第2316話:東端部へ
「私はダメダメだなあと思いました」
「そんなことないって」
「そんなことないぬよ?」
村人や領兵の皆さんとともに大肉パーティーと銘打った昼食はよかった。
参加者全員に喜んでもらえた。
結局クララも解体を手伝ってたわ。
魔物の亡骸が一〇秒でお肉になる様相は、カルテンブルンナー公爵家領の皆さんに『精霊は解体が得意』とゆー認識を植えつけていた。
違う、そうじゃない。
現在はうちのパーティーとルーネ、ニッチモサッチモ、サボリ君とともに東へ向かっている。
午前中に面積として広い平原を制圧したので、この分なら領兵解雇者を出さなくてすむだろうとのこと。
領兵の皆さんの顔も大分明るくなっていた。
東端部は占領してもそう旨みのある地区ではなさそうだが、地形的に押さえとかないと魔物の供給源になりそうなんだって。
台地みたいになってて、まだ中に入った人はいないだろうって場所。
でもねえ、何だかルーネが落ち込んでるみたいなんだよ。
元気付けるのもあたしの役目。
「そりゃまあルーネは新人冒険者だから、足りないことはあるよ。でもすげーよくやってると思う」
「でもユーラシアさんと比べたら……」
「他人と比べない方がいいぞ? 比較して優劣を決めるんだったら、ニッチモサッチモよりはうんと働いてる」
「「悪かったね」」
「ニッチモサッチモだって、あたしが見たところ十二分に合格点だわ」
だって平原を押さえるっていう目的を完遂してるんだからね。
でも変な照れ笑いすんな。
気持ち悪いわ。
おっと、魔物か。
「任せた」
「はい」
殺人蜂一匹を遠距離からルーネが倒す。
とても上手。
殺人蜂は空中で止まってることも多いが、今は動いてて難しいタイミングだった。
ルーネの『スナイプ』の操作は驚くほど進歩しているのがわかる。
「ユーラシアさんはゴブリンと意思疎通できるのでしょう?」
ルーネが浮かない顔をしていたのはそれか。
あたしならゴブリンを殲滅しなくてもうまくやれたんじゃないかって思いがあるんだな?
しかし……。
「クララが言うには、ああいう巣穴に住むのはホブゴブリンだろうって」
「ホブゴブリン……」
「ゴブリンの仲間には違いない。あたしなら話はできそうだけど、それとこっちの言い分を呑ませることは違うよ」
「え? 精霊使い君、ゴブリンと話せるのか?」
「うーん、話せるっていうのとはちょっと違うかな。正確には向こうの言ってることはわかるし、あたしが何言ってるか伝えることもできる」
サイナスさんによると、カンで相手の言ってることがわかって説得力で自分の言いたいことを伝えるんだそーな。
ニッチモサッチモサボリ君は呆れたような顔すんな。
要するに物事気合いで大体どうにかなるってことだ。
「今日のケースは、人間側の目的とゴブリンの既得権がバッティングするじゃん。おまけに向こうから攻めてきたんでしょ? どうにもならなかったわ」
「そうだぜ。ルーネ様はベストを尽くした」
「……ユーラシアさんのように味方につけるということはできないかもしれません。でも巣穴に引っ込んだホブゴブリンに対して、私は何も術を持たなかったんです」
「何も術を持たなかったのはニッチモサッチモも同じなんだって。ちなみにサボリ君だったら引きこもりゴブリンをどう攻略する?」
策がありそうな顔をしているのだ。
今日あんまり活躍の場がないから、少しはいい思いさせてやろ。
「出入り口が複数あるなら、空気が入っていく穴と出ていく穴があるはずだ。ならば煙で燻し出すことはできそうだな」
「おおう、やるなサボリ君。燻製ゴブリンが好みとは知らなかったよ」
「好みじゃないよ!」
アハハと笑い合う。
サボリ君を尊敬の目で見つめるルーネ。
「堤防を造って水を流し込むでもいいし、特別警戒区域に指定して兵糧攻めでもよかった。やりようは色々あったね。今日中に決着つけようって考えに縛られたところだけはよろしくなかった」
「はい」
「ま、でもしょっちゅうこっちに来られるわけじゃないから、なるべく片付けておきたいってのはわかる。責任感の表れ」
「ああ。ルーネ様は本当によくやってくれたと思うぜ」
「あ、食獣植物が出たね。サボリ君、少し働いてみる?」
「そうだな。一体くらい倒した実績がないと、近衛兵長に怒られそうだ」
槍でバサッとやっつけるサボリ君。
大変満足げだ。
レベル二〇超えたしな。
食獣植物くらいなら全然問題なし。
「ニッチモサッチモも今日は楽しかったでしょ? 最初はすげー不安がってたけど」
「魔物退治がどういうものかは理解したつもりだよ」
「舐めてちゃいけねえこともな」
「そうそう。計算通りいくことばかりじゃないからね。あたしなんか全然思った方向に行かないわ。AかBかって考えてると、大体予想外のCの方向に状況が転がっちゃう」
「そうなんですか? そろそろニッチモさんサッチモさんがいい気になって何かやらかすという通信くれた時も、状況を予見しているのかと思ってました」
「いやいや、買いかぶり過ぎだよ。物事ちっともあたしの予想通りになんかならないの。世の中驚きに満ちている」
うちの子達もすげー頷いてるわ。
だからあたしはトラブルメーカーじゃないとゆーのに。
サボリ君が指差す。
「あれ、人形系の魔物だろう?」
「ブロークンドールだ。ヤバいな。あんなのが出るのか」
ブロークンドールは全体風攻撃魔法『トルネード』を使ってくる厄介な魔物だ。
あんなんを討ち漏らしてレベルの低い村人のところに行っちゃったら、人死にが何人も出ちゃう。
「ルーネよろしく。ヴィルはやつを逃がさないで」
「わかりました!」「わかったぬ!」
レッツファイッ!
ブロークンドールのトルネード! 全員がダメージを受ける。ダンテの実りある経験! ルーネの通常攻撃! よーし、ウィーウィン!
「リフレッシュ! どうだった?」
「か、かなりの威力の魔法だな」
「もうちょっと魔力濃度の高い場所じゃないと出ないはずの魔物なんだけどな。人形系は案外出現条件がアバウトだから」
いや、東に向かうに連れ、徐々に魔力濃度が高くなってきてる気がするな?
だとすると偶然じゃないかも。
東端部には魔力濃度が高くなる原因がある?
ならもっと凶悪な魔物が出現する可能性があるのか?
「よくよく注意して行くよー」




