さな店に過ぎないよ。売り上げには大して貢献できないと思うけど」
「ヤヨイちゃんとこは流行の発信地だからね。ヤヨイちゃんが認めたっていう実績が欲しかったわけよ」
「それで新聞記者を連れてきたのかい? うちの宣伝もしてくれよ」
「もちろんだってばよ」
『ケーニッヒバウム』のピット君は敏感だ。
『セレシアン』関係で、ヤヨイちゃんと『ミヤネヤ商店』を無視できないと思う。
『ミヤネヤ商店』で話題になった商品なら、必ず食いついてくるはず。
商売人の目になるヤヨイちゃん。
「ゴットリープ様。『かわいいあくま』シリーズは、現在コップだけですか?」
「食器だけだと聞いている」
「あれ、何かまずい?」
ヤヨイちゃんの表情が曇ってきた。
「ガラスの一番の特徴は透明なところだろう?」
「そーだね」
「コップならいいんだよ。特に薄い色の飲み物とガラス、ワンポイントのキャラ絵は映えると思う」
「そーか、他の器じゃ悪魔絵が生きにくいのか」
「例えばスープを飲み終わった時にキャラ絵が顔を出すサプライズなら、ガラスより陶器の方が向いてるだろう?」
ヤヨイちゃんの言う通りだ。
ならば?
「『かわいいあくま』シリーズを前提で行くなら、ガラスに拘るべきじゃないね。陶器でも木工品も金属でも、製品に適した材料を使うべきだよ」
「大いに考慮すべきだね。じゃあガラスを売るために『かわいいあくま』シリーズを用いるとするなら?」
「コップはいいね。文句なしで合格。『かわいいあくま』の小さな置物があれば、うちの客層なら売れるね。文鎮、ペン立て、香油入れ、花器、そういうものは向いてるだろうよ」
「さすがヤヨイちゃんだなー」
ゴットリープさんとおっぱいピンクブロンドが真剣。
『かわいいあくま』シリーズを陶器や木工品に広げるのも有望だけど、結果が出るのは先になるだろう。
当面はガラスを売り込みに行くはず。
ガラス産業が本線だもんな。
「キャラ絵とは関係なくなるけど、透明であることは光と相性がいいんだよ」
「ふむふむ」
「蝋燭の光を柔らかく通すガラスのカバーなんて素敵だけど、煤がついちまうだろう? 過去にそういう商品はあったが、人気はなかったね」
「あ」
「おっ? ユーラシアは心当たりがありそうだね」
ヤヨイちゃんに目敏くチェックされてしまった。
こんなところで披露する気はなかったが、プリンスルキウスが皇帝になって帝国がこれ以上軍拡に走ることはない。
広く開示して便利な世の中を目指すべきかもしれないな。
ナップザックからそれを取り出す。
「こういうものがあるんだ。『光る石』スタンド」
「『光る石』スタンド? あっ、手に持ってなくても光る?」
「試作品なんだけどさ。身体の中の魔力をスタンドに溜めて、『光る石』を手で持ってなくても五時間以上光らせることができるっていうアイテム」
「夜に本読む時にいいですね」
『光る石』スタンドを先に普及させて、読書にいいよって手もあったか。
「ユーラシアさんが考えたんですか?」
「うん。あたしは夜よく寝る派だから必要ないんだけど、うちの精霊クララが欲しがって」
「恐れ入ったね。いくらだい?」
「まだドーラでも売ってないんだ。あたしが贈答用として配ってるだけ。試作品ではあるけど数はあるから皆にあげるよ。製品化したらガラスカバーとコラボして売ろうか?」
「「ぜひ!」」
これは有望だろう。
楽しみだ。




