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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第2336話:経営者目線でファッションを

「サイナスさん、こんばんはー」

『ああ、こんばんは』


 夕食後、毎晩恒例のヴィル通信だ。


「セレシアさんとこのファッションって平民富裕層向けじゃん?」

『意表を突いてやろうという意図が見え見えの入りだね』


 見え見えだったか。

 エンターテイナーユーラシアが前面に出過ぎてしまったわ。


『価格からするとどうしても定番品よりは高いだろう? 富裕層向けになるのは当然だ』

「おおう、サイナスさんは『富裕層』の方に食いついてきたか。いや、今取り上げたいのは『平民』の方でさ」

『『平民』? とはどういうことだい?』

「セレシアさんのファッションが、貴族からどう見えているかっていう視点だよ。帝国だと貴族の令嬢にも売りたいじゃん?」

『当然だな』

「セレシアさんのファッションは帝都でも注目されてるんだけどさ。やっぱ貴族は保守的なところがあるんだよ。食いつきがいいとは言えなくて」

『ははあ、平民富裕層向けと貴族令嬢向けは違うのか。ドーラ人には気付きにくいが、ありそうなことだな』


 『ケーニッヒバウム』のピット君に紹介した時は全然考えてなかった視点だわ。


「セレシアさんのファッション着てた貴族令嬢に会ったんだけどさ。親御さんにははしたないと言われてしまうんだそーな」

『帝都は人口が多いんだから十分商売になりそうだが。ユーラシアはビジネスチャンスを逸していると見るんだな?』

「まあねえ。放置しとくわけにいかんよ。令嬢が普段着にできるような、をコンセプトにしたやつを試験的に作ってもらったんだ」


 ヤヨイちゃんが着てたのは、貴族の服装にありがちなゴテゴテしたところがなくてなかなかよかった。

 ルーネのもおそらく似た系統だと思うし。


「で、それを一着はルーネに着せて画集帝国版の表紙に、もう一着を叩き売りチャキチャキギャルヤヨイちゃんにプレゼントして広告塔にっていう作戦」

『絶対売れてしまうやつだな?』

「売れちゃうと思うね。さっきのセレシアさんのファッション着てた貴族令嬢ってのが、たまたまヤヨイちゃんの店に買い物に来てた子爵家の子でさ。賢いあたしは考えました」

『何を?』

「帝国の貴族ったって金持ちばっかりじゃないじゃん? それこそ子爵家男爵家くらいだと経営大変なところが多いだろうし」

『経営者目線から入るんだなあ。で?』

「となると服代って結構な支出なわけよ。オーダーメイドで何着もドレス作ってたら、マジで家が傾きそう」

『しかし貴族だと見栄もあるんだろう? 令嬢だったら将来どこに嫁ぐかにも影響しそうだ』


 狙いはそこだ。


「ところが既製服だとオーダーメイドよりはうんと安くつくじゃん?」

『ははあ、下級貴族向けに売り出すってことか』

「必ずしも下級に限らんけど、貴族令嬢向けに守備範囲を広げるということだね。ただの既製服じゃダメだよ? でも最近流行のブランドの新機軸っていう煽り文句がつくと、途端にありがたい感じが出るじゃん。スポンサーである親御さんを説得できるくらいの。さすがに本格的な舞踏会や陛下が出席するような夜会じゃムリだけど、簡単なパーティーくらいなら着ていけますよっていうことになったら、結構な数が出そう。貴族に憧れてる平民富裕層の需要も含めて」

『つまりそういうふうに仕掛けるんだな?』

「仕掛けたいね。幸いあたしには皇族や高位貴族の令嬢に知り合いがいるから、そーゆー子達に着させればいい。あっ、このファッションはありなんだ、私もっていう空気はすぐできそう」


 闇雲に仕掛けようとしているわけじゃない。

 セレシアさんのファッションは機能的なのだ。

 そして『ケーニッヒバウム』が供給しているならものが悪いはずもない。

 いいものがスタンダードになって欲しいのだ。


「オーダーメイドはどーしたって帝都の方が多くなるな」

『人口が違うしな』

「うん。セレシアさんはいずれ帝都からファッションを発信するべきだと思うよ、ってことをあたしが言ってたって、青の民ディオ君にそれとなく話しといてくれる?」

『族長代理にか? 了解だ』


 サイナスさんが含み笑いする。

 こういう話が間接的に伝わると、セレシアさんもあたしに問い合わせてくるんじゃないか?

 ディオ君に言っとけば、自分が族長に就任する心構えもレイノスの店の店長も何とかするだろうしな。

 正直勢いで物事を進めようとするセレシアさんが青の民の族長で、かつレイノスの店の店長というのは不安があるのだ。

 帝都でデザイナーに専念するのが、本人のためにも周りのためにもベストだろう。

 『ケーニッヒバウム』のピット君はセレシアさんに任せるとヤバいってことは知ってるから、セレシアさんを帝都に送ればきちんと手綱を握るだろうし。


『今日はファッションがメインのイベントなのかい?』

「いや、今日は朝から帝国の弧海州植民地行ってきたんだ。弧海州諸国の税金が高いのは悪魔のせいだってことがわかった。ビフロンスっていう包帯ぐるぐる巻いてる見かけの子。今は魔王の家来になってるから弧海州関係ないけど」

『悪魔が関わってる……とするなら、税金が高いと人々が苦しむ。悪魔は悪感情を美味しくいただくってわけかい?』

「うん。おまけに税金安くすると周りの国からわーっと人が集まっちゃって社会が破綻するから、やる気のある王様がいたとしても迂闊に動けないという」

『何だそれ? 聞いたことのない有様だな』


 マジでそう。

 こんな状況を作り出したビフロンスすごい。


「要は弧海州が閉じた世界で、住民も弧海州の外に出る選択肢がないから、おっかしな常識が通用しちゃってたってことなんだよね。自領を広げたウルリヒさんが移民を欲しがってるの。やる気のある人をどんどん引き抜くじゃん? そーすると弧海州諸国も危機感を持って対処し始めると思うよ」

『受動的にいい国にってことか』

「使える人材やる気のある人材をどんどん引き抜かれる恐怖を味わえばいいのだ」

『聖女らしさの欠片もないセリフがえぐい』


 揉め事もたくさん起きるだろうけど、本当に困れば聖女様が手を貸してやんよ。

 ハハッ、あたし偉そう。


「サイナスさん、おやすみなさい」

『ああ、御苦労だったね。おやすみ』

「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」

『了解だぬ!』


 明日はイシュトバーンさんとギルド。

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