第2291話:『アンリミテッド』について
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「やあ、いらっしゃい」
路地を抜け、コルム兄のパワーカード屋にやって来た。
ルーネの誕生日プレゼントのためだが、何故かエルのパーティーもついて来た。
エンタメ成分が足りてないのかしらん?
まー今日は午前中に楽しい掃討戦と楽しい焼き肉パーティーがあったからな。
午後はお休みなのかもしれない。
午後まで探索に行ったレイカは働き者なのか気まぐれなのか。
しかし……。
「ルーネが『精霊の友』じゃないのがひっじょーに残念だな」
「どういうことですか?」
「コルム兄も『精霊の友』なんだ」
「つまり私が『精霊の友』だと精霊達が?」
「フリートークだね」
ルーネが残念そうな顔になったけど、精霊親和性は生まれつきだからね。
こればっかりは仕方ない。
「そこの白い精霊いるでしょ? 詰草の精霊コケシって子なんだけど、とんでもなくひどいやつなんだ。このメンバーだと高確率でエルが被害者になる」
何てこと言うんですかって顔をコケシがしてるが、チャグちょんまげコルム兄は頷いてるからな?
「エンターテインメントなんですね」
「あれ、わかっちゃう? ルーネは優秀だな」
「エンターテインメントなんかじゃない!」
「黙れ、持たざる者め」
「何を持たないんだ!」
「「おっぱい」」
「うがー!」
「ヴィル、鎮静剤」
「はいだぬ! ぎゅー」
「ああ、君は素晴らしくいい子!」
「素晴らしくいい子だぬよ?」
一通りいつもの芸をやり切りました。
満足です。
ルーネが拍手してら。
途中我慢しきれなくなったのか、『おっぱい』のところだけコケシが友情出演していました。
コルム兄が言う。
「今日ユーラシアはどうしたんだい?」
「『アンリミテッド』を一枚作って欲しくて」
『アンリミテッド』は衝波属性つきの攻撃用カードだ。
人形系魔物を簡単に倒せるようになるので、パワーカードを使う高レベルパーティーだったら一枚必須と言ってもいい。
しかし手に入れるためのハードルは高い。
「ルーネが一五歳になったんだそーな。プレゼントにねだられてしまった」
「ねだったわけではありませんが」
「ねだったわけではなかったか。もの欲しそーな目で見られてしまって」
「はい、『アンリミテッド』だよ」
「あれ、すぐ出てきたぞ? どゆこと?」
注文とレア素材の提出がいるんじゃないのかよ。
まーいいけれども。
「上級者になると欲しくなるパワーカードなんだろう? 素材が余ってたから作っておいたんだ。どうせユーラシアの紹介で買いに来る人がいるだろうから」
「そーだったのか。コルム兄やるう! ついでに『ポンコツトーイ』も一枚ちょうだい」
「合わせて一万ゴールドでいいや」
代金を支払う。
エルが懐かしそうだ。
「ボクも『アンリミテッド』が欲しくてユーラシアに相談したんだ」
「そうだったんですか?」
「ああ。最初は価値がよくわからなかったんだけど、探索を続けていく内、人形系の魔物を見逃すのは機会損失のように思えてきてね」
「人形系に対してどういうスタンスを取るかってのは、冒険者の一つのポイントだと思うわ」
「どうせユーラシアは誰にも教えられずに、人形系を倒すことに決めたんだろう?」
「経験値高いし、必ず魔宝玉をドロップするんだぞ? 倒すしかないじゃん」
倒さないという考えがあるんですかって顔をルーネがしてる。
ちょっと前まではスルーするのが当然って考え方が主流だったんだよ。
「塔のダンジョンは、比較的人形系魔物が多いんじゃないかってことなんだ。だからボク達じゃなくても、人形系を倒すという考え方が主流になっているよ。『経穴砕き』のスクロールを買って踊る人形を倒すところから始めて。階層が上がるとヒットポイントの高い人形系をどう倒すかがテーマになってきて。そこで『アンリミテッド』が欲しくなった」
「実によくわかる」
「しかし、ユーラシアは必ずしも人形系魔物の密度が高い場所で戦ってきたわけじゃないだろう? どうして人形系を倒すって考えに至ったのかは知りたい」
最初に『経穴砕き』のスクロールを手に入れてクララに人形系の魔物について教えてもらった時から、とは言いづらい雰囲気だな。
「あたしは展開に恵まれてたな。第一回掃討戦の時のボスがデカダンスで、倒してレベルが一〇以上上がって。その後魔境で戦うにはどうしてももっとレベルが必要って結論になって、コルム兄に『アンリミテッド』作ってもらったんだ。高級魔宝玉を可能な限り持ってこいっていうクエストもあった」
「『アンリミテッド』みたいな、対人形系用のパワーカードを作ってもらおうって発想になるのがすごい」
「チラッと言ってみただけで、マジでできるとは思わなかったんだよ。そしたらコルム兄が得意げな顔をして作れるって言うもんだから」
「うん。オレも自作がユーラシアに高く評価されていることを知って嬉しかったな。人形系の魔物を倒してレベルを稼ぐ者はこれまでにもいただろう。が、その手段を積極的に用意して、狙って人形系魔物を倒すメソッドを確立したことについては、ユーラシアがパイオニアだと思う」
「自分にできないことは他人の手を借りるといいんだよ」
頷くエルとルーネ。
自分だけでできることなんて多くないよ。
「まー本当はルーネが自分で素材を集めて作ってもらうのがよかったんだけれども。絶対そっちのが経験になるからね」
「ごめんなさい」
「えっ? ユーラシアはボクの時は随分協力してくれたじゃないか。早く『アンリミテッド』を持てってニュアンスだったと記憶しているけど?」
「当時は当時の事情があるんだよ。具体的には帝国が攻めてくる可能性が濃厚だったから、信頼できる高レベル者の数が必要だったの」
「そんな理由だったとは。いや、あの時既に戦争まで考えていたのか?」
「まーね。自分勝手な理由でごめんよ」
レベルが上がることはいいことだ。
大して悪いことだと思っちゃいないけど。
「『ビートドール』という対人形系スキルをカラーズで作ってるんだ。こっちではまだ広まってないと思うけど、これがあればヒットポイントの高い人形系でも倒せるようになるからね。デス爺に言えば仕入れてもらえるって宣伝しといてよ」
頷くエル。
よし、塔の村での用は終わりだ。
帰ろうかな。




