第2296話：構図がわかりやすっ！
「で、どゆことなん？」
「はっ？ えっ？」
送ってきた衛兵たちが去ったあと、急に口調を変えたあたしに戸惑い気味のサヨちゃんとお付きの女性達。
精霊の巫女口調はたまにはいいんだけど、続けてるとべろを噛みそうなんだよ。
ウタマロは落ち着いているな。
「どういうことかこちらが聞きたいのだが。さっきのユーラシアの行動は何だ？」
「何だもかんだもあらへんがな。あんな邪悪な飾りくっつけてこっちに寄越すのは、どう見たってサヨちゃんをよく思ってない勢力があるってことじゃん」
サヨちゃんとお付きの女性達が俯いてるがな。
可哀そうに。
状況を正確に把握してないとえらいことになるぞ？
「しかも皇帝陛下知らんみたいだぞ？ じゃあ先々何が起こるかわからん。サヨちゃんに万一不幸があったら、最悪こっちのせいにされちゃうことだってあり得るだろ。陛下に逆らうことにならないんだったら、聖地の威光を笠に着て取っちゃうに限る」
「む……」
「もっと言うと、あんなのつけっぱなしにしとくことは、獅子の民全体が舐められるんだぞ？ あの切った飾りを送り返してやればちょっとはビビるわ」
「実力を見せておくということか」
「そゆこと。得体の知れない守護者がいるってことは、衛兵さん達から間違いなく伝わるよ。警戒される分時間は稼げる。絶対に探り入れてくるから、懐柔して逆に都の情報を聞きだせ」
「小娘よ。お主が余計なことをせなんだら、警戒などされなかったのではないか？」
ボンボン父は何をのんびりしたこと言ってるのだ。
「おっちゃん話聞いてたか？ 向こうからの策謀だとゆーのに。おそらくサヨちゃんを始末するのが主目的で、そのためには獅子の民もろとも滅びても構わんくらいの感覚の仕掛けだぞ？ 獅子の民のやり方でやらせてもらうからつまんないことすんなって、機先を制して強気で頭を撫でてるんだから、今更弱気な態度を見せんな」
「獅子の民が滅びる？」
「一つ間違えればそーだとゆーのに」
長老が大きく頷いてる。
まったく若いやつらは危機意識がないんだから。
落としどころとしては、聖地にはアンタッチャブルだと思わせることか。
まーせっかくここの町や獅子の民が信仰の対象になってるなら、ちょっと見直させてやれってことだ。
サヨちゃんがおずおずと言う。
「あの、精霊の巫女様とはどういうお方なのです？」
「ドーラという海外の国の冒険者だ」
「相当な実力者じゃよ」
「とんでもない無礼者だ！」
「おいこら、それじゃわかんないだろーが。ただのウルトラチャーミングビューティーだよ」
あれ？ さらにわかんなくなったか？
目を白黒させるサヨちゃん。
地図を取り出して説明っと。
「ここがドーラ。シンカン帝国へは転移で遊びに来てるの」
「放熱海の北の世界の方でしたか。驚きです」
「あたしは冒険者とゆーお仕事をしててね。ウタマロとはクエストで知り合って、今日は何と婚約者さんが送られてくるようだって言ってたから、楽しみにしてたんだ。あたしはサヨちゃんを気に入ったので味方する」
「行動原理がシンプルですね」
「シンプルイズウルトラチャーミングビューティーだね。こっちがうちの子達。精霊のクララ、アトム、ダンテと、悪魔のヴィルだよ」
「よろしくだぬ！」
「精霊はほとんど喋んないけど、そーゆーもんだと思って」
「つまり精霊の巫女様は普段精霊や悪魔と冒険をされていると？」
「うん。理解が早いね。まず、サヨちゃんを取り巻く状況を手っ取り早く教えてちょうだい。都の人間関係とか。対応が遅いと面倒なことになるかもしれない」
「サヨ殿。そなたに首枷を嵌めたのは誰なのだ？」
「宰相の手の者です」
「宰相？」
って事務方トップ？
ヤバい。
今の皇妃だけじゃなくて、サヨちゃんの敵の勢力はかなり大きい？
守りきれるか？
ウタマロが言う。
「今の宰相閣下は皇妃殿下の兄だ」
「構図がわかりやすっ！」
サヨちゃんを送ってきた衛兵隊はサヨちゃんに好意的だった。
軍にまで皇妃・宰相派の勢力が及んでいれば、当然同派閥の者を衛兵としてつけて寄越しただろうから、恐れなきゃいかんほど強い派閥ではないのかも。
しかし魔道士には影響力がありそうだ。
油断のできる相手ではないな。
「ところであんなわけのわからん呪具をつけられるのは何でなの？ サヨちゃんを田舎に追放したと思ってりゃ満足なんじゃないの？ シンカン帝国では女の子にも皇位継承権があるん？」
「ないが、娘婿には皇位継承権が発生する」
「あれっ？ じゃあウタマロは次の皇帝候補なのか。敵対勢力から狙われるの当たり前じゃん。何でのんびりしてたのよ？」
「皇女であるサヨ殿がおいでになることを知ったのが、ついさっきだったからだ」
激動。
ウタマロと獅子の民に否応なく襲いかかる運命は、果たしてチャンスなのかピンチなのか。
サヨちゃんが申し訳なさそうに言う。
「すみません。私のせいで巻き込んでしまったようで」
「サヨちゃんは可愛いなー。全然責任を感じることはないんだぞ？ サヨちゃんみたいないい子が困ってるのに見捨てるなんて甲斐性が足らん。そんな臆病者は誇り高い獅子の民にはいないから」
何となく背筋が伸びるウタマロ長老ボンボン父。
ハハッ、扱いやすっ！
長老が言う。
「ウタマロを押し立てねばならんの。人脈と情報が大事じゃ。早急に動かねばならん」
「皇帝陛下に確実に連絡できるルートが欲しいね」
「うむ、こちらの行動がいちいち曲解されてはかなわん。陛下に不信感を抱かせてしまう。何せ敵は陛下の側におるのだから」
「あの、父がまめに便りを寄越すと言っておりました。皇帝直属の使いかと思いますので、まず信頼できるかと」
「助かるなー。よし、じゃあこっちはこっちで動いて、ウタマロとサヨちゃんの様子を陛下に伝えられればホットラインができるね」
「あとは？」
「ウタマロの手腕を見せつけなきゃならんなら、こっちで産業興して都に売り込みがてら情報収集したい。今の皇妃と宰相を味方に取り込んで、ウタマロが次期皇帝なら最高」
「皇妃と宰相を味方に取り込む？ 正気か？」
「正気だとゆーのに。ずっと敵じゃ国が割れるかもしれんだろーが。可能なら誑かせ」
今日は大雑把な方針までだ。
「今から新居に荷物運び込むのかな？ 手伝うよ」
