第2345話:きょうだいが欲しかった
フイィィーンシュパパパッ。
「おっはよー」
「おはようぬ!」
「やあ、精霊使い君。いらっしゃい」
朝から皇宮にやって来た。
今日はクリームヒルトさんシシーちゃんが、先帝陛下の側室ザビーネさんに会いに皇宮へ来る日だ。
ザビーネさんってどんな人だろうな?
クリームヒルトさんのお母ちゃんならロリ系だろうか?
サボリ土魔法使い近衛兵が興味津々。
「クリームヒルト様が登宮されるんだろう?」
「らしいね。いや、あたしそれサボリ君から聞いたんじゃん」
「お子様を連れて」
「シシーちゃん二歳ね。今までお屋敷に閉じ込められてたからか、メッチャ好奇心旺盛なんだよ。全然人見知りしないの」
「いいね。軽鎧姿の近衛兵を見ると泣いてしまうお子様も多いから、案外対応が難しくて」
「シシーちゃんは心配いらんな。どうせニコニコして登宮するわ。しかもかなりやる子」
「まだ二歳なんだろう? やるもやらないも……」
「魔物狩り連れてったからレベル一〇超えちゃった」
「うぇええ?」
変な声出すな。
修行が足りん。
「危ないじゃないか」
「危なくないわ。サボリ君はあたしの魔物退治がどーゆーものか、よく知ってるだろーが」
「まあ……でも万が一があるじゃないか」
「ないわ。あたしはいつも蘇生薬持ってるから大丈夫」
「スパルタ!」
シシーちゃんだって大喜びしてたとゆーのに。
もしシシーちゃんが嫌がるなら、魔物狩り続けるつもりはなかったわ。
シシーちゃんが大物たる所以。
「シシーちゃんは実に将来が楽しみだね」
「精霊使い君がそこまで評価するくらいか」
「上手に教育してやって欲しいわ。ちっちゃい頃の教育って大事だもんね」
「やはりクリームヒルト様に似ておられるのかい?」
「似てる似てる。ルーネも似た傾向の顔だからさ。ルーネクリームヒルトさんシシーちゃんで三姉妹みたいな感じなんだ。一番年上のクリームヒルトさんが次女という謎現象」
「ハハッ、微笑ましいな」
「あたしもきょうだいが欲しかったなー」
「精霊使い君は一人っ子だったか」
「そーなんだよ。頼りになるお兄ちゃんが欲しかったなー」
怪訝そうな顔をするサボリ君。
何でだ?
「意外だね? 君面倒見がいいじゃないか。弟妹を欲しがるのかと」
「あ、なるほどの観点だね。弟分妹分は何人かいるから、あんまり必要じゃないとゆーか」
「必要性」
「ちなみに踊り子のキリアナさんは、あたしのことを妹扱いしてくれるんだ」
「ほう? 踊り子キリアナと言えば気風のいい人とは聞くな」
「そーなんだよ。あのおっぱいには包容力が溢れてるね」
アハハと笑い合う。
「クリームヒルトさん達はまだ来てないんだよね?」
「まだだと思う。ドミティウス様とルーネロッテ様は詰め所まで来ていたが」
「え? 何でお父ちゃん閣下がいるのよ? おかしくない?」
「さあ? たまにはクリームヒルト様にも会いたいんじゃないか? シシー様に会える初めての機会でもあるし」
シシーちゃんが『繁栄』持ちであることはルーネからか、もしくはダールグリュン家からの報告で閣下に伝わっているはずだ。
シシーちゃんはその血筋でも固有能力でも、将来帝国の重要人物になる可能性が高い。
一度様子を見ておこうというということかな?
「しょっちゅうドミティウス様がおいでになると、近衛兵がピリピリした雰囲気になってよろしくないんだ」
「知らんがな。お仕事なんだから慣れなよ」
近衛兵のことはどうでもいいとしても、問題はシシーちゃんだ。
「大丈夫かなー。子供は敏感だから、お父ちゃん閣下の笑顔の裏側にあるどす黒い部分を察知して泣いちゃうんじゃないかなー」
「どす黒いって」
「ま、お父ちゃん閣下は子供に好かれるタイプではないと思う」
僅かに頷くサボリ君。
話題を変えるように言う。
「最近君、ほとんど毎日帝国内で活動してないか?」
「そうだね。あっち行ったりこっち行ったりしてるけど、帝国にいる時間が多いな。おかげでお土産に持ってくるお肉の消費量が多いわ」
「ハハッ、ありがたいことだけれども」
「シシーちゃんもお肉を喜んでくれるから、今日たくさん持ってきたよ」
また狩ってこないとな。
さて、近衛兵詰め所に着いたぞ。
「おっはよー」
「おはようぬ!」
「ユーラシアさん!」
飛びついてくるルーネとヴィルをぎゅっとするいつものやつ。
お父ちゃん閣下が言う。
「これからクリームヒルトとその娘が、ザビーネ叔母に会いに来るそうじゃないか」
「らしいね。あたしもサボリ君にそう聞いただけなんだ。クリームヒルトさんやオズワルドさんに確認したわけじゃないんだけど」
「ところでどうしてユーラシア君はインゴ近衛兵をサボリ君と呼ぶんだい?」
「あれ、閣下はちゃんと名前覚えてるんだな。あたしですら覚えてないのに」
「君は覚えてくれ」
アハハ。
しかし思いもよらぬツッコミだぞ?
サボリ君がこんなことで減給されても寝覚めが悪い。
どう誤魔化そう?
「サボリ君は美少女番近衛兵なんだ」
「美少女番、とは?」
「あたしの持ってる魔法陣の転送先になってるところを番してるの。ルーネの転移の玉のビーコンも同じところに置いてるんでしょ?」
「はい、そうです」
「外からの侵入路になり得るっていう意味で、誰か一人見張りが必要な場所だと思う。だけど傍から見るとサボってるように見えるからサボリ君」
「ふむ、そういうことだったか」
「楽してるように見えて、若干勤務時間が長いとか聞いたな」
目で謝意を寄越してくるサボリ君。
いいってことよ。
サボリ君にはしょっちゅう情報をもらったりしてるからね。
「これからドーラが新『アトラスの冒険者』世代になると、帝国との繋がりがより強くなると思うんだ。ドーラからの転移石碑のビーコンを置かせてもらうことになるかもしれない。その時も同じ場所にするね」
「ああ、管理上それが最もよさそうだな」
頷く閣下。
よし、通った。
話題変えたろ。
「閣下今日はどうしたの? 閣下がここにいると、近衛兵がお仕事に支障をきたすみたいなんだけど」
「何? 邪魔になっていたか。すまないな」
「いえいえ、お気になさらず」
「要人が一人いると警戒が必要とゆー自覚を持って欲しいわ」
近衛兵長もサボリ君も何言いだすんだって顔してるけど、今言っとかないでどーすんだ。
要求を押しつけるチャンスじゃないか。




