第2327話:あっさいぬ!
フイィィーンシュパパパッ。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「精霊使いじゃないか。と、ルーネロッテ様?」
今日は忙しいな。
ヴォルヴァヘイム近くに聖風樹の苗を植え、オードリー達を帝都のうっかり公爵邸へ送ってから、イシュトバーンさん家にやって来た。
何でルーネがいるかって?
ついて来たがるんだもん。
「今日はどうしたんだ? おかしな時間じゃないか」
「まあね。あたしも空き時間があんまりなくて。イシュトバーンさんが新『アトラスの冒険者』になりたいって言ってたことは知ってる?」
「「えっ?」」
あれ、ルーネはともかく、美少女番警備員ノアも聞いてないのか。
あ、イシュトバーンさん来た。
「おう、精霊使いか」
「麗しく美しいあたしだよ。ギルド行こうか」
「出資の件か? 行けそうならヴィルで連絡するって言ってたじゃねえか」
「そーいえばそうだったな。忘れてたわ。まあいいじゃん」
ルーネどうした?
「待ってください。どうして絵師様が新『アトラスの冒険者』に?」
「とゆーか転移の玉が欲しいみたいなんだよ。誰でも欲しいんだろうけどさ。それで新『アトラスの冒険者』のメンバーにはできないけど、組織に出資してくれることで関係者として転移の玉を渡すことはできるかなと思って」
もちろんお金さえ出せば誰にでも転移の玉を販売するわけじゃない。
イシュトバーンさんは現在のドーラを作ってきた大功労者の一人だし、何だかんだで信用できるからだ。
あれ、ノアが何か言いたそうだね。
イシュトバーンさんが転移の玉を欲しがるのは知ってたんだな。
切実な理由があるの?
転移の玉欲しいなんて当たり前だから深く考えなかったけど。
イシュトバーンさんをじーっと見る。
ほらほら、言ってしまえ。
「……隠してるわけじゃねえんだが。先日死んだ女房の墓参りに行ってな」
「亡くなった奥さんの?」
そーいや用があって留守にしてたって言ってたな。
奥さんのお墓参りだったのか。
イシュトバーンさんらしいような、らしくないような。
「実にいい女だった。胸が大きくてな」
「うん、もう流れが見えちゃった」
「いい女が集まるギルドに時々行きてえんだ」
「だろうね。聞いただけ損したわ。理由があっさいことあっさいこと」
「あっさいぬ!」
笑い。
イシュトバーンさんはおどけてこう言うけど、寂しいのかもしれないな。
あたしが来るようになるまでは、すげえつまんなそうに日々を過ごしてたみたいだし。
一方で出資してくれることは、新『アトラスの冒険者』の経営にとってプラスに働くことだ。
「そうだ、服屋の別嬪さんが衣装完成したって言ってたぜ」
「ヤヨイちゃんの服か。先に取りに行こうよ」
セレシアさんの服屋へゴー。
◇
「おや、チャーミングなユーラシアさんにルーネロッテさん、イシュトバーンさんも御一緒ですか?」
「ポロックさん、こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「邪魔するぜ」
セレシアさんからルーネとヤヨイちゃんの服を受け取ったあと、ルーネの転移の玉でギルドへやってきた。
「イシュトバーンさんが新『アトラスの冒険者』に出資してくれるって言うからさ。相談しに来たんだよ」
「それはそれは。ありがたいことですね」
ポロックさんニッコリ。
ポロックさんも新『アトラスの冒険者』の運営をどうするかは悩みの種だろうからね。
ぶっちゃけおゼゼがあれば解決することなのだ。
「おっぱいさんとこ行ってくるね」
ギルド内部へ。
「サクラさん、こんにちはー。ガルちゃんもおるやん。働き者だね」
ガルちゃんとヴィルとルーネをぎゅー。
おい、オレも混ぜろって顔をイシュトバーンさんがしてるけど、混ぜると危険。
「サクラさん、イシュトバーンさんが新『アトラスの冒険者』に出資してくれるって」
「ああ、とても嬉しいですね」
「一五〇万ゴールドでどうだい?」
「いいの? ありがたいなあ」
一五〇万ゴールドをポンと出せるのか。
さすがにイシュトバーンさんはお金持ちだな。
おっぱいさんがこっちを見てくる。
どういう意図があるのかって?
「要するに時々ギルドに遊びに来たいんだそーな。新『アトラスの冒険者』のメンバーになりたいみたいなこと言ってたけど、さすがにムリじゃん? マルーのばっちゃんみたいな出資者ならいいかと思って」
「なるほど。転移の玉目当てですね? 結構ですよ」
「やたっ! イシュトバーンさん、よかったねえ」
「おうよ!」
マジで嬉しそうだな。
転移の玉は行動範囲を格段に広げるスーパーアイテムだから。
というよりおっぱいさんに認めてもらったのが嬉しいのかな?
「おい、あんた明後日暇なんだろう? 明後日一五〇万ゴールド持ってくるから付き合え」
「暇ではないけどりょーかいでーす。明後日の朝ね。で?」
ガルちゃんはどうした?
考えてみりゃこんな時間に依頼受付所にいるのもおかしい。
「愚痴を聞いてもらっていたのです」
「愚痴? 何で?」
「ギルドの食堂もおいしいのですけれども、違う食堂でも食べたいなと思って」
「そーゆーことか。むーん?」
どこでも食べられなかったのがギルドの食堂で食べられるようになり、イシュトバーンさん家やチュートリアルルームにも時々招待してあげている。
もっといろんなところで食べたいということか。
意外と難しいんだよな。
ノーマル人至上主義のレイノスは論外だ。
カラーズの弁当屋よりはもっとちゃんとしたものを食べたいんだろう。
おっぱいさんに相談して解決しなかったなら、カトマスにも適当な食べ物屋がないっぽい。
カトマスにないなら厳しいな。
ルーネが言う。
「塔の村の食堂はどうですか?」
「あそこ他の悪魔のナワバリなんだよね。あたしもヴィル連れて塔のダンジョン入るの遠慮してるくらいで」
「どなたのナワバリですの?」
「ザガムムだぬよ?」
「でも塔の村は悪魔慣れしてるし、条件としてはベストだな。あそこの名物ローストダイカーは美味いんだ」
ウシ子なら交渉次第でそう文句言わないだろうしな。
「いきなり行ってケンカになるといけないから、あたしが間に入ってやろう。明後日の午後どうかな?」
「行きますわ!」
ルーネも行きたそうな顔してる。
わかってるって。
明後日道場の日だけど、午後なら大丈夫でしょ?
「明後日予定ができたなあ。じゃ、あたし帰るね」
「バイバイぬ!」




