第229話:アフュークエスト?
ラルフ君パーティーのレベル上げは無事に終了した。
表情に自信が満ち溢れていること。
師匠としても鼻が高いよ、えっへん。
「ほう、なかなか美味いですな」
「そーですねえ」
夜もラルフ君家でごちそーになってしまった。
といっても訓練先のクー川左岸で狩った、突進熊の焼き肉がメイン料理だが。
ラルフ君の御両親もお肉は好物とのことだが、魔物の肉を食べたことはなかったらしい。
レイノス近郊のこの辺には、魔物もほとんど出ないみたいだから。
突進熊はなかなかイケるお肉だ。
若干臭みがあるけど旨みも強い。
ちなみにクマを捌ける料理人がいなかったので、クララが手本を見せていた。
クララの解体は最早名人芸の域だ。
愛用のデカ包丁でないというハンデを微塵も感じさせない。
「このお肉は香草や香辛料が映えるだろうねえ」
「ユーラシアさんは香辛料にも造詣が深くていらっしゃるので?」
ラルフ君パパが食いついてくる。
商売ネタになりそうなのかな?
ラルフ君、こういう姿勢を見習えよ。
「ドーラの食文化は、帝国に比べるとかなり劣っていると考えざるを得ません。一番の問題はやはり、香辛料調味料の利用状況にあるのではないかと思うのです」
わかる。
日常的に使われてるのほとんど塩だけだもんな。
頑張ってコショウ、砂糖、カラシ、トウガラシ、醤油、酢くらいだけど、もちろん一般家庭に常備してあるわけない。
「クエスト関係で知り合った異世界の人がいるの。その人に教えてもらった料理が衝撃的においしくて。珍しい香辛料を組み合わせて使って味の骨格を作る、こっちの世界にない発想で、ぜひ再現したいんだ」
「ほう、面白いですな」
「使われてた香辛料の一つであるくみんは魔境で発見してるんだ。どうしても必要な香辛料がもう二、三あるの。うちの子によるとこっちの世界でも存在してるものだとのことなんで、いつかは実現できると思う。あれを再現できればいっぺんにドーラの香辛料文化が発展するんじゃないかな」
魔境って言ったところでビクっとしたラルフ君パーティーの面々。
ダメだぞ、そーゆー反応すると弄りたくなるじゃないか。
「魔境、ですか……」
考え込むラルフ君パパ。
「一般に魔境と言うと、高レベルの魔物が闊歩するところってイメージじゃん? でも実際は強い魔物がいるってだけの場所じゃないの。気候や環境が場所場所で全く違っていて、素材や植物も本当に様々なものが採取できる。あたしもまだ踏破してないところが多くてえらそーなこと言えないんだけど、商売考えてる冒険者にとっては実に魅力的なエリアなんだよ」
「ほう、ユーラシアさんが入れ込む地ですか」
「未発見の有用なものは多いと思うね」
しめしめ、前のめりになってきたぞー。
「ラルフ君のパーティーのアーチャー、ウスマン君が魔物のドロップ確率が上がるという、優秀な固有能力を持っててね。だからあたしもラルフ君のパーティーを常々魔境に誘うんだけど、なかなか乗ってきてくれなくて」
「ラルフ!」
商売っ気の勝ったラルフ君パパが強い口調になる。
「かのドラゴンスレイヤーが誘ってくださっているというのに、お前は何ともったいないことをするのだ!」
「そうですよラルフちゃん。我が儘はいけませんよ」
「い、嫌だ。魔境だけは……」
震え上がるラルフ君パーティー。
ハハッ、十分楽しんだからそろそろ解放してやろ。
「いやいや、ラルフ君にはメンバーと決めた道があるのだと思う。我を通せないのはとても冒険者とは言えないから」
「「「「しぃしょおおおお!」」」」
救われた子犬みたいな目で見るんじゃない。
弱音吐いたら魔境に引きずってくって言おうと思ったけど、今はお腹一杯だから勘弁してやんよ。
「ごちそーさまでした。楽しかったでーす」
「いえいえこちらこそ。お構いもできませんで」
わざわざラルフ君の御両親が送りに出てきてくれた。
「ラルフ君パーティーはどこかで宿取ってるの?」
「いえ、皆ここでお世話になってます」
まあラルフ君家が拠点なら面倒はないし、おゼゼ使わないしな。
ラルフ君もメンバーを放さないためにはベストだと思う。
「師匠は、明日は?」
「魔境かな」
ビクつくなよ。
もう誘わないとゆーのに。
今日は。
「じゃあ失礼しまーす。さよーならー」
転移の玉を起動し帰宅する。
『クエストを完了しました。ボーナス経験値が付与されます』
ん? クエスト?
どういうこと?
レベルが五八になった。
◇
帰宅後、緊急の作戦会議を行う。
「何かクエスト完了のアナウンスあったけど、どーゆーことだろ?」
いや、ラルフ君に頼まれたし、ラルフ君実家も盗賊困ってたみたいだから、あれがクエストでもおかしくはないのだが。
魔宝玉で大金持ちクエストはどうなった?
「魔宝玉持ってこいってのがあったんでやしょう? 今日のがクエストだとすると、どういう扱いになるんでやすかねえ?」
キャンセルってのもあり得るが。
「アフュークエストね?」
「え?」
ダンテが妙なこと言い出したぞ?
「『ドリフターズギルド』のあとの『セット』のことね。クエストの個数がいくつかあるのかもしれないね」
「ありそーだな」
「『アトラスの冒険者』は何でもアリね。マジックサークルのコスパからすると、アフュークエストは都合がいいね」
ダンテの言う通り、魔法陣の設置コストを考えると運営側にも有利だ。
今まで複数のクエストのパターンはなかったが、別にあってもおかしくはないな。
とするとギルドでいくつかのイベントをこなせということになる。
むしろボーナス経験値を何回ももらえるなら得だわ。
クララが言う。
「明日新しい石板が来るならこのクエストは終了です。ダンテの説が正しいのであれば、複数個のクエストの内一つが終わったということなのかもしれません。ギルドでポロックさんかサクラさんに聞いてはいかがですか? いずれにしても魔宝玉クエストがどうなったか、ハッキリさせないといけませんし」
「ギルドでまた別のクエストがもらえるってこともあり得ますぜ」
「じゃあ明日あたしギルドに行ってくるよ。誰かに捕まるかもしれないけど、昼までには帰ってくる。あんた達は石板のチェックと、森で木の実なってないか見といてくれる?」
「「「了解!」」」
「今日はおしまい。おやすみっ!」




