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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第2359話:売り込み

「ペルレ男爵家領のガラスをブランド化したいのだ。まず『かわいいあくま』シリーズで知ってもらうことから始めたい」

「うんうん。順当、正攻法だね」

「ふむ、ユーラシア殿は正攻法と見るか。技術や品質よりもデザインを前面に持ってくることを、我は奇策と見たのだが」


 ゴットリープさんとおっぱいピンクブロンドルーネとともに、ヤヨイちゃんのファンシーショップに行く途中だ。

 ヴィルはいつものようにあたしが肩車している。


「お客さんに見てもらうことが一番。使ってもらって初めて良さがわかって、評判とかブランドとかはさらにあとだからね」

「しかしそれでも店頭に置いてもらわねば……」

「目利きの商人さんならもののいい悪いはわかるだろうけど、それだけじゃん?」

「どういうことだ?」

「どんなものが流行るかは、商人さんじゃわからないってことだよ」

「ふむ?」

「つまりペルレ男爵家領のガラス器はクオリティだけじゃないじゃん? そのプラスアルファの部分を商人さんでは見極められない」

「『かわいいあくま』シリーズの可愛さのことですね?」

「そうそう。メッチャ可愛いと思う」

「可愛いぬよ?」

「その辺をプロの目で判断してもらおうってことだよ」

「「「ユーラシアさん!」」」


 おっ、新聞記者トリオだ。

 しめしめ。


「ルーネロッテ様、ゴットリープ様、マイケ様、こんにちは」

「皆さんはどこへ行かれるんですか?」

「記者さん達いいところに来たね。ヤヨイちゃん家行くんだよ」

「『ミヤネヤ商店』ですか? 意外ですね」


 まあわかる。

 ゴットリープさんみたいな偉丈夫を連れてファンシーショップってのは、メッチャ違和感あるわな。


「ゴットリープさんとこの領地ではガラス産業を興しているんだよ」

「ガラス産業、はい」

「関心が薄いね。ゴットリープさんマイケさん、ガラスと聞いた一般人の感覚はこんなもん。全然ピンときてないでしょ?」

「そうだな」

「ガッカリです」

「これを導入したら社会のありようが変わるとか、メッチャ美味くて食べないと損とか。そーゆーもんだったらすぐ情報が広まると思うし、市民の興味も引けると思うよ。でも残念ながらガラスは、世の中に革新をもたらす類のものじゃない」

「確かに。しかしいいものなのだがなあ」

「パッと見でいいものだとわかんないんだって。でもハイテンションガラス職人イーナさんはいい仕事した。チャーミングっていう付加価値を加えたからね」

「「「チャーミング?」」」


 よし、新聞記者トリオが食いついた。


「さっきのガラスのコップ見せてあげてくれる?」

「うむ、これだ」

「ああ、これはいい。ヴィルちゃんがモデルなんですね?」

「奇麗で可愛いじゃないですか」

「ゴットリープさんが売り出そうとしてる『かわいいあくま』シリーズね。第一弾としてヴィルともう一人ガルムっていう狼頭の悪魔がモデルになってるの」

「こっちがガルムですか。わんちゃんじゃないですか」

「そうそう。まるで子犬。でもそれ本人に言うと、わんちゃんじゃないのですわっ! って怒るから注意ね」


 アハハ。

 ガルちゃんもこんなところで笑われてるとは思うまい。


「『かわいいあくま』シリーズだけがウリってことじゃないんだけどね。これあたしがゴットリープさんに初めて会った時にもらったやつ」

「あっ、シャープで美しいですね」

「切子細工だ」

「もちろんいろんな売り物があるんだよ。今一番力を入れてるのが『かわいいあくま』シリーズってことで」

「『かわいいあくま』シリーズは本物志向なんですか?」

「うん。今後出るラインナップも、実際の悪魔にモデルになってもらおうと思ってる。あたしが全面協力で」

「悪魔は皆可愛いんでしたっけ?」

「大体五歳児くらいの大きさだね。強大な魔力をコンパクトな身体に凝縮することができてこそ、最高位の魔族の証なんだそーな」

「ああ、以前聞きましたね。悪魔に協力してもらうことは可能なんですか? 一筋縄ではいかないような気がしますが」

「まー悪魔も個性色々だから、中にはわからずやもいるかもしれない。でも基本的に自身にメリットのあることは乗ってくるよ。あたしの知ってる悪魔は二〇人近くいるけど、全員説得する自信あるな」

「これ悪魔にはどういったメリットがあるのでしょう?」

「ヴィルの言った理由が振るってたよ。記者さん達に教えてあげてくれる?」

「はいだぬ。『かわいいあくま』シリーズのガラス工芸品が世に出るなら、悪魔の認知度は高まるぬ。わっちはあちらこちらで可愛がってもらえるようになると思うぬ。それはわっちにとって得なことだぬ」

「基本的に悪魔はどの子も認められることが大好きだな。だから話の持ちかけようで手伝ってはくれるよ。モデルになるってことは、自分の存在がいい感じに周知されるのと一緒だから」


 記者トリオがすげえメモしてる。

 今日はロクな記事を仕入れられてないと見た。

 チャンスだな。

 もう少し宣伝しとくべし。


「この前モテる男特集の記事どうかってのがあったじゃん?」

「ええ、結構反響ありました」

「当然あるだろうな。だって新聞購読者層のニーズに合ってるんだから。じゃあ先取り情報として、ペルレ男爵家領からこんな女性ウケするアイテムが入りまーすっていう記事にすればいいね。おお、新聞のアンテナすげえ! 随分細かい情報までキャッチしてるじゃないか。定期購読したろって気になるかもしれない」

「「「そうですねっ!」」」


 これで新聞で宣伝してくれるのは間違いないな。

 ゴットリープさんとおっぱいピンクブロンドがメッチャ感心してるけど、新聞使うのは売り込みの基本ですよ。


「『ミヤネヤ商店』に行くというのは?」

「『かわいいあくま』シリーズを大店に見せたけど、反応がもう一つなんだそーな」

「なるほど、だから専門店に持っていくと」

「ヤヨイちゃんはファンシーグッズのプロじゃん? 意見を聞きたいんだよね」

「売れるか売れないかということですか?」

「いや、皆が可愛いって言ってるくらいだから、ヤヨイちゃんの店の客層なら売れることは売れると思うんだ。ラインナップとしてこういう商品があるべきとか、ちょっとした注意点とか、専門家の視点が欲しいなと思って」


 さて、『ミヤネヤ商店』にとうちゃーく。

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