第2353話:ドラゴン注意報
「サイナスさん、こんばんはー」
『ああ、こんばんは』
夕食後、毎晩恒例のヴィル通信だ。
「注意報を発令しまーす!」
『何だ? 藪から棒に』
「今日西域にドラゴン出ちゃってさ」
『えっ?』
「クルクルっていう自由開拓民集落の近くの南東の森で四体」
『四体? 大変な事件じゃないか!』
「まあどえらい迷惑だね。でもどこぞの大悪魔がブラックデモンズドラゴンやキングヒドラを召喚したことに比べれば、可愛いもんとゆー言い方もできる」
「恐縮である」
ハハッ、バアルを恐縮させたった。
「街道にも近いところだったから、ドラゴン見た人も結構いるんじゃないかな」
『被害は?』
「森の木がなぎ倒されただけ。クルクル出身の『アトラスの冒険者』がいて、たまたまその子のパーティーが見かけてすぐギルドに通報してくれたんだ」
『君が退治の係か?』
「連絡もらったからね。うちのパーティーだけじゃなかったけど」
あちこちに新『アトラスの冒険者』がいて、連絡網が形成されていることは大事だなとつくづく思った。
危機管理にも新『アトラスの冒険者』は活用されるべきだ。
ギルドは情報ステーションの役割を担うことになるか。
「現れたのがマウンテンドラゴンっていう、ドーラに生息してないタイプのドラゴンだったの」
『しかも四体ってどういうことだ。召喚か? 開拓地にブラックデモンズドラゴン等が現れた時のような?』
「魔力濃度は変わんないし、ドラゴン達も状況わかってなくてやたら暴れてたっぽいから、自然発生というセンはないな。どこかから呼ばれたのは間違いなさそう」
『犯人は誰だ?』
「報告してくれた子達が言うには、召喚の時特有の魔力の高まりみたいなのは感じなかったようなんだ。レベル低いったって二〇以上はある子達がだよ? バアルが言うには、術式として洗練されているからだろうって。デス爺ならそういうことができるだろうって」
『デスさんが? まさか』
「吾が主に言ったのは、可能か可能でないかということに過ぎぬである」
うん、じっちゃんが犯人なんてあり得ん。
『ドーラに生息してないドラゴンなんだな? ということは?』
「あんだけ本をよく読んでるクララも含めて、誰もどこに生息してるか知らなかったんだ。冒険者でもないじっちゃんが知ってるわけもなし、大体動機がないじゃん?」
『では犯人は?』
「『アトラスの冒険者』の本部じゃないかと考えてる。とゆーかそれしかない」
『塔の村の精霊使いエルから目を逸らさせる思惑?』
「多分」
あんまりくだらないことしてくると嫌になるな。
『アガルタ』の連中が攻めてくるのを待つまでもなく、こちらから逆侵攻してやる手がなくもないが。
『おかしいじゃないか』
「何が?」
『君の後輩のドラゴンスレイヤーが、無乳エンジェルの手先と接触してるんだろう?』
「サイナスさんの口から無乳エンジェルって言葉が出ると違和感あるな。まあそうだけど」
『後輩がドラゴンを西域に送るなんて許すはずがないじゃないか』
「そーいやそうだな?」
この前会った時何も言ってなかったし、その後あたしに接触しようともしてこないから、ソル君の異世界に協力すると見せかける工作は順調なんだろう。
つまりドラゴンを転送してくることは、ソル君は知らなかったということになる。
となると……。
「……ソル君が無乳エンジェルの手先に対して強気に出るチャンスだな。お前らの仕業であることはわかってる! 何故こちらの世界を荒らそうとするのだ! 余計なことすんな!」
『ユーラシアが生き生きしている』
「面白くなってきたなあ。お詫びとして何をぶん捕れるだろう?」
『すぐそういう方向に考えを持っていく精神がえぐい』
「尊敬するである」
精神まで褒められてしまった。
「早めにソル君に連絡取らないといけないな。サイナスさん、ありがとう。こっちの世界が有利になるよう、目一杯頑張るよ」
『何だろう? ユーラシアが張り切っていると、異世界に対して罪悪感が生まれる』
「きっと気のせいだよ。あたしの活躍を祈りなよ」
『祈るより懺悔したい』
何なんだ一体。
「で、ひょっとして異世界が大型魔物を転送してくるなんてことを続ける魂胆だと、カラーズや開拓地も被害に遭うかもしれないから注意ね」
『おい、注意ってどうすればいいんだ!』
「今日現れたドラゴンの様子からすると、知らん場所に急に送られてパニック起こしてる感じだったな。積極的に人間を襲おうとしないで、ただ暴れると思う。その内魔物を倒せる人員が誰か行くから、とにかく人を逃がしてね」
『わ、わかった』
おそらく大丈夫だけどな。
今日がテスト、次に大型魔物を転送することがあるとするならば、おそらくは侵攻作戦当日に陽動として行われるケースだ。
その前にソル君が余計なことすんなって無乳エンジェルの手先に言ってくれれば、二度と起こらないと思う。
「話は飛ぶんだけどさ」
『跳躍話法予報』
「午前中に見かけロリと真ロリが、見かけロリのお母さんに会うっていうイベントがあって。見かけロリのお母さんは見かけロリほどじゃないけど小柄な人だった。見かけロリと真ロリに会えて大喜び」
『ロリって言いたいだけだろ』
「そこで教育とか人材の話になってさ。真ロリシシーちゃんは明らかにやる子なので上手に育てて欲しいけど、ちっちゃい子の教育って難しくない?」
『勝手に育つ君みたいな子もいるしな』
「あたしみたいな稀有にして至高にして美麗な存在は置いとくとして。基本的な読み書き計算と対人コミュニケーション以外いらん気がするんだよね。強いて加えるなら武術体術の類?」
『ああ、本当に小さい子を対象に考えてるんだな。あまり小さい内から保護者の都合で型に嵌めるのはよくないのかも』
「勉強って嫌になるもんねえ。才能を潰しちゃうことがあるかなーって思ってさ。そこで三~八歳児の教育を請け負います。固有能力の有無も調べて、その子の個性を生かしますっていうのはビジネスチャンスかと」
『商売の話だったのか』
上流階級向けにありかと思ったんだよ。
「今日は以上でーす。サイナスさん、おやすみなさい」
『ああ、御苦労だったね。おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『わかったぬ!』
明日はシンカン帝国だが?




