第2310話:ハートに刺さるのは
「サイナスさん、こんばんはー」
『ああ、こんばんは』
夕食後、毎晩恒例のヴィル通信だ。
『今日のこの絵が?』
「クリームヒルトさんとシシーちゃんのロリロリコンビ」
『コンビじゃなくて親子な?』
「ロリロリ親子って聞くと、言い間違ったか聞き間違ったか確認したくなる気がするね。ただの事実という衝撃」
『ハハッ。色っぽさより可愛らしさがテーマみたいだな』
「そーかも。ちょっとえっちパワーが足りんなーとは思ってたんだ」
今までのイシュトバーンさんの絵とは傾向が違う。
大体クリームヒルトさん自身が見かけロリだからな。
真ロリのシシーちゃんとのペアだと、ああいう絵にならざるを得ないのかも。
「それもポスター可だからね」
『ポスターとしてはいいかもな。愛情を感じるよ』
わかる。
イシュトバーンさんの謎技術は思ったより深いんだと考えさせられる絵だ。
これはこれでいい絵だから、違った層に売れるんじゃないかって気がする。
新境地ってやつなのかな。
『ところでシンカン帝国の方はどうなったんだ?』
「え? 今日は行ってないけど』
『どうしてだ。気になるじゃないか』
「ええ?」
サイナスさんがこんな駄々捏ねるって珍しいな。
放熱海以南の情勢なんてあたし以外に情報源がないってことはあるだろうけれども、それだけじゃ説明がつかないような?
「参考までに、シンカン帝国のクエストはどの辺がサイナスさんのガラスのハートに刺さったの?」
『ガラスのハートって言うな』
「じゃあ言い直す。鋼鉄のハートに刺さったの?」
『鋼鉄でもないけど。いや、単純に気になるだろう? 昨日の話は推論だけで組み立てたんだし、実際はどうなのかと』
ウタマロの婚約者であるシンカン帝国の第一皇女サヨちゃんには、現在の皇妃とその父である宰相という明確な敵がいる。
わかってるのはそこまでで、都合よく考えるとウタマロが次期皇帝有力候補ってことだった。
とはゆーものの、情報が足んないからわかんないことばっかりなんだよな?
『答え合わせしないと眠れないじゃないか』
「我が儘だなー。あたしも予定詰まってるから、しばらく向こう行かないんだよ」
『尋常でなく気になるんだが』
「あたしの関わってる現地と皇帝のいる都は距離離れてるんだってば。向こうでも情報集め始めたところのはずだから、大したこと聞けないと思うがな?」
『それでもウタマロ氏の皇位継承順位がどの程度になるかということはわかるだろう?』
「サヨちゃんと正式に結婚した時の皇位継承順位か」
しっかりしたルールがあるだろうから、有識者に聞けばわかりそう。
厄介なことになるのは、ウタマロの皇位継承順位が高ければってことだもんな。
高くないならサヨちゃんの呪いの首枷は次期皇帝事情に関係なく、個人的な恨みで取りつけられた可能性もある。
「サイナスさんにぎゃあぎゃあ言われると、あたしも気になってきたな」
『だろう? とっとと進めてくれ。オレの知的好奇心を満足させるんだ』
「いや、サイナスさんのやじ馬根性を満足させてやりたいのは山々なんだけど、時間がないのはマジなんだよ」
『ちなみに明日はどんな予定があるんだ?』
「帝国東方領のウルリヒさんとこへ行く。北の未所属領域に領地を広げるから、魔物退治の手伝いするんだ」
『重要だな。明後日は?』
「ラグランドへ行くんだよ。オードリー王女がずっと帝都にいるじゃん? 体のいい人質なんじゃないかって、ラグランド人がソワソワしてるらしいの。一度オードリーを見せとかないと、またギクシャクしそうだから」
『重要だな。三日後は?』
「ウルリヒさんとお父ちゃん閣下を連れて、帝国の弧海州植民地に行く。弧海州植民地って人集まり過ぎてスラムみたいになっちゃってるんだって。ウルリヒさんが領地広げると移民が欲しくなるから、お父ちゃん閣下が視察するのを兼ねて様子見に行こうってことになってる」
『全部重要じゃないか』
「VIPのあたしが関わってることだもん。スペシャルな案件に決まってる」
フカシじゃなくてマジなんだってば。
大事なことに関われるのは嬉しいことではあるけどね。
「四日後はイシュトバーンさんとギルドだな」
『ん? 絵かい?』
「画集関係ではなくて、イシュトバーンさん新『アトラスの冒険者』になりたいんだって」
『ええ? 無謀じゃないか?』
「まあ。いい歳だし。でも要は時々ギルドに遊びに来ておっぱいさんを観賞したいってことなんだよね」
『じゃあ新型の転移の玉を持ってりゃいいじゃないか』
「そゆこと。新『アトラスの冒険者』に出資してもらって、代わりに転移の玉を支給するってことでいいんじゃないかなって思ってる」
新『アトラスの冒険者』の資本が増強されることは、特に軌道に乗りづらいと思われる初期の運営にとってプラスだ。
とにかく基盤が脆弱だから。
『となると次にシンカン帝国へ行くのは五日後以降になる?』
「ふつーに考えりゃそーなるね。ただイシュトバーンさんがもっと早くしろって急かすんだよ。イシュトバーンさんの出資が繰り上がると、四日後にはシンカン帝国へ行けるかもしれない」
『期待してるよ』
期待されても、あたしの予定って余計なものが横から入ってきやすいので何とも。
『今日はどうしてたんだい?』
「クリームヒルトさんとシシーちゃん連れて、同腹の兄の双子皇子のとこ行ってた」
『モブ皇子だな? ああ、ひょっとしてまだシシー皇女の存在を知らないから?』
「ピンポーン。双子皇子はそれぞれ帝国本土北西部の貴族の次期領主になるからさ。社交シーズンまでは領地にいると思うんだよね。早めに知らせたいってことで」
『微笑ましいことじゃないか』
「もっと微笑ましいことに、シシーちゃんは冒険者の素質があるとゆーことが判明。北西部で冒険者ギルド立ち上げたとこがあって。レクチャーのために魔物狩りしてたら、シシーちゃんお肉お肉って大喜び」
『幼い子を魔物狩りに連れていくのはえぐい』
言われてみるとそうかもしれない。
でもシシーちゃんが喜ぶかと思って連れていったのだ。
実際に大喜び。
「サイナスさん、おやすみなさい」
『ああ、御苦労だったね。おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『はいだぬ!』
明日は魔物狩りとお肉パーティー。




