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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第2332話:ビフロンスはかなり賢い子

 お父ちゃん閣下とウルリヒさんヴィル、悪魔ビフロンス姿のルーネとルーネ姿のビフロンスの一行で弧海州植民地の町ダプールを練り歩く。

 行き交う人々にジロジロ見られる。

 もっともあたし達は明らかに外国人であるし、ふよふよ浮いてて見るからに怪しい悪魔のヴィルがいるからか、誰も話しかけてこないな。


 ビフロンスに聞いてみる。


「そもそも弧海州各国の税金が高いのは何でなん?」


 元々弧海州がホームグラウンドだったビフロンスは、人間じゃわからない事情に通じてるかもしれない。


「弧海州は外へ出ていく人や入ってくる人がいないことはないんですけれども、ほぼ弧海州内だけで完結しているんですよ」

「うん、そうみたいだねえ」

「特にカル帝国の植民地が成立する以前は、弧海州で一塊という意識が住民の間でも強かったんです。また支配者は一番偉いのだから贅沢すべきだという考え方が伝統的にありました」

「……ひょっとして王様は贅沢でいいって考え方を弧海州に植えつけたのもあんたなん?」

「そうです」


 簡単に肯定するビフロンス。

 段々性格がわかってきたぞ?

 姿形を変えて誤魔化そうとはするけれども、口に出してウソを吐くことは潔しとしない子らしい。


「王様が贅沢するために税金を高くするのかー。ありっちゃありとゆーか欲望に忠実とゆーか」

「だが大衆の怨嗟の声は高まるだろう?」

「ビフロンスは悪感情を得るのが目的だから」

「国が倒れてしまっては本末転倒じゃないのかい? 次に立つ政権は前政権の悪いところを継承しようとはしないだろう?」

「どーだろうな? 税金安くすると人が集まり過ぎてパンクするんでしょ? 今の帝国弧海州植民地みたいに」

「「……」」


 閣下とウルリヒさんが絶句しとるがな。

 要するに人の出入りがないと仮定した弧海州という領域で、全体の税金を高くして不満な人を多くするって考え方でしょ?

 不満はあっても住民は他所の世界に出ていこうとしないから、悪魔は悪感情を得るのに不自由しないとゆーことだ。

 ビフロンスもメッチャおかしなシステムを作ったもんだなー。


 理想を持って国造りしようと思っても、少なくとも税金に関しては周りの国々と横並びにしないと破綻してしまうのか。

 そして人間とゆーものは、あたしみたいな聖女ばかりじゃないから堕落しやすい。

 いい国にしようと思うほどパンク破綻の危険があるんで、結局周辺国に合わせてしまう。

 いつまで経ってもビフロンスの欲する悪感情を吐き出し続けるという循環だ。


「ひどいです」

「いや、悪魔はこんなもん。むしろこういうカラクリを作り出したビフロンスはすごい」

「恐縮です」


 これはビフロンスの仕掛けた誘惑に乗ってしまっているのだ。

 弧海州全体を巻き込んだ改革を打ち出せない人間側が悪い。

 あたしは我が儘だからかもしれんけど、自分に快適な環境を作ろうと努力したビフロンスを非難する気になれない。


「だけど何で弧海州を捨てて魔王の下へ行ったの?」

「いくつか理由があるんですけれども」


 ビフロンスはかなり賢い子だぞ?

 ヴィルも自分との入れ替わりを許可したくらいだ。

 結構評価してるに違いない。

 むざむざ魔王バビロンの下風に立たなくてもいいような気がするが?


「魔王様の供給してくれる尊敬の感情というものは、大変美味なのです。口下手な自分としては、悪感情を供給してくれる国制を維持するのも大変ということもあります」

「他の高位魔族との争いもあるぬよ?」

「そーか。何事も簡単じゃないんだねえ」

「外部からカル帝国が弧海州に進出してきたため、そろそろ潮時かとも感じました」

「なるほどなー。弧海州には悪魔多いんだ?」

「数人いますね。常駐している高位魔族で私が確認しているのはグリム、ベッポ、ズーラー、エザン、ゾヘッグの五人ですか」

「小物ばっかりだぬ!」


 ビフロンスの作ったシステムで甘い汁を吸おうと思ってるやつらだ。

 ヴィルの言う通り小物なんだろうな。

 ウルリヒさんも頷いてるし。

 小物だからと言ってつまらん子だとは限らないが、わざわざ会ってみようという気は起こらん。


「着きました」

「ここがビフロンスお勧めの見どころ?」

「見どころというか、一度見ておく場所だと思います」

「ゴミ捨て場やんけ」


 生ゴミはおそらく肥料にするために別のところに捨てられているんだろう。

 臭いはさほどでもないな。

 雑貨とか家具とかの壊れたものが捨ててある大きな窪地だ。


「随分と人が多いな。ゴミに用があるのか?」

「ダプールはものを持たない者ばかりです。使えるものがあるんじゃないか、直せるものがあるんじゃないかと、期待してゴミ捨て場に集まる人は多いです」

「ふーん。ちょっとウルリヒさん、これ持っててくれる?」

「何だ? 肉か? あっ!」


 さっきからこっちにチラチラ目を向けていた、一〇歳くらいの胡乱な子供がいる。

 悪魔がいるのにいい度胸だ。

 お肉に勝てずかっぱらいに来たところを捕まえる。


「病気の妹がいるんだ! 見逃してくれ!」

「そんなことはあたしに関係ない。質問に答えなさい」

「何だ!」

「ここにはあんたみたいな子多いんでしょ? 弧海州の外に逃げることは考えないの」

「……考えたことはあるさ。でも出国は危険だ。ダプールは人殺し火付け強盗性犯罪以外は認められてるから」

「えっ? ドロボーは罪にならないの?」

「ひったくりくらいじゃ憲兵は動かねえ」

「ちなみに人殺し火付け強盗性犯罪で捕まると刑罰は?」

「死刑だ」


 重大な犯罪以外はスルーってことか。

 住民もそれはわかってるから程度をわきまえるみたいだな。

 えらく大雑把な治安維持の仕方だ。


「もし移民として他の地域に安全に行ける。頑張れば儲けられるってことなら参加する?」

「誰でも行くに決まってるじゃねえか。あばよ!」


 手を振り切って逃げるその子。

 ばいばーい。

 ウルリヒさんが言う。


「病気の妹というのは?」

「多分ウソだね。今のお肉もあの子が食べられるのか他の人に脅し取られるのか、あたしは知らん」


 ま、でも結構若い人もいるみたいだから、移民としては有望じゃないかな。


「ところでビフロンスは何でこんなとこ連れてきたん?」

「やけっぱちの感情を得られる名スポットですよ」

「どんな名スポットだ。悪魔の感覚はわからんなあ」


 苦笑しながら総督府へ。

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