第231話:さんにんでぎゅー!
「倒した者がいない、ですか……」
セリカが抑揚のない声で繰り返す。
魔境中央部の最強の魔物達が住まうエリアに分布するという、人形系レア魔物ウィッカーマンか。
今まで出遭った人形系魔物からすると、強いやつほど高級な魔宝玉をドロップする傾向にある。
誰も倒したことのない人形系となれば、とってもゴージャスな魔宝玉を落としていくに違いない。
よし、ウィッカーマンを倒すことに決めた。
「うむ、素早く魔法攻撃が苛烈で、衝波属性攻撃しか効果がないのは他種の人形系と同じじゃ。しかしウィッカーマンは例外的にヒットポイントが多く、しかもダメージを受けた次のターンに必ず逃げるのじゃ」
「うわ、メッチャ厳しいな」
「厳しいぬよ?」
「逃げるのを防ぐ呪具やスキルも効かず、また冒険者側が五人以上だとすぐ逃走すると聞く。つまり実質一パーティーのみ、かつワンターンでヒットポイントを削りきらなければならぬ」
ふーむ、倒されたことのない魔物のことだけはある。
やたらと条件がキツいな。
しかしうちのパーティーには、衝波属性のパワーカード『アンリミテッド』と二回行動の『あやかし鏡』がある。
あたし最強のバトルスキル『ハヤブサ斬り・零式』には攻撃属性が乗るし、さらに『刷り込みの白』付属のバトルスキル『コピー』を使って倍のダメージを与えることができる。
好条件は揃っているが?
「どうじゃ、イケそうか?」
「一度戦ってみないと何とも言えないね。ウィッカーマンのヒットポイント次第だと思う」
「そうかそうか」
「レベルをもう少し上げたら挑戦してみようかな。楽しみが増えたよ」
「うむ、期待しとるぞ」
マウ爺完全に面白がってるじゃないか。
しかしいいことを聞いた。
打倒ウィッカーマンを今後の目標としよう。
誰も倒したことがないとゆーのもそそられる。
「ありがとう。今日は帰るね」
「午後は魔境か?」
「うん。これからしばらく魔境にお世話になりそう」
ウィッカーマンにしてもレベル上げにしても、また他の有用なものを見出すことにしてもね。
まだ魔境で行ったことがないところは多い。
オーガ帯辺縁部なんてメッチャ広いから、全部探索するのなんて大変だ。
でも今はレベル上げと高級魔宝玉が必要だから、ドラゴン帯が主戦場になるなあ。
アンセリがヴィルをチラチラ見ながら話しかけてくる。
「ヴィルちゃんをぎゅーしていいですか?」
「三人でぎゅーしようか?」
「「「さんにんでぎゅー!」」」
「ふおおおおおおおおお?」
よしよし、気持ち良かったかな?
ヴィルはいい子だね。
転移の玉を起動し帰宅する。
◇
「ただいまっ!」
「お帰りなさい」
あれ、クララだけ?
いい匂いがするぞ?
「夕御飯用のお肉を煮てるんですよ。野菜と薬草だけ入れれば食べられるようにしておきます。アトムとダンテは森に行ってます。もう帰ってくると思いますよ」
なるほどムダがない。
さすがクララ。
「海岸はどうだった?」
「やはり『地図の石板』は届いていませんでした。ギルドで何かわかりましたか?」
「うん、収穫あったよ。あっ、アトム、ダンテお帰り!」
「たくさん取れやしたぜ!」
「とりあえずコレだけコレクトしてきたね」
大量のカキとアケビだ。
やたっ!
「まだ食えそうな実が多いですぜ」
「グミかクコっぽいレッドの実がメニーメニーね。でもクララがいないとエディブルかわからないね」
「明日皆で森へ行こうか。せっかくだから、今日はこれ食べて魔境行こ」
ガブリ。
「あっ、姐御!」
「しぶーい!」
渋ガキかよっ!
「で、ギルドはどうでやした?」
「ちょっと待って。口が渋い」
うがいうがい、っと。
「えーっと、ポロックさんによると、いくつかのクエストをまとめて出すことはあるんだって。転送魔法陣が一つですむから、とゆーニュアンスだった」
ああ、と全員が頷く。
ここまで予想通り。
「セットになってるクエストが全部終わらないと次が出ないみたい。それから魔宝玉クエスト決定でーす。ちょっと内容変わりました」
もらってきた依頼書を見せる。
『期限は妖姫の月の末まで。黄金皇珠以上の魔宝玉。個数に制限なし。相場の五割増しで引き取ることを依頼料とする』
「こういうクエストでしたか。個数制限なしの部分が新しく加わった文言ですか?」
「そうそう」
「フーン、アバウトワンマンス……」
「いや、デカダンス倒しまくってりゃ大丈夫でやしょ」
魔宝玉一個納めて何とかってこと考えてるんじゃないんだよ。
ゴソッと大儲けしたいんだってばよ。
クエスト失敗なんてのはかなわんから、まず一個という考えはわからんでもないけど。
「マウさんからの情報だけど、魔境中央部の最強魔物群生息域に、ウィッカーマンっていう人形系レア魔物がいるんだって。誰も倒したことないんだけど、すごい魔宝玉をドロップするだろうって」
「名前だけは知っていますが、図鑑にそれ以上のことは何も」
「誰も倒したことがない? ワッツ?」
「ヒットポイントがやたらと多い。ダメージを受けると次のターンで逃げる。逃げるのを妨げることはおそらくできない。冒険者五人以上だと逃げちゃうから四人までで戦わなきゃならない、っていう条件付き」
クララの顔が引き締まる。
「つまりワンターンで倒し切らなければいけないということですよね」
「厳しいね。人形系レアに大打撃を与えるレアなスキルを何人もが持ってなきゃいけない、ってのがミソだと思うんだ。でもあたし達には『あやかし鏡』があって、それを『コピー』できるから」
最も人形系に対して大きなダメージを与えることができるあたしは『あやかし鏡』の効果で二回攻撃機会があり、それを『刷り込みの白』を装備することによって得られるスキル『コピー』によって倍化できる。
二回攻撃の『ハヤブサ斬り』系のスキルを使えば、一ターンで計八回斬りつけることができる計算になるのだ。
またクララの『勇者の旋律』でさらにダメージ効率を上げられる。
勝てないはずがあろうか?
「魔境中央まで行けるようになったら挑戦してみよう。当面の目標レベルは、ドラゴンに勝ったときより一〇上の六五で」
「了解ですぜ。腕が鳴りまさあ!」
「よーし、魔境行こうか」
「「「了解!」」」
魔境ガイドオニオンさんにもウィッカーマンのこと聞いてみよ。




