第234話:レイノスとの交易を急ぎたい
――――――――――五六日目。
「カカシー、これどこに挿しといたらいいかな?」
今日も朝からいい天気。
今の内日課はすませておこう。
昨日魔境で採取してきた香りの強いタイムをどうすべきか。
「ああ、それは? 何だタイムか。雑草みたいなもんだ。どこに植えといてもでも増えるぜ。でもこれから冬で時期がちょっと悪いな。畑に植えとけばオイラが面倒みておく。春になったら敷地外に植え替えても十分育つと思うぜ」
「わかった。当面は任せたよ」
カカシは頼りになるなあ。
タイムってドーラの気候だと作るの簡単らしい。
肉料理にハーブティー、スープにも良し。
雑草みたいに勝手に育ってくれるなら、こんなに嬉しいことはない。
さて、皆で灰の民の村へ出向く。
干し柿用の紐を仕入れにだ。
「細めの麻紐がいいですねえ」
うむ、干し柿にはそーゆーのがいい。
適当なのが手に入ればいいのだが。
「サイナスさーん、こーんにーちはっ!」
「ユーラシアか。大声過ぎてビックリした」
「デス爺みたいなこと言うなあ。これお土産だよ」
サイナスさんに挨拶し、冷凍コブタ肉を渡す。
どこへ持っていっても喜ばれるお肉は正義。
サイナスさんも思わずニッコリ。
「いつもすまないね。この肉はどこで手に入れるんだい? 焼き肉親睦会の時のと同じものだろう?」
「うん、同じ魔物肉だよ」
コブタマンって、本の世界以外では見たことないな。
「『アトラスの冒険者』のクエストの転送先にいるんだ。それをガッと狩ってくるの」
「説明が随分雑だね」
「説明が上手くても、お肉は美味くならないからね」
アハハと笑い合う。
「カラーズ間交易はどうなってるかな? 灰の民のショップは順調?」
「うちは順調。でも売れない村もあるよ」
わかる。
食品や生活必需品以外のものは、さほど売れるとは思えないもんな。
「売れない村は文句言ってない?」
「買いたいものが買えるってだけでプラスだからな。今はまだ皆が喜んでるけど、その内不満が高まるかもしれない」
基本的にカラーズの諸村はビンボーだからな。
カラーズ内だけで経済回そうとするのは間違ってる。
生活必需品ばっかり売れて、加工品工芸品みたいなものが売れない。
本当は加工品のが利幅が大きいのに、売れなきゃ技術も発達しないんだよな。
早めにレイノスとの交易を実現させたいが……。
「うーん、レイノス近郊に住む商人が、カラーズに目をつけ始めてるんだよ。黄の木工品、赤のガラスと陶器、黒の呪術グッズはレイノスの方が売れると思うから、あたしが仲介した方がいいかな?」
「信頼できる商人なのかい?」
「レイノス東の自由開拓民集落群の商売を取りまとめてる人だよ。信頼できるかまではわかんないけど、盗賊退治して恩売りつけて、しかもその人の息子は冒険者であたしを師匠扱いしてるんだ。全然繋がりない商人よりはコントロールしやすいよ」
「十分過ぎるだろ」
サイナスさんが苦笑する。
「よし、うちと白の民の村以外は、その商人に間に入ってもらうことを検討しよう」
灰と白は農作物が主生産物だからカラーズ内でも捌けるくらいだ。
それに戦争になった場合、レイノスはカラーズに対して食料依存度高くなるのがわかりきってるので、今からガンガン売るわけにいかない。
とゆーか戦争になるのが既定路線なら、ぼちぼちカラーズ~レイノス間の交易を始めておかないといけないな。
「……緑の民の村はどうかな?」
「ん? 何か問題でもあるのかい?」
「その商人さんは、親の代に緑の民の村から出てきた人なんだよ。問題があって飛び出てきたのかもしれない。緑の民に知り合いいないから、状況がわかんないな。揉めた時仲裁できる自信もないし」
サイナスさんが笑う。
「構わない。揉めたなら揉めたでいいさ」
何ですと?
突き放すじゃねーか。
「サイナスさん、言うなあ。そーゆーのはちょい悪キャラじゃないと似合わないんだけど?」
「ハハッ、他の村が順調に交易を進めるならば、緑の民だけ反抗期決め込んで取り残されるわけにもいかないだろう? 族長の手腕が疑問視されて民の不満が高まるから。本当に関係が拗れているなら、その時こそ修復のチャンスじゃないか」
「なるほどー。サイナスさんは賢いな。考えに乗っかろーっと」
ニコニコのサイナスさん。
「……確認しとくけど、白と灰はパラキアスさん案件でレイノス交易の話には当面乗らない、でいいんだね?」
サイナスさんが無言で頷く。
「じゃあユーラシアが商人脅しつけて有利な条件でレイノスでの商売を仲介させようとしてるから、つまんない話に乗るな安売りすんなって各村に言っといてくれる? 特に赤と青に」
「ハハハ、わかった」
赤の民族長のカグツチさんと青の民族長のセレシアさんは前のめりだからなー。
もうちょっと落ち着いてちょうだい。
「各村が商品として売れるものをリストアップしといて欲しいな。それ持って交渉に行くから」
「二日後までには聞いておこう。件の商人の名前は何と言ったかな?」
「ヨハン・フィルフョーだよ」
「ヨハン・フィルフョー、っと。じゃあ商売の件は以上だな。あれ、君は今日、何しに来たんだっけ?」
おお、忘れてた。
「干し柿用の紐買いに来たの」
「何だ」
大人しく道具屋で紐を買って帰る。
森へ寄って行かないと。
◇
「そっちのガマズミはおいしいです。イチイの種は毒、ナナカマドは不味いです!」
「ややこしいぜ……」
「レッドトラップね」
森でなってる赤い木の実を取りに来た。
うーむ、意外と難しいぞ?
見た目似たよーな赤い実でも、思ったより食べられないやつが多い。
クララがいない時に取るのは危険だな。
「姐御、この食べられるやつの種を、うちの敷地の周りに蒔いときましょうぜ」
「採用。ダメで元々、生えてくりゃラッキーくらいの気持ちで蒔いとこう」
「エディブルなのだけなら見分けがイージーね」
「タイムと混植すると捗りますねえ」
タイムも勝手に増えるっぽいから、わざわざカカシの手の及ぶうちの敷地内でなくてもいいしな。
家の周りで食べられる草木が勝手に増えてくる。
実現すれば何て幸せなことだろう。
あんまり手がかかんなくて食用になる草木はまだまだありそうだから、意識しておこう。
帰宅後、木の実等で軽く昼食をすませ、冷凍肉を持ってほこら守りの村へ。




