第2317話:人形系パラダイス?
「おいおい、さっきから人形系の魔物ばかりが出るじゃないか」
本日の魔物退治も大詰め、もうすぐ東端部に着くはず。
人形系の魔物ばかりが出るってのは言い過ぎかもしれないが、ブロークンドールのあと、マジシャン土偶とギャルルカンが連続で現れているのだ。
これ偶然なのかな?
普通の魔物が出なくなったぞ?
「ちょっと驚きとゆーか珍しい現象とゆーか、正しき道を歩むあたしに神様がサービスしてくれてるんだなといい気分だね」
「何であんたの都合なんだよ!」
「人形系の魔物って、滅多に見られねえものなんだろ?」
「普通はあんまり出ないね」
「私レベル上がりました!」
「おめでとう。レベルは高くて困ることないよ」
ルーネもレベルが上がったか。
やっぱ人形系の経験値は高い。
とゆーかレベルとおゼゼを稼ぎたければ、どーしても人形系を倒したくなるよな。
人形系はたくさん出現するポイントが滅多にないというのがネックだ。
でも今日の占領計画における東端部は、人形系が湧きやすい場所なのかな?
今日レベルが四上がっているサボリ君が言う。
「普通じゃない事態が起きているから、人形系の魔物が出る?」
「かもしれないし、常にこの状態なのかもしれないね。どっちだろ?」
「魔力濃度が少し高い気がするんですよ」
「うん。ルーネ正解。魔力濃度の高いことが原因か結果かはわからんけど、人形系の発生に関係していることは間違いないと思う」
不思議な事態ではある。
安定して人形系が湧くなら嬉しい場所だけどなあ。
「以前ドーラで世界樹折っちゃった人がいてさ」
「他人のせいにしなくてもいいんだぞ? わかってるから」
「何をわかってるんだ。あたしのせいじゃねーわ!」
「でも一番得したのは御主人だぬ!」
大笑い。
あたしはトラブルメーカーではないとゆーのに。
「得したってのはわからない。どういうことなんだよ?」
「世界樹ってのは魔力を吸ってでっかくなる木なの。だから世界樹を折っちゃうと、近辺の魔力環境が大幅に乱れちゃう」
「理屈はわかりますね」
「その時は人形系の魔物が大量発生したんだ。経験値も魔宝玉もメチャクチャ儲かった。初めてレベルカンストしたのは、世界樹ポッキンの恩恵だったね」
あれ、サボリ君何考えてるの。
良からぬこと?
「……下世話な話で申し訳ないが、精霊使い君がメチャクチャ儲かったって言うとどれくらいなんだ?」
「帝国で国宝になってる高級魔宝玉鳳凰双眸珠は、ある種の人形系魔物のレアドロップでさ。それがボロボロ手に入るくらい」
「「「ええっ?」」」
「ビヴァ様に差し上げた魔宝玉ですよね?」
「そうそう。でもこれ内緒ね? 高級魔宝玉の相場が下がっちゃう。あたしも一定ランク以上の高級魔宝玉は市場で売却するつもりはないんだ。プレゼントに使おうと思ってるの」
「世界樹を定期的に切ればまた儲かるじゃねえか」
「実に魅力的な提案だね。必ず人形系が出るならそうするけど、どーゆー条件でどんな魔物が発生するかなんてわかんないじゃん? 神話級魔物が大量発生したら困っちゃうしな」
「「「ええっ?」」」
「人形系ほど儲かんないんだ。効率が悪い」
「別のことで困れよ!」
アハハ。
ルーネが実に楽しそうな顔しとるわ。
まあ魔境で神話級魔物が大量発生したところでそう困ったりはしない。
魔力濃度が落ち着けばどうせ生きられないだろうから。
人の住んでる地域じゃないなら、放っておけばいいのだ。
「さて、終点に着いたようだね」
「広いですね?」
回廊のようになっていた通路状の平地を抜け、東端部にやって来た。
なるほど?
「岩で囲まれているな」
「サボリ君、いいとこに気がついたね。外から魔物が入ってくることはなさそう。そしてこういう地形は魔力が溜まりやすいっていう特徴があるんだよ」
魔境トレーニングエリアを小規模にした感じだ。
アルアさんのパワーカード工房の外部にも似ている。
「それにしても気になる魔力濃度だな」
「あっ、ユーラシアさん、あれは?」
「おおう」
土がもこもこと盛り上がって形ができてゆく。どうやらギャルルカンの発生シーンのようだ。
「へー。人形系魔物ってああいう具合に誕生するのか。初めて見た。ためになったねえ」
「どうしますか?」
「じゃ、ルーネに任せた」
レッツファイッ!
ギャルルカンのアースクロッド! サボリ君がダメージを受ける。ダンテの実りある経験! ルーネの通常攻撃!
「リフレッシュ! ウイナー、ルーネ!」
「ありがとうございます!」
いやいや、結構ルーネはすごい。
距離あったのに的確な一撃でした。
魔宝玉を拾ってと。
ニッチモサッチモが言う。
「よく見るとあっちにもこっちにも魔物がいるじゃねえか」
「アッチモコッチモなんちゃって」
「人形系魔物ばかりのようだな。当然駆逐するんだよな?」
「いや、もう帰ろう」
「「「「ええっ?」」」」
あれ、うちの子達まで驚いてるがな。
「ユーラシアさんが人形系の魔物を見逃すなんてことがあるんですか? ライフワークじゃなかったんですか?」
「ライフワークだけれども。でも今日の目的は、魔物をやっつけて人間の居住域を増やそうってことじゃん? あんな魔物湧くとこ見ちゃ、人間が住めるようにするのはムリだもん。報告が先」
全員が頷く。
いや、原因を解明して取り除けばいいのかもしれんけど、人形系パラダイスを潰すなんてどう考えたって損だろ。
まだ人形系パラダイスと決まったわけではないけれども。
「ここはこのまま残しといて、経験値や魔宝玉を稼ぐ場所としてキープしといた方がいいよ。魔力濃度の高いとこは素材も湧きやすいしね。もっとも長期にわたって安定して魔力濃度が高いのかは、ちょっとわからん。要経過観察でーす」
「ウルリヒ様にもそう報告しておくぜ」
「今後ここにはあんたらしか来ないだろうけど、魔物図鑑にはよーく目を通しておくんだよ? どんな魔物が湧くかまでは判明したわけじゃないんだ。もう相手の強さを見れば理解できるでしょ? ヤバい魔物はあんたらなんか瞬殺されるほどヤバいからね? 絶対近付いちゃダメ」
「「わ、わかった」」
ちょっと魔力濃度が偏ると魔境クラスの魔物とか出そう。
ドラゴンとか強い上に好戦的だしなあ。
「さて、帰ろうか」
クララの高速『フライ』でびゅーん。




