第2302話:あたまよくない!
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
飛びついてきたヴィルとクリームヒルトさんシシーちゃんをぎゅっとしてやる。
チョップ男爵家領ブラウンシュヴァイクの山越え街道基点のところにやって来た。
「ユーラシア殿!」
「ルイトポルトさん、こんにちはー」
「あっ、クリームヒルト様も?」
「おはようございます、伯父様」
「お久しぶりでございます」
えーと人間関係どうなってるんだっけ?
確か双子皇子とクリームヒルトさんの母ちゃんが、ルイトポルトさんの妹だったか。
先帝陛下の側室の一人だな。
「今日はいかなる用で?」
「聖モール山越えの街道が再開通間際って話じゃん?」
「今日開通式ですぞ」
「そうだったか。ラッキー。皆さんにシシーちゃん二歳を見せたくて来たんだよ」
「シシーちゃんとは?」
「クリームヒルトさんの娘さん」
「えっ?」
シシーちゃんを見ながらポカンとするルイトポルトさん
娘がいるなんて話聞いてないぞという顔だな。
だって言ってないもん。
大変面白い事態だニヤニヤ。
「いかなる……いかなる事態なのです?」
「説明が必要だよね。ちょっとややこしいんだよな」
「「伯父上」」
あっ、双子皇子とジルケさんペトラさん来た!
ラッキー、皆来たからよかった。
説明が一回ですむわ。
「兄様方、お久しぶりです」
「「クリームヒルトじゃないか。その子は?」」
「うふふ、私の娘ですの」
「「「「えっ?」」」」
三年前に死に別れた旦那ラインハルトさんがどうの、ダールグリュン家に話せない事情があってこうの。
双子皇子が言う。
「そうだったのか。ドミティウス兄上に、ダールグリュン家と接触を持つなと言われていたんだ」
「ああ。兄上も理由は言えないとのことだった」
「クリームヒルトが元気にしていることが知れてよかった」
「シシーもクリームヒルトによく似て可愛いじゃないか」
「うふふ、ありがとうございます。シシーを抱っこしてあげてくださいな」
「わあい!」
シシーちゃんはマジで人見知りしない子だな。
双子皇子とルイトポルトさんに抱っこされて大喜びだわ。
ん、どうした?
双子皇子がこっちを見てくるがな。
今頃になってシシーちゃんが突然現れた理由が知りたいって?
今シシーちゃんがいるから、社交シーズンになって帝都に戻ってきたら話すよ。
あれ、シシーちゃんが双子皇子の顔をジーっと見てるな。
審美眼に問題あることない?
もっと美しいあたしの顔を見てる方がいいよ。
「かお、おんなじ?」
「おお、そーゆーことか。おじちゃん達は双子なんだよ」
「ふたご?」
「二人で一人前ってこと」
「「違う!」」
アハハ、相変わらず声が揃って面白いなあ。
二歳児の感性を磨いてやらないと。
「シシーちゃん。おじちゃん達の顔をよーく見て。どこか違うところがあるでしょ?」
「おんなじなの。わからないの」
「じゃあ一つ一つ比べてみようか。目はどうかな?」
「おんなじ」
「目はよーし。鼻はどうかな?」
「おんなじ」
「鼻もよーし、じゃあ他でよくないのは?」
「あっ、あたまよくない!」
「子供の言うことは時に残酷だな。本質を突いてしまう」
「「君が誘導したからだろう!」」
「御主人が誘導したからだぬ!」
爆笑。
正確には頭よくないじゃなくて、髪の分け方が違うだけどね。
「山越え街道開通の式典が始まっちゃうかな? シシーちゃんが退屈しちゃうと思うから、あたし達は街を散歩してくるね」
「では昼に屋敷の方へ寄ってくだされ。食事を提供させていただきますので」
「りょーかいでーす。ブラウンシュヴァイクの見どころってどこかな?」
帝国本土北西部は内乱に巻き込まれたことのない古い町らしいから、何かしら面白いもんがあるんじゃないかな。
と思ったけど、ルイトポルトさん困った顔してるがな。
「何分、特に変わったところのない田舎町ですので」
「そーかー」
男爵領って基本的に人口五万人以下くらいだっけか。
カラーズで見どころどこだって言われてるようなもんかもしれない。
漁港でも行ってこようかな。
シシーちゃん海や船は見たことないだろうし。
しかし思いついたようにルイトポルトさんが言う。
「そうだ、ユーラシア殿。面白いものが最近できたのです」
「何だろ?」
「冒険者ギルドです」
「おおう、冒険者の溜まり場か」
なるほど。
聖モール山越えの街道が本格稼動するから、魔物狩りのできる人員は当然必要になる。
集まるだろうルーキー冒険者を目当てに、ギルドを発足させた目端の利く人がいるんだな?
なかなかやるじゃないか。
魔物由来の素材やお肉を換金するでも、商隊のガイド兼守護でもやっていけそう。
「魔物と戦える人員は必要です。我が領でも後押ししたいところなのですけれども」
「うん。魔物の出る街道があるんだから当然だねえ。何か問題あるのかな?」
「報告によると、人員がお粗末過ぎるのではないかと……」
「わかる」
ひっじょーによくわかる。
魔物が生息している地区を完全に閉鎖していて平和な生活をしていたような人が、いきなり魔物倒せったってノウハウがない。
レベルもない。
「ユーラシア殿に見ていただいて、すぐにどうにかなる問題点があれば改善していただけるとありがたいのですが」
「帝国では一般人は武器持っちゃいけないルールがあるみたいだけど、どうクリアするつもりなんだろ?」
「ギルドメンバー二〇人を上限に、街道守備を任務とする準領兵として武器所持を可とする調整がついています。それ以外にスキルの習得について条件を緩和しようかと考えています」
ははあ、考えたな。
ギルドがうまく機能すると、給料を払わずして街道守備や魔物狩りをしてくれるだろうっていう寸法か。
しかし……。
「……最初が厳しいね。ある程度魔物狩りの経験のある人がいれば、その人を核に据えることで全員のレベルが上がってくだろうけど」
「まさにその点で。素質のある者はいるそうなのですが、未経験者ばかりなのです」
「領兵でギルドメンバーに転身するようなもの好きはいないと」
「さようです」
素質のある者って固有能力持ちかな?
鍛えてみる価値はあるか。
「わかった。冒険者ギルド行ってみるよ。どこかな?」
「すぐそこの大きな建物ですぞ」
街道入り口に近いいい場所だな。
クリームヒルトさんシシーちゃんとともにギルドへゴー。




