第2355話:大の試練のお宝は?
フイィィーンシュパパパッ。
「やっぱここに転送されるのか」
三一番目の転送魔法陣『世界最大のダンジョン』を使用して飛んできた先は、転移の間だった。
探索したとこまでヴィルに行ってもらって転移してたから、転送先が変わってることに気付かなかったな。
『アトラスの冒険者』のクエストの細やかなところとも言える。
「姐御、大の試練へ行くんでやすね?」
「いやー、さすがにここは意表を突く場面じゃないね。素直に大の試練へ行きまーす」
「ボスの予想では、大の試練、ワッツ?」
「どーだろ? 何があるかはサッパリ予想がつかんね」
「ユー様でもですか?」
「あんた達はあたしを何だと思ってるんだ」
あたしはエスパーじゃねーわ。
全然判断材料のないことはわからんわ。
「んーでも、転移の間を作った魔道士の私物が残されてるパターンかな。ありそうなのは」
「小の試練中の試練からするとそうでやすね」
さらに奥に繋がる転移ゲートがあるとかじゃないと見た。
だってこのダンジョンライオンばっかりでつまらんのだもん。
もう『世界最大のダンジョン』のクエストは、ウタマロの方で楽しくなってくれればいいよ。
これ以上通路が続いたりする必要はない。
だから重要な何かが残されていてお終い、とゆーフラグを立てておく用意周到さ。
「紅葉珠五つ、魔道について書かれた粘土板と来て次はってことか。当然それらより価値のあるものだよね。なーんだ?」
「ダンジョンの奥深くに秘めておかねばならないほどの魔道の発明品ですぜ!」
「メイビー、スーパーレアマテリアルね! アンノウンなものね!」
「転移術の深奥だと思います。粘土板には詳しい部分まで書かれていなかったです」
「御主人は何だと思うぬ?」
「てんで予想外のものだと思うね」
アトムダンテクララの言うことはもっともで、いかにもありそーではある。
でも全然ピンと来ないのだ。
ならばきっとわけのわからんものがある。
あたしのカンがそう告げている。
「とにかく行ってみようか」
「「「了解!」」」「了解だぬ!」
最後のゲートに立つ。
魔力が高まってくるとともにゲートから声が聞こえる。
『大の試練の洞窟へ転移するか? 否か応で応えよ』
「おう!」
◇
「おおう、最初から予想外」
小の試練や中の試練みたいに長々と洞窟が続いているのかと思えば、広い部屋だった。
くだらない前哨戦がなくていきなりクライマックスと思えばテンションも上がるね。
こーゆー意表の突かれ方は嫌いじゃない。
「……エインシエントソーサラーのラボね?」
「そうっぽいな」
本やら実験道具やら素材やらが散乱している。
なるほど、最後の大の試練が古の大魔道士の実験室というのは、考えてみればあり得る展開だった。
「あり得ねえのはお宝ポジションで寝てるやつですぜ」
「それなー」
ライオンが寝ている。
ライオンがお宝?
今までこのダンジョンで見たことないタイプだから、おそらくはレアライオンだな。
でも寝てるってどゆこと?
「この部屋には小動物が出入りする穴がありません」
「じゃあ何食べて生きてるんだろ? とゆーかこいつはどこから来たんだ? 転移で?」
「マジックパワー濃度がハイね」
魔力濃度が高ければエネルギーに変換して生きていける、ハイクラスな魔物か。
んー? そこまでハイクラスな存在には見えんのだけれども。
レベルはせいぜい三〇台だと思う。
ま、あんまレベルは関係ないのかもしれないな。
「ボスでやすかね?」
「ボスっちゃボスなんだろうけれども。起こすよ」
「危ないですよ」
「一応警戒と心配しててよ」
「何の心配ですか?」
「倒したら何をドロップするかだよ。おいこら、起きろ!」
身体を揺すったら目を開けた。
寝ぼけ眼で周りを見渡して大あくびするライオン。
「がうがう」
「よく大の試練まで辿り着いたって? 順番に来るのがセオリーかと思って、一応小も中も最後まで行ったよ。紅葉珠と粘土板はもらった」
「がう」
「よく見れば外国人じゃないかって? あたしはドーラの美少女精霊使いユーラシア。うちの子達は精霊のクララアトムダンテに、悪魔のヴィルね」
「がう?」
「精霊見るのは初めてだったか。あたしは『精霊使い』の固有能力、こっちで言う恵沢持ちなんだ。だからうちはこーゆーパーティーで冒険者してるの。冒険者ってのは、あっちこっちでお肉を狩ったりお肉を食べたりする商売ね」
「がう」
「ドーラは地図で見るとここ。放熱海より北側の国だよ。去年こっちのカル帝国から独立したばかりの新しい国」
あれ、このライオン随分と話が通じるじゃないか。
国とかも知ってるんだな。
「がうがう?」
「シンカン帝国が放熱海以北と交流するようになったのかって? とゆーわけじゃなくて、あたし達は転移でこっちに遊びに来てるの」
「がう!」
「転移について聞かせろ? ドーラには転移術の研究者がいてさ。こっちが転移の玉。こっちが行き先のビーコン。うちのヴィルは単独であちこちワープできるから、ビーコンを持って行ってもらうとあたしも転移できるっていう仕組み」
『アトラスの冒険者』どうこうは話さなくていいだろ。
それにしてもこのライオン、随分と感心してるな。変なことに興味があるもんだ。
ここのダンジョンに生息しているどのライオンとも異なる知性がある。
「がう」
「レベルにものを言わせて試練を突破してきたんだなって? まあそう。うちのパーティーの得意技パワープレイだね」
ゴリ押し得意なのはユー様だけですよねって顔をクララがしてるけど、そんなことないわ。
あんた達がいるからゴリ押せるんだわ。
「で、大の試練はどうやったらクリアできるかが知りたいんだよね。あんたを倒せばクリアなのかもしれんけど、理知的な子をそんな目に遭わせたくないんだ」
慌てんなとゆーのに。
べつに餌食にしたりはしないって。
まずそーだから。
「がうがう!」
「クリアしてるようなものだから落ち着け? その前に一つ質問に答えろ? 何かな?」
「がう?」
「何故言葉が通じるか? あたしはカンで相手の言いたいことがわかって、説得力で相手に言い聞かせるから、いろんな鳥や獣と話ができるって説があるよ。もちろん相手がある程度賢くないとダメだけど」
本当のところはよく知らん。
話が通じるなら理屈はどうでもいい。




