第2313話:今のところ順調
「あれ? 木人もいるのか」
うちの子達とサボリ君を連れ、カルテンブルンナー公爵家より北にある未所属領域の平原を進撃中だ。
こっちは特に問題はない。
逃げちゃう草食魔獣も多いけれども、適当に倒せている。
お昼御飯用お肉の確保の進捗状況は極めて順調と言っていい。
「木の魔物か」
「うん、トレントかな。動きはとろいけど、ふつーの木に擬態しててわかりにくいことがあるんだよね」
レッツファイッ!
バサバサっと太い幹を刈り取って胴切り。
はいお終い。
「あいうぃーん!」
「実に見事だなあ。結構強いんだろう?」
「うーん、一対一ならサボリ君といい勝負だと思うよ」
「植物系の魔物は、火属性の攻撃には弱いと聞いたことがある」
「らしいね。ただ火事になると嫌だから、火魔法はあんまり好きじゃないんだ。火魔法をメインで使ってる子もいるけど、主にダンジョンで使ってフィールドでは自重してるんじゃないかな」
木人は敏捷性こそないけれども、攻撃力はかなり高い。
つまり不意打ちを食らうと結構ダメージ受けそう。
赤プレートに呼びかける。
「ヴィル、聞こえる?」
『聞こえるぬ! 感度良好だぬ!』
「こっち木人が出たんだ。見た目でわかりにくいから、特に木の多いところでは惑わされないように注意してね」
『わかったぬ! 注意するぬ!』
「よーし、健闘を祈る」
これでいい。
出ることわかってりゃ大丈夫だろ。
サボリ君が言う。
「ルーネロッテ様が心配か」
「まあねえ。とゆーかルーネは注意力があるから、木人に気付かないなんてことはないな。でもニッチモサッチモはわからん」
向こうのパーティーはニッチモサッチモとルーネとヴィルだ。
実力的に、あるいは持ちスキル的には苦戦することはあり得ないのだが。
「何せ戦闘経験が少ないからなー。レベルが半分しかなくても経験があるなら安心できるんだけど」
ニッチモサッチモとルーネの三人は全員レベル三〇以上ある。
レベルだけ見るなら十分なんだが、実地がな?
「そういうものかい?」
「そーゆーものだね。あー心配だ」
「君がそこまで気を回すとは思わなかったよ」
「ルーネに何かあったら、お父ちゃん閣下に怒られてしまう」
アハハと笑い合う。
まあヴィルがついてることだし、心配のし過ぎだとはわかっている。
こっちはこっちで魔物をどんどん片付けていかないとな。
「モガム川を目指すぞー。どんどん北進だ!」
◇
――――――――――その頃、ニッチモサッチモとルーネの隊。
「まあ! ニッチモさんは『ララバイ』持ち、サッチモさんは『パラライズハンド』持ちなんですか」
「そうなんだ」
ルーネに言われて口調を崩しているニッチモサッチモの二人。
今のところ順調に魔物を倒せている。
草食魔獣は群れで現れることが多かったので、『薙ぎ払い』の連発でオーケーなのだ。
ユーラシアさんの言っていた通りだな、とルーネは思った。
「木人注意って連絡が入ったが、こっち木自体が少ないな」
「ええ、今のところは」
「油断してはいけないぬ! 魔物が出たぬ! スライムだぬ!」
「私が」
遠距離からのルーネの攻撃!
スライムの一種、クリーピングゼリーを両断する。
「ルーネ様すげえ!」
「この距離で真ん中切れるのか」
「いえ、私など全然大したことはないんです。ユーラシアさんなんか、飛んでる鳥を気付かせもせず切ることができるんですよ」
「「あの子はどこかおかしい」」
断言だ。
間違ってはいないなあ、とルーネは苦笑する。
「『ララバイ』や『パラライズハンド』って、すごく特殊な固有能力ではないですか」
「いや、でも自分が固有能力持ちなんて、祭りが開催されるまで知らなかったんだ」
「祭り?」
「ウルリヒ様が『自分の固有能力を知ろう祭り』というイベントを開催したことがあってね。持ち固有能力を知る機会ってなかなかないから、結構盛り上がったんだよ」
ルーネは頷く。
自分が固有能力持ちになってわかる。
固有能力を把握しておくことは、打てる手が多くなることだと。
「そうでしたか。さすがウルリヒおじ様です」
「自分が固有能力持ちだってわかった時は嬉しかったな」
「わかります。私も嬉しかったです」
「探していた固有能力だと、ウルリヒ様にスカウトされたんだ」
「カニ漁要員だと言われたが、何故か北に追いやられたな」
「イノシシの魔物だぬ!」
アールファングが出現した。
この辺りでは最強ではないかと言われている草食魔獣だ。
「一頭か。気を引き締めていこう」
「待ってください。ニッチモさんの『ララバイ』で眠らせることはできませんか? 私とサッチモさんヴィルちゃんでサポートします」
「やってみるか」
ニッチモは突進してくるアールファングに手をかざすとバタリと倒れる。
「あんなに興奮してる魔獣にも効くのか」
「睡眠耐性持ってないとどれだけレベル高くても眠らされてしまうと、ユーラシアさんが言っていましたよ」
「自分が思ってたより強力な効果だったよ」
「ニッチモさんが眠らせサッチモさんが麻痺させれば、かなり強い魔物にも簡単に勝ててしまうのでは?」
「ウルリヒ様にも同じことを言われたんだ。カニの魔物マッチョクラブを眠らせて麻痺させれば、商品価値を落とすことなく安全に茹でることができると」
ルーネが頷いている。
思いついたことがあるようだ。
「では、どの魔物に『ララバイ』や『パラライズハンド』の効果があるのか、検証してみなければなりませんね」
「イノシシが起きるぬよ?」
サッチモがアールファングに掌を当て、麻痺させる。
「素晴らしいです。あとになって暴れだしても困りますのでとどめは刺しておきましょう」
「そうだな」
「そうだぬ!」
「首を切ってと。こうして後続部隊に任せればいいですね」
「ルーネ様も『遊歩』は持ってるんだろう? ならば空を飛んで索敵するのはどうだい?」
首をかしげるルーネ。
ユーラシアさんならどうするだろうか? と考える。
「……いえ、見通しにくいところが多いため、魔物の見逃しが多くなりそうです。後続に負担をかけることになりかねませんので、このまま歩いて魔物を駆逐していきましょう。ヴィルちゃんは少し高いところから魔物を見つけてくださいますか?」」
「「了解!」」「了解だぬ!」
これでいい。
今のところ問題はない、とルーネは満足した。




