第2318話:魔物退治のエース
ウルリヒさんとこまで戻ってきて報告だ。
「ほう、この東端部は人形系魔物の集中生息地だったのか」
今日の魔物退治目標は達成した。
正確に言うと魔物を全て駆逐することはできなかったが、昼御飯分の働きはした。
いろんなお肉を比較しながら食べるのもよかった。
「魔物が湧くとこ初めて見たよ。あそこシロートさんが入ると危ないから、立ち入り禁止区域にしておいて欲しい」
「そうだな。ニッチモサッチモ。あとで詳しいことを報告せよ」
「「はい」」
「あたしから見ると人形系を狩れる天国みたいな場所だな。安定して人形系が湧いて、メッチャ強いのが出ないんであれば、魔宝玉の取得場所にも経験値上げにも使えるすげえ使い勝手のいいエリアになる。ニッチモサッチモに時々調査させといてね」
「え? ここまで来るのは大変なんだぜ?」
「お前達はしばらく北の地に駐屯だ」
「「ええっ?」」
何を驚いてるんだろうな?
「当たり前だろーが。特に今日領に組み入れた土地では、これからしばらくは魔物騒ぎが起きやすいじゃん? エースがいるのといないのとでは、村人の安心感が大違いだとゆーのに」
「「え、エース?」」
「そうそう。魔物退治のエース。あんたら以上の魔物退治のプロは、カルテンブルンナー公爵家領にいない」
「「お、おう」」
「あれ、ニッチモサッチモがエースって考えると実に不安だな? 大丈夫かしらん?」
「「最後まで責任持って褒めろよ!」」
大笑い。
あんたら『遊歩』持ってるでしょ?
ここからなら人形系の魔物の多い東端部まで、飛んでいけばすぐだよ。
「ウルリヒさん、魔物の本持ってない?」
「『魔物図説一覧』ならあるが?」
「『魔物図説一覧』なら間違いないな。ニッチモサッチモに貸してあげて欲しいんだ。エースならば真の意味での魔物退治のプロにならなくてはいけない」
「なるほど。一冊進呈しよう」
「やたっ! しっかり勉強するんだよ?」
「「おう!」」
やる気になったようで何より。
ん? どうしたルーネ。
「『魔物図説一覧』というのは、魔物について一番詳しいという本ですよね」
「うむ、『魔物図説一覧』以上の本はないな。魔物については最も信頼できる」
「頼りになる本だよ。強い魔物に関しては抜けてる情報も多いんだけどね。ルーネは知ってるんだっけ?」
「以前魔道研究所に連れていってもらった時に、チラッと聞きました」
「あ、そうだったか。よく覚えてたね」
ルーネはとても優秀。
「ユーラシアさんも『魔物図説一覧』には目を通しているんですか?」
「まあ一応は。でもあたしはルーネも知ってるように、面白くない本を読もうとすると寝ちゃうじゃん?」
「はい」
「うちのパーティーではクララが『魔物図説一覧』を一字一句暗記してるから、あたしが読む必要はないんだよね」
「クララさんはすごいんですね!」
「うちの子達はそれぞれ違う分野で優秀なんだ」
ハハッ、うちの子達が照れてやがる。
ウルリヒさんが言う。
「ユーラシア君の見立てでどうだ? 東端部はずっとこのまま人形系の魔物が出現するエリアなのか?」
「いやー、何とも言えないな。実際にギャルルカンが湧いたとこ見たから、現在人形系の魔物が出やすい状況にあることは確かだけど。続くかどうかはな?」
人形系の魔物が出現する条件を満たしていて、ずっと続くならラッキーとウルリヒさんは思ってるんだろう。
人形系ハンターを育成して、魔宝玉を東方貿易の目玉にしたいに違いない。
ただうまくいくかどうかはサッパリ。
「では東端部に何故人形系魔物が湧くのか、理由はわかるか?」
「全然。魔力濃度が高いからだと思うけど、その辺の因果関係は誰かが研究してくれないと解明されないんじゃないかな」
「ふむ、では魔力濃度が高い理由は?」
「それもわかんない。ただ魔境や『永久鉱山』みたいな魔力の流れは感じないんだよね。ヴォルヴァヘイムと似た理由で魔力濃度が高いんだと思う」
「ヴォルヴァヘイム?」
「ヴォルヴァヘイムの真ん中にはドデカい『ファントマイト』があるんだよ。それが周辺の魔力を集めちゃってて、超強い魔物が湧いちゃうの。多分ね」
「ほう!」
ウルリヒさんが身を乗り出してくる。
ウルリヒさんも研究者っぽいとこあるから、こういう話が好きなんだな。
「東端部にも『ファントマイト』がある?」
「とは限らんけど、何かの原因で魔力が集まるんだろうね。加えて地形、岩山に囲まれた盆地みたいなエリアだから、集まった魔力が逃げにくいじゃん? だから人形系魔物が湧くっていう稀有な場所が形成されてる」
「実に面白いな」
確かに。
考えを進めていくと、『ファントマイト』を集めりゃ人形系魔物を自然発生させる地区を作れるような気がする。
もし可能であればぼろ儲けが可能だ。
が、以前自由開拓民集落ハチヤの洞窟で、『ファントマイト』が内部にあったためにレッサーデーモンが湧いてしまったということがあった。
今人形系が湧いてるのもたまたまかもしれない。
魔力その他による人形系魔物発生条件が判明するまでに、ヤバめの事故がたくさん起きそう。
ちょっと実験はムリだろうな。
「いずれ宮廷魔道士を派遣してもらい、調査しなければならないかもしれないな」
「施政館に報告だけはしとこうか?」
「お願いしよう。こちらで調べられることは、俺が帝都に上る社交シーズンまでに報告書を作っておく」
「オーケー」
ウルリヒさんと視線を交わす。
ウルリヒさんは人形系魔物たくさんのパラダイスエリア(不確定)を、自領として確保しておきたいんだな?
施政館に秘密にしといてバレると(てかルーネやサボリ君がいるからバレるけど)直轄領として接収されるに決まってるから、あたしが立ち回って取り上げられないようにしてくれってことだろう。
了解です。
ルーネが言う。
「ユーラシアさんとウルリヒおじ様が何かを企んでる気がします」
「ルーネはなかなかカンがいいね。ま、東方領発展のために必要なことだよ」
魔物退治要員として経験を積んだニッチモサッチモはもとより、ルーネやサボリ君も今日一日で大分成長した。
お肉と毛皮を村人達にかなーりの量を提供することもできた。
満足満足。
「さて、おさらばの時間かな。サボリ君はルーネが連れ帰ってくれる?」
「はい、わかりました」




