第232話:メッチャヤバいやつやん!
フイィィーンシュパパパッ。
魔境にやって来た。
「オニオンさん、こんにちはー!」
「いらっしゃいませ、ユーラシアさん」
「魔境来るのすごーく久しぶりの気がする」
「ハハッ、レッドドラゴンを倒した日以来ですか?」
「うん、五日ぶりだ。魔境トレーニングのクエストの次のやつが至急でさ。こっち来られなかったんだ」
「ああ、至急のクエストですか。珍しいですね」
「それが片付いて次のクエストがドリフターズギルド・セットってので」
セットも既に一つクエストを終えて何たらかんたら。
おまけにどうやら黄金皇珠以上の魔宝玉持ってこいという依頼も、セットの中に含まれてそうな気配がうんぬんかんぬん。
「で、本題でーす! あたしは黄金皇珠以上の魔宝玉をゲットしなければいけません!」
「『黄金皇珠以上』なら黄金皇珠でいいわけですよね? ユーラシアさん確か、デカダンスのドロップで黄金皇珠持ってたような?」
「あれはもう売っちゃった」
「ああ、借金がどうのって言ってましたもんね。当然といえば当然ですか」
「この依頼、何と個数制限がないんだよ。持ってっただけ相場の五割増で引き取ってくれるって言うから、どっさり高級魔宝玉を送りつけて大儲けしようと思うんだ!」
オニオンさんが目を丸くする。
「これが大物の発想か……」
「やだなー、褒めても何にも出ないぞ? あたしが大物なのは間違いないけど。でも儲けたらまた、おっぱいさんとの会食をセッティングするよ」
赤く茹だったタマネギ咳き込むな。
よろしくお願いしますってボソッと言ったの、ちゃんと聞こえてるからねニヤニヤ。
「オニオンさん。人形系レア魔物のウィッカーマンについて、知ってること教えてよ」
魔境ガイドのオニオンさんほど、ウィッカーマンについて知っている者はおそらく存在しないだろう。
強敵ほど情報は大事だ。
あれ、オニオンさんも面白そうなものを見る目になったな?
マウ爺と一緒だ。
「次なる獲物はウィッカーマンですか?」
「うん。マウさんに相談したら、ウィッカーマンなら高級魔宝玉ドロップの可能性が高そうなこと言ってたから」
「はい。しかし相当難易度高いですよ? マウさんに焚きつけられたんじゃないですか?」
そーかも。
でも話聞いちゃったら倒さなきゃいかんよーな気もしてくるしな?
うちのパーティーは根っからの人形系ハンターだから。
「ウィッカーマンについての情報ですか。ユーラシアさんはどの程度のことを御存じですか?」
「魔境中央部の最強魔物が住んでるところにいる。ヒットポイントがメッチャ多くて倒せた人がいない。ダメージを受けると次のターンに逃げちゃう。スキルやアイテム使っても、逃げるのを妨げることはできないっぽい。五人以上で戦おうとするとやっぱり逃げちゃう、ってことはマウさんに聞いた」
オニオンさんが腕組みをする。
「倒せた者どころか、近年では戦った者自体がほとんどいないんですよ。現役の『アトラスの冒険者』の中には一人もいないんじゃないでしょうか?」
「マジか」
「かつてそれぞれ人形系レア魔物に対するかなり有効なスキルを持っていた三人のドラゴンスレイヤーがチームを組み、ウィッカーマンに挑んだことがあったそうなんですよ」
「ダメだったんだ?」
「ええ。しかも戦後のコメントで、ウィッカーマンにはまだ体力の余裕がありそうだったとのことなので……」
魔物と戦っていてあとどれくらいで倒せそうかというのは、自分のレベルが上がってくると何となくわかるようになってくる。
人形系レア魔物に対するかなり有効なスキルを持っていたドラゴンスレイヤー三人がかりの攻撃でまだ余裕ありそうって、相当とんでもないな。
普通ドラゴンスレイヤーのレベルって、今のあたし達より上だろうし。
「ふーん、ちょっと聞いただけでもどうしようかって感じだねえ」
「というわけで、ウィッカーマンとあえて戦おうとする冒険者はいないんです。だから情報も少なくて。あとワタクシが知ってることと言ったら、ウィッカーマンの魔法攻撃は『メドローア』で、一ターンに二発撃ってくるということくらいです」
『メドローア』とは、非常にダメージ効率が高いことで知られる火・氷の二つの属性を持った単体攻撃魔法だ。
うちのダンテも使えるが……。
「……『メドローア』の威力を軽減するには、火と氷両方の耐性がないと効果がないんだっけ?」
「はい」
「人形系って皆魔法力高い傾向にあるけど、ウィッカーマンも同じかな?」
「はい。ユーラシアさんのパーティーで最もヒットポイントが高いのはアトムさんかと思いますが、それでも対策なし防御なしでウィッカーマンの『メドローア』を連続で食らえば耐えられないんじゃないでしょうか」
「……当たり前だけど、敏捷性高いから先制で魔法撃ってくるんだよね?」
「もちろんです」
攻・走・守三拍子揃ったメッチャヤバいやつやん!
先制で『メドローア』を撃たれるとなれば、クララの強力な属性耐性魔法『精霊のヴェール』は当然間に合わない。
氷耐性を持つパワーカード『寒桜』は四枚持ってるけど、火耐性のカードは持ってないしな。
一番攻撃食らう盾役アトムを防御に回すと、火力が全然足りないし。
むーん、ウィッカーマンのヒットポイントを勘定する前に、こっちのヒットポイントを心配しなきゃならんじゃないか。
「いかがです?」
「今のあたし達が相手にするには危な過ぎるな。とりあえずレベルも準備も全然足りてないことはわかった」
「でももしウィッカーマンを倒せるとしたら、ユーラシアさんのパーティーだけだと思いますよ」
「あたしもそう思うけど」
いやこれ自慢でも何でもなくて、持ってるスキルと装備を考慮するとってことなのだが。
オニオンさんはあたしの自信と捉えたようだ。
「期待していますよ」
「うん、適当に頑張る。どっちにしてもドラゴン帯より中に行くためにはレベルが足んないわ」
オニオンさんが軽く笑う。
「で、今日はレベル上げですか?」
「レベル上げ兼ねてデカダンス狩ってくるよ。黄金皇珠をドロップするかもしれないし。あーんど行ってない場所もまだ結構あちこちにあるんだよね。調査しないといけない」
「ハハハ、行ってらっしゃいませ」
「行ってくる!」
ユーラシア隊出撃。
ここからユーラシアはウィッカーマン対策に奔走することになります。




