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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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2333/2453

第2333話:いずれ人口が流出する

「こんにちはー」

「こんにちはぬ!」


 カル帝国弧海州植民地半島行政区の総督府にやって来た。

 ちなみにルーネとビフロンスの入れ替わりは解除してもらっている。

 受付のお姉さんは現地の人みたいだな。

 弧海州特有の彫りの浅いあっさりした顔だ。


「はい、どういった御用向きでしょうか?」

「総督に会いに来たんだよ」

「失礼ですが、お名前を聞かせてもらってよろしいでしょうか?」

「あたしはドーラの美少女冒険者ユーラシア、こちらから帝国のドミティウス殿下とその娘ルーネロッテ皇女、ウルリヒ公爵だよ。あたしの両肩に乗ってるのが悪魔のヴィルとビフロンスね」

「ええっ?」


 いや、見た目で変な一団だなとは思ってたろうけど。


「少々お待ちください!」


 飛ぶように奥に引っ込んだ受付のお姉さん。

 行ってらっしゃーい。


「ふーん、弧海州植民地の総督府には受付一人しかいないんだね」

「経費削減のためかもしれないな」

「やっぱ運営が難しいからか。ここの総督府の建物は小さい気がする」

「弧海州植民地は、半島行政区と島嶼行政区で同格の総督が一人ずつ派遣されているんだ」

「へー、じゃあ実質は二つの植民地みたいなもん?」

「帝国の法制上は一つの植民地として設立されたんだよ。ただ半島部の経営が特に難しいということで、二つの行政区に分けられたんだ。弧海州植民地全体としては、二人の総督が連携してことに当たることになっている」

「島嶼部の経営が簡単なのは何でなん?」

「おそらく海の難所だからだ。流民難民のボート程度では辿り着くことが困難なのだと思う」


 島嶼行政区に行くためには本格的な動力船が必要ということか。

 さっき会った男の子も出国は危険だという考え方だった。

 弧海州の人達に共通の認識なのかもしれないな。

 いくら生活に困ってても、わざわざ遭難したくて島嶼行政区を目指す人はいないんだろう。

 あるいは島嶼行政区がうまいこと経営されているということも、知られていないのかもしれない。

 余計な人員の流入がないから、安定した経営も可能、なるほど。


「ドミティウス様!」

「おおう」


 奥から飛び出してきた途端這いつくばる一人の男。

 動きがダイナミックでコミカルだなあ。

 弧海州は南国だからか、よく日に焼けている。


「申し訳ありません! 弧海州植民地半島行政区は、破綻しないようにするだけで精一杯です。不甲斐ない私をお許しください!」

「顔を上げてくれ、モーリッツ」

「は」

「今ダプールの街を歩いてきた。大体の事情はわかった。弧海州植民地の経営が軌道に乗らないのは貴公の責任ではない」

「もったいないお言葉!」


 忠誠心が高いとゆーか、暑苦しいな。

 このモーリッツさんって人は。

 やる気のないやつよりはよっぽどいいけれども。


「紹介しておこう。ドーラの冒険者ユーラシア君と予の娘ルーネロッテ、カルテンブルンナー公爵家の当主ウルリヒだ」

「ユーラシア? あの報告にあった?」

「よろしくね。ところであの報告ってのはいい報告かな? 悪い報告かな?」

「大変印象的で一度見たら忘れられない美少女だと。ヴォルヴァヘイム近傍に出現したヤマタノオロチを退治した聖女で、ラグランド蜂起の早期解決に貢献。現在は施政館参与兼臨時連絡員として各地に派遣されているミラクルな存在だと」

「パーフェクトな報告書だね」

「文章を練り直した甲斐があったな」


 練り直す前の文章を知りたい気もする。

 ま、不要な好奇心か。


「モーリッツ、今日は君を糾弾しに来たわけではない」

「では視察でございますか?」

「視察というのも間違いではない。ウルリヒがいずれ移民を導入する予定でな」

「移民……ですか」

「そうだ。ならば人の余っている弧海州植民地から連れていけばいいのではという、ユーラシア君のアイデアがあったんだ。東回りなら帝国東方領まで遠くはないだろう?」

「な、なるほど! だからウルリヒ殿が同行されているのですか」

「半島行政区の現状を教えてくれ」

「少しずつではありますが、耕地面積は広がっております。しかし収穫は上がりません」

「何故?」

「住民が持っていってしまうのです」


 そーか、ドロボーありのルールだから。

 とゆーかドロボーくらいの小さな犯罪を取り締まれるだけの人員がいないし、禁止できたとしても餓死者が出ちゃうわけか。

 メチャクチャでごじゃりまするがな。


 ウルリヒさんが言う。


「正常な経営は不可能じゃないか? 内的な要因を整えることができたとしても、外的な要因として流民が流入したのでは秩序など保てない」

「あたしもムリだと思う。モーリッツさんはこんな状態で暴動も起こさせず、よく住民に食わせてると思うわ。割り切り方がすごいわ」

「できることは島嶼行政区が必要とするだけ人員を送り、僅かな税収で職員の給料を出すくらいです」

「一番の問題は人の多さかい?」

「はい」

「ユーラシア君どう思う?」

「社会を回すのに必要な人間の数より実際の人口が多いっていう、弧海州の問題点が解消されない限りどーにもならんわ」


 税金が住民に還元されていないから、少しでも税金の安い帝国の植民地に人が集まっちゃう。

 単純に税金上げたら暴動が起きるんだろうな。

 どうにかしようと思うなら、高税率で安定させてる悪魔ビフロンスの摩訶不思議なシステムを、弧海州全体で崩さないといけない。


「ま、時間の問題じゃないかな。ウルリヒさんとこの領地や魔王島に人が流出すると、弧海州の人口が減るからね。そーすると人を引き留めるために税金高いままじゃいられなくなる」

「「「「魔王島?」」」」

「魔王島は知らなかったか。魔王バビロンの本拠地の島だよ。聖グラントからの漂着民が小さなコミュニティを作ってて、魔王とはうまくやってるんだ。税金ないぞーってのをウリに少しずつ人増やしたいみたいだから、あたしも協力しようかと思ってるの。来春からボチボチ移住させる予定」


 外の世界に逃げ出せることを弧海州の人達が知ると、また全然違う場所も移住候補地に挙がるかもしれないな。

 となると弧海州各国は税率を下げざるを得なくなる。


「モーリッツ、今の状態を保っていてくれれば構わない。状況は必ず変わるから辛抱していてくれ」

「はっ!」

「お肉お土産においてくから、皆さんで食べてよ」

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