第2303話:かつてない危機が訪れる
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
クリームヒルトさんシシーちゃんとともに、チョップ男爵家領ブラウンシュヴァイクの冒険者ギルドに乗り込んだ。
が?
「えーと?」
何だ何だ?
隅っこで何人か身を寄せ合って震えているけど、あれが冒険者?
あたしの持ってる冒険者のイメージとかけ離れてるんだが。
ブラウンシュヴァイクではあれがスタンダードなスタイルなのかな?
それとも初心者だから、冒険者とゆーものを正しく理解していないのかな?
一人の男が立ち上がる。
「な、何だよ。脅かしやがって」
「ひょっとして借金取りかと思った? 観念してとっとと払え」
「どうしてあんたに払わなきゃいけねえんだよ! 違えよ!」
「じゃあ何なん?」
男はまだ震えてる後ろの連中を指差す。
「冒険者ギルドにかつてない危機が訪れる、なんて言うもんだからよ」
「ははあ、何かの固有能力持ちか」
「えっ?」
驚いた表情を浮かべる男。
どうやらあたしのことを危機と判断した人がいるみたい。
まったく失礼な判断をしたやつはどいつだ。
あれ、ギルドの中にいた六人全員が固有能力持ちじゃないか。
固有能力持ちの冒険者候補を集めたんかな?
本当なら大したものだが、惜しいことにおそらく全員がレベル一。
このままではどないもならんな。
「危機なんかじゃねえんだよっ!」
いきなり殴りかかってくる男。
シシーちゃんとヴィルを肩車してるのが見えないのか、この単細胞が。
くるっと後ろへ回って片手で持ち上げる。
「わわわわわ?」
「「すごーい!」」
クリームヒルトさんシシーちゃんが大喜びだから許してるけれども。
「どーゆーことなん? 誰か説明して」
「ブラウンシュヴァイクの冒険者ギルドへようこそ」
「そこからかい」
「お、降ろしてくれ!」
「説明を聞いてからだ。このばかちんが」
「ばかちんだぬ!」
何故か仮面を付けている唯一の女性が言う。
「私が当ギルドのマスターです。フーとお呼びください。ああっ!」
どーして仮面をつけてるのか聞こうと思ったら、叫び声で機先を制されてしまった。
なかなかやるな。
「『自然抵抗』『精霊使い』『発気術』『ゴールデンラッキー』『閃き』『限突一五〇』『魔魅』の固有能力持ち! とんでもない逸材!」
「仮面さんは『鑑定』持ちだったのか」
「その絶大な力が私のギルドを危機に陥れる!」
「何でだ。誰だ、危機どうこう言ったやつは」
おずおずと手を挙げる気弱そうな男。
『警戒』の固有能力持ちで魔物が近付いたりするとわかるらしい。
誰が魔物だ。
あたしがまとっているのは邪気じゃなくて、聖女の色気だわ。
「つまり仮面さんは、対魔物戦闘に役立つ固有能力の持ち主を集めてギルドを立ち上げれば、人々の役に立つしおゼゼも儲かると考えたわけだ」
「危機に看破された!」
「あたしは危機に陥れたりはしないとゆーのに。ところがレベルを上げないと魔物を倒せないことに気付いて開店休業状態。どうしようかと考えてるで合ってる?」
「大正解です」
「実に面白いな。仮面さんはどういう人なん?」
こんなギルドをさっと作れてついて来る人もいるなら、結構な有力者なんだろうけど。
半身になって身体をくねらせ、人差し指を口に当てる仮面さん。
「シークレットなのです」
「そのポーズはイラっとするな」
「フーさんは漁協の網元の娘なんですよ」
「あっ、言っちゃダメ!」
普通じゃないか。
何で内緒にしてるんだ?
網元の娘が冒険者ギルド始めたんだってオープンにした方が、協力者も増えるんじゃないの?
「どゆこと? 父ちゃんに反対されて、内緒で冒険者ギルド立ち上げたってこと?」
「父に反対されているわけではないのですけれど」
仕方なさそうに話してくれる仮面さん。
「勝算のない事業を起こすと、巻き込まれる者が不幸を見るからやめろと、父は言うのです」
「まともな父ちゃんだなあ。で、仮面さんにはどういう勝算があったん? シロートじゃ魔物を狩れないくらいのことはわかってたんじゃないの?」
「逸材さんが持ち上げている方、元領兵で『格闘』の固有能力持ちなのです。彼を中心にパーティーを組めば魔物を倒せると思いまして」
「『格闘』持ちだったのか。それは期待したくなるなあ」
「そろそろ降ろしてくれ!」
「ごめん、忘れてた」
下に降ろす。
しかし元領兵?
「元領兵には見えないな。レベルも低いし。ウソでしょ?」
「俺はウソ吐きじゃねえ!」
「んー? じゃあ何日間くらい領兵だったの?」
「……三時間だ」
「仮面さん。自分だけの目算で見切り発車するのはお勧めしない」
「重々反省しました」
反省されても状況はよくならないんだな。
しかし今日にも聖モール山越え街道が開通するのだ。
すぐに魔物と戦える人員が欲しいのは事実。
ルイトポルトさんの言い方からすると、おそらく緊急時以外に領兵を魔物退治に回す気がない。
とゆーか領兵もそれなりに忙しいんだろうな。
とすると必然的にギルドのメンバーを鍛えて、使えるようにしなくちゃいけないってことだな?
「ルイトポルトさんに冒険者ギルドの様子見てきてくれって言われたんだよ。ぶっちゃけ頼りないから何とかしてくれっていうニュアンスで」
「領主様が? 逸材さんは何者なのですか?」
「ドーラの美少女冒険者ユーラシアだよ」
「……どこかで聞いたことがありますけれども、思い出せないそのお名前は?」
「名前よりも美少女であることに注目しろ。違った、冒険者であることに注目しろ」
「はあ……。ユーラシアさんが当ギルドに所属してくださるので?」
「それはできない相談だけれども。ところで残りの三人の固有能力は何かな?」
『白魔法』『スナイパー』『マッチョ』か。
となると戦闘メンバー五人の内、前衛を『格闘』と『マッチョ』の二人が務める。
後衛から『スナイパー』も攻撃参加できる。
残りの二人がヒーラーと感知系か。
バランスええやん。
機能しさえすればだけど。
「少し魔物との戦い方を教えてあげるから、五人ついて来なよ。クリームヒルトさんは疲れちゃうといけないから、ここで仮面さんとお話しててくれる?」
「わかりました」
「ビーコン置いてと。危なくなったら転移で逃げてくるから、ここ近寄らないでね」
街道沿いの魔物除けがないところにどの程度の魔物が出るのか、勉強させてやるか。
さて、行くべ。




