第2341話:新『アトラスの冒険者』メンバー候補
フイィィーンシュパパパッ。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「やあ、精霊使い君。いらっしゃい」
ブラウンシュヴァイクから帰宅後、イシュトバーンさんを送ってさらに皇宮にやって来た。
イシュトバーンさんは今からビーコン埋めて転移の実験を始めるんだろうな。
楽しんでください。
サボリ土魔法使い近衛兵が言う。
「今日のメニューは?」
「うまそーな質問の仕方だな。いや、今日は大した用じゃないんだ。悪魔って普通はものを食べないんだけど、中には食べる子もいて。ただ普通の食堂は悪魔をお客さん扱いしてくれないから、よさそーなとこ案内してあげる予定なんだよ。それでルーネを迎えに来たの」
「ルーネロッテ様はギルドに出かけられたぞ?」
「そーだ。ルーネはもう転移の玉を持ってるんだった。直接向こうへ行ったのか」
「ムダ足だったね」
「ムダでもない。お土産のお肉持ってきたから皆で食べてよ。あたしは帰る」
「バイバイぬ!」
ルーネの行動範囲も広がっている。
いいことだ。
◇
フイィィーンシュパパパッ。
「やあ、ユーラシアさんまた来たのかい? 再びチャーミングだね」
「ポロックさん、こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
角帽の総合受付ポロックさんがニコニコしている。
特に不安のない顔だ。
新『アトラスの冒険者』への移行は問題なさそうだな。
イシュトバーンさんが出資してくれたことが、運営上の金銭的な余裕を生んでいる。
「塔の村へ行くんだろう?」
「そうそう。ガルちゃん他の食堂も紹介して欲しいらしくて」
「すまないけど、ポーラも連れていってやってくれないかな」
「もちろん構わないよ」
ポーラも元気だからなあ。
ギルドの中だけじゃ退屈しちゃうんだろう。
昔と違って今のポーラは体力あるからな。
元気一杯遊ばせてやりたいもんだ。
今日は塔の村へ行っても特に危ないことないからいいだろう。
ポーラは塔の村は初めてかな?
ギルド内部へ。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「ユーラシアさん!」「ゆーらしあさん!」「あなた!」
飛びついてくるルーネポーラガルちゃんついでにヴィルをぎゅっとする。
これくらい群がってこないと満足できなくなっちゃったなあ。
可愛いやつらめ。
「塔の村行こうか。ウシ子のナワバリと衝突しないように、ガルちゃんが食堂で食べられるように交渉することが目的でーす」
「嬉しいですわ!」
「ポーラも連れてっていいとポロックさんに言われたけどどうする?」
「いくでつ!」
「よーし、外の転移石碑から行こうか」
◇
塔の村にやって来た。
ポーラとガルちゃんがキョロキョロしている。
「ここがとうのむらでつか」
「うん。やっぱりポーラは初めてだったか。あそこにでっかい塔があるでしょ? 中がダンジョンになっていて、冒険者が探索しているんだよ」
「何でしょう? 空間が複雑な感じがしますわ」
「この塔、単なるダンジョンじゃなくて、階ごとに色んな場所に繋がってる気がするよ」
地下なんかダンジョンじゃなくてフィールドそのものだしな。
普通はそんな構造安定しない気がするんだけど、『永久鉱山』で噴き出す魔力を利用してどうにかなってるんじゃないかな。
塔のダンジョン巨大な魔道具仮説、誰か暇な人研究してくれい。
「一応デス爺に挨拶しとこーかな」
「あそこだぬ! 光り輝いてるぬ!」
「おーい、じっちゃーん!」
「何じゃ、騒々しい」
でも上機嫌のデス爺。
「紹介しとくね。ドリフターズギルド総合受付の人の娘さんのポーラと悪魔のガルちゃん」
「ふむ? 高位魔族か」
「ガルちゃん悪魔なんだけど食べる子でさ。食堂を紹介して欲しいんだそーな。でも喜んで悪魔をお客さんにしてくれるところなんてなかなかないから、塔の村の食堂はどうかと思って」
「ザガムムが了承すればよいじゃろう」
「あたしもそう思った。ウシ子んとこ今から行くんだ」
悪魔のナワバリのルールはよく知らんからな。
ウシ子は塔の村の冒険者のために働いてくれている、塔の村といい関係を構築できている悪魔だ。
気分を害するようなら、ここにガルちゃんがお邪魔するのはやめといた方がいい。
「回復の石碑の設計図ができておるぞ」
「あっ、ありがとう。これお土産。放熱海より南のシンカン帝国の聖地近くで作ってるお酒だよ」
「おお、すまぬの。お主シンカン帝国にまで足を伸ばしておるのか?」
「『アトラスの冒険者』のクエストでね。向こうもちょっと面白い展開になってるんだ。知り合った子があれよあれよという間に皇位継承権持ちになってさ。次期皇帝になってくれるとあたしもやりやすいから、後押しするんだ」
「またおかしなことに関わっておるの」
「おかしな案件が回ってきちゃうんだよね。大きなことに関われるからすごくありがたいの」
しかしもう新しい『アトラスの冒険者』のクエストは来ない。
この一年で随分とあたしの生活も変わったもんだ。
たくさんの経験をし、たくさんの人に出会い、たくさんのお肉を手に入れられるようになったことが嬉しい。
「「「「ドラゴンスレイヤーユーラシア!」」」」
誰だ?
ドラゴンスレイヤーとゆー呼ばれ方するのは珍しいな。
拳士、剣士、ヒーラー、魔法使いの四人組だ。
そーいえばそんなんいた。
ルーネには紹介しとくか。
「彼らは塔の村で一番勤勉な四人パーティーって言われているんだ」
「そうなんですね」
名前は知らんけど。
パッと見レベル二五ってとこか。
しかし自嘲気味に言う。
「勤勉なだけで実力は上がらないけれどもな」
「悪役お嬢にも追いつかれる始末だ」
「おいこら、あんた達は大したもんだ。自信持て」
『アトラスの冒険者』みたいにクエストクリアしたらレベルアップっていう恩恵は、塔の村の冒険者にはない。
そしてあたしが全く手伝ってないのに、一年も経たずこのレベルはなかなか。
塔の村の冒険者の鑑と言ってもいい。
「他国だとレベル二〇越えてるのは、近衛兵や騎士の正隊員みたいなエリートか、歴戦の勇士って呼ばれてる人達だぞ? 自力でここまで来たあんた達は偉い」
「お、おう」
「ドーラでは高レベル者が量産されちゃってるから、あんた達が目立たないってことはあるけどさ。あたしも新『アトラスの冒険者』メンバー候補として報告してるんだから、このまま頑張れ」
おー喜んでる喜んでる。




