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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第2348話:シシーちゃんの未来

 閣下が独り言のように言う。


「才能か……」

「必要なのは人材なんだけどさ。使える才能を見つけたら育成するなり援助するなりしたいでしょ?」

「ユーラシア君の言う通りだな」

「早い段階から知り合いになってりゃ、その才能の持ち主だって信用してくれるじゃん? やっぱ信用されないと役に立ってくれないから、どんどん貸しを押しつけたい」

「ユーラシア君のやり方は強引だが、一々理にかなっている。ルーネロッテ、ユーラシア君の手法を学びなさい」

「はい」

「とゆー意味では、シシーちゃんはすごい逸材なんだよね」

「シシーが、ですか?」


 抱っこしてるシシーちゃんが寝たからだろう。

 今まで会話に参加していなかったクリームヒルトさんも加わってくる。


「ユーラシア君から見て、二歳児に過ぎないシシーにかなりの才能を感じる?」

「うん。持ち固有能力のおかげかもしれないけど、あたしは一目見てこの人はできるとか感じるんだよ。身近な人だと双子皇子は全然ピンとこないから、絡みはあるのに未だに名前覚えられない」


 アハハと笑い合う。

 ザビーネさんごめんね。

 息子さんの悪口ってわけじゃないよ。


「シシーちゃんはやる子だなー。印象に残るってことも特殊な固有能力持ちってこともあるよ? そうじゃなくても、物怖じしなくて何でも面白がるんだよね。好奇心旺盛なところが素晴らしい」

「シシーが、ですか」

「ルーネによく似てるよ。ルーネもやる子」


 優しくシシーちゃんの髪を手で梳くクリームヒルトさん。


「裏町連れてってチンピラに囲まれた時は泣いちゃったけど、芸を見せてあげたらすぐ笑ってたし」

「ルーネロッテも裏町に行ったんだろう? 危ないところに連れていくな!」

「危なくないとゆーのに。そのチンピラ達もあたしを姐さん姐さんって慕ってくれるから大丈夫だとゆーのに。お肉で飼い馴らしてるしね」

「肉はどこにでも現れる飛び道具」


 アハハ、使いやすい飛び道具なんだよ。


「ちなみにチンピラ達も皇室への尊敬の感情は持ってるんだ。ルーネロッテ皇女だぞって教えてやったらへへーって頭下げる。大したもんだねえ」

「はい、その通りでした」


 頷く閣下。

 もうちょっと閣下とルーネは毎日あったことを話し合った方がいいと思うの。

 余計なお世話かもしれんけど。


「魔物退治もシシーちゃんが嫌がったら帰ろうと思ってたんだよ。そしたらノリノリでさ。魔物を見るとお肉かそうでないか聞いてくるくらい」

「ユーラシア君が誘導したんだろう?」

「いや、違うんだって。全く経験のない人を魔物退治に連れてくと、大体八割方は怖がるもんなんだよ。シシーちゃん大喜びで、全然怖がったりしなかったもんな。もーあれは才能としか言いようがない。肝が据わってる」

「ユーラシアさんほどの方が、シシーに才能があると言ってくれるのは嬉しいですね」

「ちっちゃい内は伸び代が大きいじゃん? 小さい頃から才能あるってわかってることはいいことだねえ。ダールグリュン家の教育にも繋がると思ってることなんだけど」

「ダールグリュン家の教育? 面白そうな話だね。ユーラシア君のお説を伺おうか」


 身を乗り出す皆さん。

 あれ? シシーちゃんの教育には気を使ってちょうだいとゆーことが言いたかったのに、おかしな食いつかれ方したぞ?

 ダールグリュン家の教育自体に関する、あたしの見解を聞きたいってこと?

 

「ダールグリュン家では、嫡男に受け継がれると言われていた『繁栄』の固有能力が重要とされてるじゃん? でも『繁栄』って言うほどすごい効果なのかって言われると、あたしはそんなことないと思う」

「過去ダールグリュン家の当主がいくつもの領を立て直したのは事実なんだ」

「逆なんじゃないかな。昔あるダールグリュン家の当主が、地方領を立て直すノウハウを確立して、それを知りたがる人が多かった。あんまり聞かれるもんだから、たまたま持ってた固有能力『繁栄』のせいにして誤魔化した」

「しかし『繁栄』が生産や経済にプラスになることは事実なんだろう?」

「らしいね。でも個人の固有能力が目に見えるほど社会を良くするかって言われると、ちょっとあり得ないと思うな。あたしも似たようなレア固有能力の持ち主を知ってるけど、効いてるのか効いてないのかさっぱりわからんもん」


 『福助』の固有能力持ちのほほん男ピジョーさんのことだ。

 幼女占い師マーシャが重要視してたくらいの人物。

 おそらく薄く広く恩恵をもたらしているんだろうけど、注意して見てても効果がわからんのだよなー。


「ユーラシア君の言うことが本当ならば、ダールグリュン家のノウハウは共有されるべきじゃないか」

「ダールグリュン家が富を生む秘術をそうそう公開するわけないじゃん。もっと言うと多分教育法も特殊なんだと思う」

「ふむ、特殊とは?」

「教える方も教わる方も、『繁栄』持ちだから才能あるって思い込んでるってことだよ。あたしは『繁栄』とノウハウは別物だと思うけど、教わる方がボクは必ずノウハウを取得できる、だって『繁栄』持ちなんだからって信じて疑わないじゃん? 教え方が厳しかろうがノウハウ自体がえっらい緻密で複雑だろうが、小さい頃からの教育で受け継いじゃう。だってダールグリュン家の後継ぎなんだから」

「……それがダールグリュン家のカラクリなのか?」

「もちろん『繁栄』の後押しもちょっとはあるんだろうけど、ごく限定的だと思う」


 代々の『繁栄』持ちが全て高レベル者であったはずがない。

 低レベル者の固有能力なんて、大体たかが知れているのだ。

 ノウハウと教育法が特殊なんだと考えた方が、少なくともあたしにはしっくりくるわ。


「であればシシーも小さい内から勉強が必要なのですか?」

「どーだろ? あたしもダールグリュン家の教育法が実際にどういうもんかは知らんから、何とも言えないな。現当主のオズワルドさんに確認して欲しいね。でもシシーちゃんの資質はアウトドア向きだよ。机に齧りつくよりいろんな経験させて欲しい。領地立て直しのノウハウを受け継がなくても、もっと大きな才能を開花させるかもしれない」


 それこそ政治家とかね。

 シシーちゃんは皇位継承権持ちだったか。

 皇帝っていう手も皇妃という手もある。

 何にせよ将来有望っていいことだ。

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