第2315話:敵は巣穴に住むゴブリン
――――――――――ニッチモサッチモルーネサイド。ルーネ視点。
「薙ぎ払いぬ!」
「薙ぎ払い!」
バタバタと倒れる人型、小さい、褐色の肌。
あれは……。
「ゴブリンだぬ!」
「あれがゴブリン、ですか」
とにかく数が多い。
おそらくゴブリンの生活圏に私達が入ってしまい、しかも先にそれを感知されたのだ。
気付かなかった。
油断していたわけじゃないけれど……。
「ゴブリンは弱いぬよ。でも遠巻きにして石を投げられたり、矢を射られたりするのは気持ち悪いぬ。毒矢もあると思うぬ」
「毒矢ですか。侮れませんね」
デミアンさんに聞いたことがある。
『ゴブリンやコボルトは知恵ある魔物だ。少数と出会うなら遭遇戦、多数の群れと出会うなら巣が近いと見ていいだろう。悪くない』
多数の群れということは、近くに巣があると考えるのが正しそう。
長期の消耗戦になると不利か。
受け身になると『キュア』で解毒してる暇はないかもしれない。
「ルーネ様、悪い!」
「戦線に復帰できるぜ!」
ニッチモさんとサッチモさんが戦闘に加わってくれた。
でも強引に突っ込むのもトラップに引っかかり、状況を悪くするのが怖い。
集団戦を仕掛けてくる魔物の脅威に戦慄する。
ユーラシアさんならどうするだろう?
ユーラシアさんはゴブリンと意思疎通できると言っていた。
しかしもう戦端を開いてしまった。
一旦『遊歩』のパワーカードを起動し、飛んで逃げるのが正解か?
この知恵ある魔物に飛ぶところを見せて逃げるのはまずい気がする。
対策されるかもしれない。
逃げると後続の領兵や村人に被害が出ることも考えられる。
それだけは避けねばならない。
全滅させることはできなくとも、壊滅的なダメージを与えておかなくては。
待って、飛ぶ?
「飛んで空中から間合いを取って『薙ぎ払い』を撃ちます!」
「正解だぬ!」
飛べばトラップにはかからない。
距離があれば矢は避けられる。
一方的にこちらの『薙ぎ払い』が当たる。
驚き崩れ立ったゴブリン達を追撃する。
よし、これでいい!
「追い詰めました、ね」
洞窟のような巣穴に住んでいるゴブリンのようだ。
入り口は私達でも入れるくらいの大きさだが?
ニッチモサッチモさんが言う。
「ルーネ様、追いかけて中に入るのは無謀だ」
「いくら何でもな。どんな罠があるかわからない」
「ですよね」
奇襲を受ける可能性も大だ。
でも巣穴を残すと魔物の掃討を完了できない。
どうする?
「ヴィルちゃん、どうしたらいいでしょう?」
「今ある手段で解決することはできないと思うぬ。御主人に相談するべきだぬ」
「そうですね。ユーラシアさんに連絡を取っていただけますか?」
「わかったぬ! 御主人! 相談があるだぬ!」
ユーラシアさんの声が聞こえてくる。
『もしもし、こちら美少女聖女精霊使いユーラシアだよ。どうしたの?』
「ルーネロッテです。こちらゴブリンが出ました」
『ゴブリンがいたかー。勉強になったでしょ?』
「はい。それで主力は叩いたのですけれども、残党は狭い洞窟みたいな巣穴に逃げ込んでしまったのです。攻めあぐねてしまいまして」
『へー。穴倉に住むタイプのゴブリンか。じゃあ今見えてる出入り口をハデに壊して、出入りできないようにしてくれる?』
「わかりました。どこか別の場所に穴を開けて出てきてしまうような気がしますが?」
『とゆーか出入り口はいくつかあると思うんだ。魔物を倒しながら、空から出入り口のありかをチェックしてよ。そうすれば巣がどっちにどう広がってるか見当つくから』
巣の広がり?
あっ、ダンテさんの極大魔法で巣ごと潰すつもりなんだ!
さすがユーラシアさん。
『こっち今佳境なんだ。三〇分もすればそっちへ加勢に行けるんで、よろしく頼むね』
◇
「御主人!」
「ユーラシアさん!」
「よーし、いい子達だね」
飛びついてきたヴィルルーネクララをぎゅっとする。
ニッチモサッチモが言う。
「いやあ、ゴブリンにはまいったぜ。ああいう嫌らしい魔物もいるんだな」
「吊り上げられた時には何事かと思ったぜ」
「ためになるでしょ? 想定外のことが起きた時に焦っちゃダメだからね」
頷くサボリ君を含めた三人。
ルーネは浮かない顔だが?
「ルーネロッテは落ち着いていたぬよ?」
「そーだったか。大したもんだ。ルーネもゴブリンは初めてなんでしょ?」
「はい。青コボルトというのはデミアンさんに連れていってもらって、一度見たことはあったのですが」
デミアンはアグネスを鍛えるために、『青コボルトの巣』とかいうクエストをもらったって言ってたな。
ゴブリンやコボルトみたいな小知恵の回る魔物は、一度経験しておくといいと思うよ。
ルーネだけでなく、ニッチモサッチモのためにもなって嬉しい限り。
「ユーラシアさんは極大魔法で、ゴブリンの巣を根こそぎ吹き飛ばすつもりなんですよね?」
「そうそう。バレてたかー」
「柵と村人は前進しないように指示してあります。私達も下がりますね」
「極大魔法って何だ?」
「理論上の魔力の凝縮限界にかなり近付いてるとゆーバカみたいな攻撃魔法だよ。下手に撃つと巻き添え食らうひどいやつ」
「「えっ?」」
「簡単に言うと、個人が使う分には世界最強の破壊魔法と思ってもらっていいよ。使いどころが難しいんだけど、うちのパーティーでは比較的お世話になるんだよね」
またまた、引いたフリなんかしちゃって。
結構見映えがする魔法だから、楽しめると思うよ。
サボリ君なんかワクワクしてるじゃねーか。
エンターテインメント対象の魔法と言っても過言ではないのだ。
「じゃ、行ってくるから、安全な位置まで下がっててね。サボリ君も一緒でお願い」
「わかった」
「お、おい。どこなら安全なんだよ?」
「ルーネについて行きなよ。ルーネは見たことある魔法だから。逃げ散った魔物はきちんと始末してね」
「了解です!」
クララの『フライ』で急速上昇。
これくらいの高さなら十分だ。
「さあ、ダンテ君ぶちかましてください!」
「オーケー、ボス!」
高まる魔力、凝縮されたエネルギーが放たれ、全てを吹き飛ばす。
もうもうと立ち上る砂煙の中、ダンテに『ヒール』をかけて一件落着と。
「この辺の掃討が終わったら、平原の魔物は始末した勘定になるね。とゆーことは昼御飯だ。頑張ろうか」
「「「了解!」」」




