第2288話:もうちょっとだなー
ルーネとお喋りしながら東進する。
東征の方がカッコいい気もするな。
「『アンリミテッド』が手に入るなら、対人形系スキルの『ビートドール』は必要ないですよね?」
「うん、いらない」
そろそろ東から西へ進んできてる冒険者達と会えてもいいんだけどな。
東側の指揮官はマウ爺だから慎重なのかな?
討ち漏らしがないように、足並み揃えて西へ向かってるのかもしれない。
だったら西側の討ち漏らしを全員で掃討すりゃいいからありがたいな。
はしゃぎ気味のルーネが言う。
「私に必要なスキルがわかりました」
「ちゃらららっちゃらー! さあ、ルーネの考えを発表してもらおうか」
「はい。武器の攻撃属性が乗る『薙ぎ払い』と、単体に大ダメージを与えられる大技のスキルがあればよさそうです」
「もう一つ絶対に必要なスキルがあるな」
「何でしょう?」
「『煙玉』だよ」
「あっ、逃走スキルですか」
リターンの追求はもちろん大事だが、リスクの管理も大事なのだ。
今は『煙玉』のスキルスクロールも売ってるから、買っとくべきだと思う。
お父ちゃん閣下の考えにも沿うんじゃないかな。
「うちのパーティーでも『煙玉』は時々使うんだよ」
「世界最強のパーティーでもですか?」
「うん。クララが『逃げ足サンダル』のパワーカードを装備してて、それに付属してるやつね」
「どうして逃げることがあるんです?」
「そりゃ苦労に見合わない魔物なんかと戦いたくないからだよ。めんどくさいじゃん」
あれ? ルーネが首捻ってるぞ?
あんまり理解してもらえないことなのかな?
あたしは戦闘民族ではないので、ムダな戦いはしたくないのだ。
あたしの単独行動が増えているので、むしろ自分用に『煙玉』のスクロール買っとこうかと思ってるくらい。
「例えばデカダンス倒してレベル上げしようと考えた。デカダンスのいるところにはドラゴンもいます。じゃあドラゴンから逃げる手段は必須だよねってこと」
「あっ、そうですね」
「これはうちのパーティーが初めてドラゴン倒す前に採用した方法なんだ。危ないから一人でやっちゃダメだぞ? でもそーゆーやり方があることを知っとくのは悪くない。どうしてもレベルが必要な場面があるかもしれないし」
まあ絶対逃げられるのは戦略の幅を広げるよ。
気分的に楽だし。
「あっちゃいけないことではあるけど、ルーネ自身皇女様なんだから狙われることだってあるかもしれない」
自分の実力以上の人に追われたらそりゃ怖い。
どうにかする手段は持っているべきなのだ。
「スキルについては以上の三つでいいでしょうか?」
「そーだね。あとは必要に応じてでいいよ。デミアンの言うこと聞いてたら、いくつスキルあったって足りない」
「あははは!」
いや、マジで。
「パワーカードはどうでしょうか? 私に必要なものといったら」
「『ポンコツトーイ』は常備しててもいいな」
「『ポンコツトーイ』? 知らないカードです」
「製法が失われてしまった昔のカードなんだ。ただし意外と数は出回ってるんだよね。これも塔の村コルム兄のとこで買えるよ」
「どんな効果なんですか?」
「装備してると、魔物倒した時の経験値が五割増しなんだ。レベルアップが早くなるよ」
掘り出し物屋さんを値切ってしまったこと、今となっては懐かしいな。
「すごい効果ですね!」
「あたし達もお世話になったなー。あげちゃったから今は持ってないけど。初めてレベルカンストする時までは常時装備してたよ」
「初めてレベルカンスト、とはどういうことですか?」
「ルーネには言ってなかったっけ? バアルを閉じ込めている籠は、パーティーのレベルを全部コストとして使用する魔法の効果なんだ」
「……つまりユーラシアさんのパーティーは、レベルカンスト状態からレベル一に戻って、もう一度カンストしたということですか?」
「そゆこと」
ルーネが感心してるけど、方法論がわかればレベル上げるのは大変じゃないから。
「自動回復や耐性のあるカードはうまく利用して欲しいね」
「私、アルアさんのパワーカード工房にもう一度行ってみたんですよ」
「おおう、そうだったか」
ギルドの転移石碑からアルアさんとこへ飛べるようになってるらしい。
「リストを見せてもらって、ビックリするような効果のカードがあるなあと思ったんですよ。ユーラシアさんは大体交換可能だとのことでしたので」
「アルアさんとこは、レア素材持ってくと一枚だけ交換してくれるカードがあるってことは聞いた?」
「はい、『あやかし鏡』とか『暴虐海王』とか。それから[騎]のカードは間違ってるんじゃないかと思うくらいの効果ですよね」
「あーその辺は一番ヤバいカードだな」
『あやかし鏡』の二回行動なんて頭おかしい系の筆頭だ。
『あやかし鏡』と『暴虐海王』がなかったら最初ドラゴンに出遭った時、あんなに簡単に倒せなかったよ。
「ルーネもいずれ、何これ? ってカードを手に入れる機会があると思うよ。パワーカードはどれもこれも何らかの目的を持って作られてるからさ。これはどういう意図があるのかなーって考えながら使うと面白い」
「はい!」
「こんなカードが欲しいっていうのがハッキリしてれば、アルアさんに相談してもいい。可能なら特注で作ってくれるからね。あたしも何枚か特注のカード作ってもらったんだ」
「飛行カード『遊歩』は、元々ユーラシアさんのアイデアなんですよね?」
「そうそう。冗談のつもりだったのに実現しちゃった、粋でいなせなパワーカード」
細かいカードの説明なんか、今のルーネにはもう必要ないだろ。
カード編成を考えるのも楽しいよ。
「ユーラシアさん!」
空からフワリと降りてきたのはラルフ君のパーティーだった。
「ここから西側は討ち漏らしがあるだろうけど、大体オーケーだと思う。東は?」
「東側は横並びで戦線を作って押し上げてきてますので、討ち漏らしはないと思います。自分の担当していた谷は怪しいんですよ。まだ魔物が残っているかもしれません」
「よし、東側の冒険者と合流したら、飛べるメンバーは谷をチェック、それ以外のメンバーはそのまま西へローラー作戦だね」
「東側の冒険者達はすぐそこまで来ていますよ」
「もうちょっとだなー」
何がもうちょっとって昼御飯がだ。
お腹減ってきた。




