第2330話:あたしの発言力
フイィィーンシュパパパッ。
「おっはよー」
「おはようぬ!」
「やあ、精霊使い君。いらっしゃい」
皇宮にやってきた。
サボリ土魔法使い近衛兵が言う。
「既にドミティウス様とルーネロッテ様が近衛兵詰め所にいらっしゃってるんだ」
「早いね。世界のVIPたるあたしを待たさないようにという配慮かな?」
「いや、施政館の執務時間が九時からだろう? 普段通りといえば普段通りなんだが」
「お父ちゃん閣下は毎日馬車で施政館行くんだよね?」
「ああ」
「歩いた方がいいんだけどな。明らかに運動不足なのに」
皇宮から施政館までちょうど徒歩三〇分くらい。
散歩にはいい距離だと思う。
「散歩については置いといてだ」
「皇族かつ政府高官の健康問題より重要な問題を話してくれるわけだね?」
「嫌な言い方をするなあ。ルーネロッテ様はともかく、ドミティウス様が詰め所におられる状況というのは、近衛兵にとって緊張することなんだ」
「緊張をもって仕事に臨むとゆーのはいいことなんじゃないの?」
「いいか悪いかも置いといてだ」
「皆置いとくなあ。要するにお父ちゃん閣下がいると余計な気を使わなきゃいけないから、もっと早く迎えに来いって? ちょっとムリだわ。あたしは毎朝七時三分に起床と決めているし、畑仕事してから来てるんだもん」
「三分というのはよくわからないな。しかし畑仕事もしているのか。感心だなあ」
三分は心の余裕ってやつだよ。
「何であたしにゆーんだ。閣下本人に言いなよ。ここにいると邪魔なんですって」
「言えるわけないだろう。君じゃあるまいし」
「随分とあたしの発言力を高く評価してくれているようだけれども」
「発言力って誰にでもズケズケ文句を言うって意味じゃないからな?」
「じゃないぬよ?」
アハハと笑い合う。
「詰め所を大きく作り直すんでしょ? それまでの辛抱じゃん」
「詰め所が大きくなったところで、高貴なお方のプレッシャーが減るわけじゃないんだが」
「じゃあ根性の方を鍛え直せば?」
「君の根性が羨ましい」
何を言ってるのだ。
サボリ君はさっさと退避して、あたしの転送先まで移動してきてるクセに。
いや、しかしこれはお父ちゃん閣下が悪いわけじゃないから、何も言えないぞ?
詰め所作り直して貴族の来客立ち寄りも多くなりそうだから、慣れるしかないんじゃないの?
「今日は弧海州へ行くとか?」
「そーなんだよ。この前弧海州の中の聖グラントって国行ったんだ。異国情緒はあるよ? でもゴチャゴチャしてるところだなーってイメージ。同じ港町でも、整然とした秩序があるアンヘルモーセンとはえらい違い」
「そんなに違いがあるものなのかい?」
「アンヘルモーセンは天使の知恵があるせいだと思うけど、かなり計画的に街並みが作られているって感じるんだよね。聖グラントはダメだな。税金すげえ高いらしいんだよ? にも拘らず街造りにおゼゼ使ってる気がしない。荷車すら通れん道がメインストリートだったりするの」
「ひどいな」
「あれ外国から賓客来たりしたらどーすんだろ? 何か手段があるんだろうけどな」
「弧海州は皆そうなのか?」
「いや、わかんない。でも弧海州諸国は総じて税金が高いとは聞いたな。今日は帝国の弧海州植民地へ行く予定なんだ」
サボリ君が羨ましそうな顔をしとるわ。
しかしさすがに今日はサボリ君を連れていく名目がない。
「ウルリヒ様も同行するんだろう?」
「そうそう。一昨日魔物狩りして自領に編入した北の地区、あそこに移民を連れてきて耕作とかに従事させようっていう計画」
「うまくいくのか? 失敗すると治安が悪くなるだけじゃないか?」
「それなー。弧海州植民地は周りの国に比べて税金安いから人が集まっちゃうんだそーな。でも大して雇用があるわけないからスラム化しちゃって、経営がうまくいかないんだって」
「スラムの住人を連れてくるのか? 危ないぞ?」
「今ラグランド総督やってるジェロンさんに、弧海州植民地についてどう思うかを聞いたんだ。帝国が何らかの政策を出すんじゃないかと期待されてて、だから人が集まってくるってこともあるんだそーな。ジェロンさんの見解が本当だとすると、結構やる気のある人が集まってる可能性もある」
「どうかな? やる気って続かないぞ?」
「サボリ君が言うと説得力あるなあ」
「説得力があるぬ!」
アハハ。
バカにしたわけではないとゆーのに。
「閣下は閣下で、弧海州植民地の現状を見ておきたいっていう考えがあるみたいだね。もっともルーネが行くから同行したいという理由には勝てないだろうけど」
「わからない勝ち負けだなあ」
「くだらない勝負事は多いのだ。あたしは勝ち負けはどっちでもいいから、得な決着になるのが好き」
儲けてなんぼだ。
さて、近衛兵詰め所にとうちゃーく。
「おっはよー」
「おはようぬ!」
「ユーラシアさん!」
飛びついてきたルーネとヴィルをぎゅっとする。
恨めしそーな顔のお父ちゃん閣下。
「予も混ぜてもらいたいのだが」
「ちょっとムリだな。ルーネとヴィルだけの時はぎゅーの圧力が結構強めなんだよね。閣下が混ざると中身が出てしまう」
いや、冗談抜きで。
レベルが足りないということは残酷なのだ。
「今からウルリヒと合流かい?」
「うん。エッセンミッテの宮殿に行って、ウルリヒさん捕まえないと」
「エッセンミッテか。懐かしいな」
「閣下は行ったことがあるんだ?」
「ああ。先代公爵が健在であった時に招待されたんだ。まだ予も子供の頃だが。港町キールとは随分様子が違って、エッセンミッテは大きな田舎町という感じだろう? 落ち着いていていいところだなあと思ったものだ」
わかる。
エッセンミッテはのんびりした町。
商人が多いキールと対照的だ。
「閣下はマッチョクラブ食べたことはないんだよね?」
「マッチョクラブ?」
「カニの魔物です。すごくおいしいんですよ。私もこのまえヴィクトリア伯母様達といただいたんです」
「それほどか」
「うん。ウルリヒさんが産業化を考えるほど美味いの。今日お昼に食べようよ」
ほとんどスラム化してる植民地で出される昼食よりは絶対においしいはずという、偽らざる本音がチラホラ。
お昼御飯は重要だとゆーのに。
「じゃあヴィル、ウルリヒさんとこ飛んでくれる?」
「わかったぬ!」




