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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第2334話:可愛いやつらをいい声で鳴かせちゃう

「これは大層うまいな」

「そうだろう!」


 帝国の弧海州植民地半島行政区の視察からカルテンブルンナー公爵家領に戻ってきて、お昼御飯を食べている。

 茹でマッチョクラブをポン酢醤油でいただく例のやつだ。

 お父ちゃん閣下も絶賛するほどうまーい!

 ビフロンス?

 連れてきてるよ。

 だってお腹減ったんだもん。

 魔王島に送るのは腹の虫が鳴かなくなってから。


「ウルリヒさんは、このマッチョクラブを領の産業として確立したいみたいなんだよ」

「美味いことは美味い。安定して供給できれば有望であることは間違いないが、魔物だろう? 難しいんじゃないか?」

「捕獲要員をユーラシア君に育ててもらったんだ。現在は北の編入地の方にいるがな。北が落ち着いたらマッチョクラブ捕獲に従事させようと考えている」

「ニッチモサッチモっていうお調子者の二人だよ。ルーネはあの二人どう思う?」


 『ララバイ』持ちニッチモと『パラライズハンド』持ちサッチモ。

 レベルはあるし固有能力も強力だ。

 経験さえ積めば相当な強者なんだけどなあ。


「領兵候補と聞きました。でも領兵らしくはないですよね」

「ないねえ。新米冒険者かルーキーハンターだよね」

「身分は領兵でよろしいのですけれども、領兵の規律で縛ってはフレキシブルな運用ができないと思います」

「おおう、ルーネ偉い!」


 あの二人は領兵としては新入りなのだろうけど、レベルは高いし任務も違う。

 かと言って特別扱いは他の領兵の反感を買うかもしれない。

 ゼムリヤの新人魔物退治要員三人と似たようなケースだな。

 あの三人は領主メルヒオールさんの親衛隊っぽいポジションになるんだったか?

 ニッチモサッチモもウルリヒさんの采配次第だが。


「そうだな、ルーネロッテ嬢の言う通りだ。ニッチモサッチモの扱いには気をつけよう」

「お父ちゃん閣下大満足」

「大満足だぬ!」


 アハハ。

 カニは美味いしルーネの成長は見られるし、閣下も嬉しいだろ。

 お父ちゃん閣下が言う。


「弧海州についてだが」

「うん、ヴィルとビフロンスちょっと入れ替わってくれる?」

「わかったぬ!」


 閣下は弧海州植民地じゃなくて弧海州と言った。

 ビフロンスの意見もあった方がいいだろ。

 ヴィルの『ぬ』語尾で喋るビフロンス爆誕。


「弧海州諸国の支配はおかしい。ユーラシア君もそう思うだろう?」

「思う。今日は帝国の植民地だったからまだマシだけど」

「あれでマシなのかい?」

「うん。聖グラント行った時は税金高いのに道すら整備されてなくて、どんだけデタラメなおゼゼの使い方してるんだと感じた」

「そうだ、魔王島の漂着民というのは?」

「元聖グラントの人なんだ。聖グラントの聖って何なの? って聞いたら、君主が『聖王』を名乗っているからって聞いた。聖王様はお偉いから王様より少し税金が高いとかいう、笑えないジョーク飛ばされたぞ?」

「ふむ、弧海州諸国の中でも税金の高い方か」

「多分。それで新天地を求めて外海に漕ぎ出し、魔王島に流れ着いた」

「ユーラシアの言う通りだぬ。漂着民達は魔王様に忠誠を誓って魔王島の全ての悪魔を尊敬し、代わりに高位魔族は漂着民の手助けをするという契約になっているんだぬ」


 ヴィルの声で『ユーラシア』って言われると違和感があるな。

 あんたルーネと入れ替わってた時は『ユーラシアさん』って言ってなかったか?

 気分なのかな?


「漂着民の暮らし自体には問題がないのかい?」

「なくはないな。やっぱり足りないものはたくさんあるよ。でも魔王島は耕作には向いてる土地だから、人口が増えれば発展するはず。来春の植えつけの時期くらいから、ムリのない程度で計画的に移民連れてこようとしてるの」

「まあユーラシア君が助力しているなら」

「魔王島の人を一人新『アトラスの冒険者』にすれば、ドーラと交流持てるかと思ってるんだ。将来楽しみだよ」


 ビフロンスも頷いている。

 漂着民について意見が出ないところを見ると、現在魔王島漂着民に問題はないな。

 秋まで放置でよさそう。


「フェルペダには手を入れた。弧海州諸国はどうする? ユーラシア君の意見が聞きたい」

「閣下はそんな人道主義者みたいなこと考えてたのか。ちょっと意外だったわ。放っといていいと思う」

「何故? ラグランドのように反乱が起きるぞ。ユーラシア君は人死にが好きじゃないんだろう?」

「戦争も人死にも嫌いだけどさ。弧海州諸国には各国で共同歩調取って税金下げるっていう、現実的な手段があるじゃん。それすら実行できんよーな無能な国は潰れりゃいいわ。マジで不穏な気配になって内乱起きそうになったら、初めて介入すりゃいいよ」


 あんだけ高い税金に耐えてる住人だ。

 逃げ出すっていう選択肢ができれば、蜂起するより移住を選ぶんじゃないかな。

 閣下は人道主義じゃなくて、軍事介入して弧海州全体を帝国植民地にすることを考えていたのかもしれない。

 現在の高い税金に不満を持ってる住民を味方につけられれば、植民地化も可能と思ったんだろう。

 でも人口の割に仕事のない状況が変わるわけじゃないから、経営難しい状況は一緒だぞ?

 蜂の巣弄りにいって刺されるよーなマネはやめとこ。

 弧海州から人が流出したあとに考えりゃいいと思うよ。


「ビフロンスはどうなの? 高税率を維持して悪感情を吸う仕組みは段々壊れていくと思うけど、名残惜しくはない?」

「ないぬ。わっちはもう魔王様の下僕だぬ。魔王様の命で弧海州を視察することはあるけれども、それだけだぬ」

「魔王の命令で弧海州をチェックしてたのか」


 フクちゃんも帝国の様子をチェックしてたことあるようだし、魔王は結構情報収集にマメみたい。


「よーし、ビフロンスとヴィルをぎゅーしてやろう!」

「私も参加します!」

「ぎゅー」

「「ふおおおおおおおおお?」」


 ハハッ、可愛いやつらめ。


「ごちそーさま! カニは最高です!」

「そうだ、ルーネロッテの衣装で」

「ルーネの衣装? あ、画集用のやつ?」

「見慣れない型だが、シックで実にいいじゃないか」

「あたしまだ見てないな。上流階級のお嬢さんのための、普段着からちょっとした集まりに使用できるファッションというコンセプトなんだ」


 閣下が気に入るくらいなら世のお父ちゃん連中のウケはいいと見た。

 よしよし。


「じゃ、帰ろうか」

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