第2314話:異変
――――――――――カルテンブルンナー公爵家領北の未所属地域の魔物退治開始一時間半後。ユーラシアサイド。
「雑魚は往ねっ!」
「おお、目先を変えた技だね」
「まあねえ。通常攻撃と『薙ぎ払い』だけじゃ御満足いただけないと思うから」
たまには違うスキルを見物させてやるかと、サボリ君にもサービス精神を発揮しているあたし。
エンタメ精神の方かな?
「あ、食獣植物だ。よっと」
「魔物多くないか?」
「水場だからだろうね。もうすぐモガム川に到達するじゃん? 氾濫した時に溢れた水が池になってるんじゃないかな。川より水を飲みやすいんでしょ」
「なるほどなあ」
「逆にここの魔物やっつけちゃうと、大半を倒したことになるんじゃないかな」
モガム川まで確保したら、ルーネ達との合流を目指して西進だな。
ヴィルから連絡がないところをみると、ルーネ達も特に問題なく魔物を倒せているんだろう。
「柵が見えてきたぞ」
「おおう、村人達も頑張って柵を押し上げてくれてるね。魔物を追い込んでくれれば、あたしも一振りでたくさん仕留められるから効率がいいんだよな」
「効率」
効率だぞ、効率。
口をポカンと開けんな。
でっかいネズミ四体に薙ぎ払い!
「そーいやサボリ君、レベルどうなった?」
「二上がったな」
「こんだけ倒してるのに二しか上がんないのか。人形系が出ないもんな。一応ノルマを達成してるからいいことにしよっと」
「新兵じゃあるまいし、一日でレベル二も上がるってすごいことだと思うんだが」
「帝国人の認識はそうかもしれんけど、ドーラ人美少女聖女冒険者たるあたしとしては、決して満足できる結果じゃないんだ。レベルが二〇~三〇上がるのは当たり前」
「ちなみに一日最高どれだけレベル上がったことあるんだい?」
「えーと、一〇一だな。あ、違うわ。レベル一から一〇一になったんだから一〇〇だわ」
「一〇〇」
あんぐりすんな。
帝国にも顎が外れるリアクションがあるのは理解したから。
知らん虫の魔物に攻撃!
「虫は食べる気にならないなー。誰かがおいしいって証明してくれればチャレンジするけど」
「虫のことはいいよ。一日でレベルカンストか」
「そーだね。前にわけあってレベルが一に戻っちゃったことあってさ。低レベルの面白さってのも満喫したけど、不便なことも多かったから上げたんだ」
「一日でレベルカンストか」
「同じことゆーな。うちの子達は一日でカンストだけど、その時あたしはレベル上限が一五〇になる固有能力持ちになってたんだ。とゆーより、レベルが下がったから発現したっぽい。超ラッキー」
「レベル上限が一五〇になるのはラッキーなのかい? 俺からみるとレベル九九でも一五〇でも変わらないような気がするんだが」
まーそう思うのも当然だけれども、あたしにとっては意味のあることだったりする。
ブレイブシープ六体に薙ぎ払い!
「さっきの『雑魚は往ね』ってスキルあるじゃん? あれは自分のレベルより低い敵を一撃でやっつけるってスキルなんだ」
「ほう、ということは?」
「例えばブラックデモンズドラゴンはレベル一二〇なんだそーな」
「……つまり災害級のドラゴンを一撃で仕留められる?」
「そゆこと。便利でしょ?」
「便利って……君の余裕にはそうした裏付けがあるのか。ヤマタノオロチ退治の新聞記事には冗談みたいなことしか書いてなかったから」
ヤマタノオロチ退治は冗談でなくて大マジだったのだが。
レベル九九と一五〇ではカンの働き方も違う気がするしな。
でっかいネズミ三体に薙ぎ払い!
「こっちは順調だからルーネに連絡入れるか」
赤プレートに話しかける。
◇
――――――――――その頃、ニッチモサッチモルーネサイド。
「御主人から通信だぬよ?」
「ユーラシアさんから?」
『おーいルーネ、聞こえるかな?』
「はい、よく聞こえます」
『様子はどうかな?』
「調子いいです。今のところ全て『薙ぎ払い』で倒せています」
『よろしくないな』
「えっ?」
『そろそろニッチモサッチモがいい気になって何かやらかすと思う。痛い目見ることも勉強の内だから構わんけど、ルーネは慌てないようにね。よく周りを観察するんだよ』
「わかりました。肝に銘じます」
『ヴィル、そっちは任せたぞ』
「了解だぬ!」
通信が切れた。
ルーネは思う。
ユーラシアさんの方は特に問題はないのだろう、だからこっちの心配をしてくれているのだと。
サッチモが言う。
「あの子からかい? 何て言ってた?」
「はい。あの、そろそろニッチモさんサッチモさんがいい気になって何かやらかすから注意しろと」
「「ひどいなあ」」
アハハと笑い合う。
でもユーラシアさんの言うことは不思議なほど当たるから、気をつけていないといけないな、とルーネは思った。
「でもよ、実際のところ、『薙ぎ払い』撃ってりゃ困ることないよな」
「何かあったら飛んで逃げればいいんだって。ルーネ様もそう思うだろう?」
頷かざるを得ない。
レベルは十分だし、魔物を倒すためのスキルもある。
魔力濃度に変化はないから、手に負えないほど強い魔物が現れることもないだろう。
正直苦戦する要素が思い当たらない。
人形系の魔物が固まって現れるケースとか?
でもそんなのさすがに気付かないはずはないし……。
「おっと」
「ニッチモさん、どうされましたか?」
「いや、何かに足が引っかかって……。あれ、草が結んであるぞ?」
「偶然じゃないか? 風でそうなったんだろ」
心に警鐘が響く。
違う、あの草の輪からは悪意を感じる。
間違いなく人為的なものだ。
でもどうして?
人なんか来るところじゃない。
仮に誰かが来たとしても、こんなことをする意味がない。
「うおあああああ!」
サッチモさんの叫び声。
草の蔓で宙吊りにされてる!
明らかにトラップだ。
ここを領地にしている何者かがいる?
未所属領という話じゃなかったか?
そうだ、混乱してはダメだ。
ユーラシアさんは慌てるなと言った。
よく周りを観察しろと。
ならば……。
「前方の敵は私とヴィルちゃんで相手します! ニッチモさんはサッチモさんを降ろして、後方を警戒しててください!」
「わかった!」
矢が飛んでくる。
頻度からして敵はおそらく複数。
威力がないのは、油断させるためかもしれない。
「来たぬ!」
「はい!」
敵だ!




