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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第2283話:恨めしそうな子犬

 びゅーんと飛んでフワリと降り立つ。

 クララの高速『フライ』で灰の民の村へやって来た。

 クララの飛行魔法は練度が高いなあ。


「サイナスさん、こんにちはー」

「こんにちはぬ!」


 あれ、サイナスさん休憩してたか?

 油断してるからあたしの餌食になるのだ。


「ああ、ユーラシアか」

「お肉攻撃を食らえ!」

「お土産かい? いつもありがとうな」


 ハッハッハッ、お肉攻撃には誰も勝てないのだ。

 勝負に勝ってお肉に負けるという言葉もある。

 勝てないなら降参するといいよ。

 お肉は全てを許すから。


「で、何の勝負だったん?」

「は?」

「あ、ごめん。こっちの話だった」

「ユーラシアの言うことはわからんなあ。今日はどうしたんだい?」

「昨日言ってた粘土板を持ってきたんだ」

「ああ、クエストで手に入れたものだな? 魔道の基礎が書かれているという」

「うん。図書室に置いとく。アレクが勤労精神を発揮して本に書き起こそうとするかもしれないし」

「あんまりアレクを働かすなよ?」


 アレクが忙しいことはわかってるけれども。

 ただ魔道の基礎ということになると、デス爺やペペさん以上に頼りになるから。

 エメリッヒさんとの共著でいいから書いてくんないかな。


「それから明日の開拓地拡張のための掃討戦の打ち合わせだね」

「黄の民の輸送隊員、カール氏、あとユーラシアとアレクケスハヤテがカラーズ側の防衛で、残りの人員はクー川沿いから西に向かって進撃すると聞いた」

「そうそう。つけ加えるとヴィルがその様子を監視してて、南が破られそうになったらあたしが急行することになってる」

「随分大雑把だね?」

「細かいこと決めたってしょうがないじゃん。魔物がこっちの思い通り動いてくれるわけでもいないし」

「まあそうだな」

「前回の掃討戦はもっとひどかったぞ? 詳細はあたし以外当日に知らされてるし、レベル三〇以上の人はペペさんしか参加してなかったし」

「考えてみるとひどい。よく目的を達成できたな」


 あたしもそう思う。

 中級冒険者以下で攻撃方法が『経穴砕き』しかないのにデカダンス倒せって、今から振り返ってみりゃ無茶も極まる。

 あんな戦いに身を投じるとは、あたしも若かったわ。


「今回は前回より参加してる面々のレベルがうんと高いんだよ。掃討しなきゃいけない面積は広いかもしれないけど、まー楽勝だな」

「おいおい、フラグにならないだろうな?」

「ドラゴンスレイヤーが何人も参加してるんだよ?」

「この上なく豪華だな」

「豪華なんてもんじゃないわ。世界中のどこで掃討戦やったって、これ以上のメンバーは集められないわ。大体あたしもいるわ」

「最後が一番心配なんだよなあ」


 何故に?

 ハプニングに愛されてるのはあたしのせいじゃねーわ。


「あとは夜に話すよ。アレク達は図書室にいるよね」

「と思うよ」

「じゃねー」

「バイバイぬ!」


 図書室へ。


          ◇


「やあ前途ある若者諸君! こんにちはー」

「こんにちはぬ!」

「ユー姉」「姐さん」「ユーラシアさん」


 明日掃討戦だというのに特に気負いはなさそう。

 塔のダンジョンの探索で魔物退治にも慣れてきたんだろうな。


「『前途ある若者』ってこの前も言ってたけど、マイブームなの?」

「そーだったかな? 単なる事実だから気に留めてなかったよ」


 そこはかとなく嬉しそうな三人。

 ハハッ、ちょろいやつらめ。


「明日の打ち合わせだか?」

「いらないでしょ、そんなん。じゃーん!」

「粘土板?」

「前途ある若者達へのプレゼントだね」

「ライオンのダンジョンでゲットしたね」

「アレクさん、これ魔道のことについて書かれているんですよ。ただ読むのがなかなか大変ですので、図書室に並べておいていただければと」

「姐御はボンに研究して欲しいんですぜ」


 真剣な目で粘土板を見つめるアレク。

 そーゆー目でエルを見てやればいいのにニヤニヤ。


「あれ? これ転移術についても書かれているじゃないか」

「あっ、やっぱ転移術も? これ放熱海よりも南の昔の大魔道士が残したと思われるものなんだ。その人転移ゲートも作ってたからひょっとしてと思ってたけど」

「魔道具についても書かれている。でもケイオスワードの基礎の記述が多いね」

「とてもわかりやすいと思うのです。本にできないでしょうか?」

「本か……」

「転移術の本は危ないからいらんのだけどさ。魔道の基礎の本は後進のために欲しいんだよね」


 ケスがつまらなそうに言う。


「姐さんはズルい」

「何がよ?」

「アレクの活躍する材料ばかり持ってくるじゃないか。おいらが手伝えない」

「おらもだ!」

「おおう、ごめんよ。あたしもさすがに自分のところに何が転がり込んでくるかまでは選べないわ。まあでもケスとハヤテに聞いておきたいことはあるな」

「何だ?」「何だか?」

「最近、塔の村行くとどお? 特にあんた達からエルがどう見えているのかを知りたい」


 アレクは素直に言わないだろうからニヤニヤ。

 ケスとハヤテが顔を見合わせる。


「ちょっとおかしいんだ」

「エルが?」

「ピリピリしている気がするだ」

「よろしくないな」


 辛抱しきれなくなったかアレクが聞いてくる。


「ユー姉の予想によれば、異世界は今月中にエルさんを連れ戻しに来るんだろう?」

「まず間違いなく来るだろうね」

「ユー姉はボク達に動くなって言ったけど、ボク達だってジリジリするんだ。何かできることはないのかい?」

「ない。強いて言うなら、エルにイライラすんなって伝えといてくれる? エルがナーバスになってると、却って適切な対応が取れなくなるかもしれない。あたしが決定的な情報を掴んだら必ず知らせるからって」

「それだけなのか?」

「向こうの世界はあたし達の知らないスーパーテクノロジーを持ってるんだぞ? 向こうが本気で綿密な計画を立ててきたら、勝ち味が薄くなっちゃうんだよ。向こうを焦らせて複雑なことしてこないように工作はしてるから、こっちが焦って向こうに悟られるのは絶対にダメ」


 恨めしそうな子犬みたいな顔してもダメなものはダメだとゆーのに。

 こっちが待ち構えていることがバレると、マジで勝てなくなっちゃうんだってば。

 あたしは勝てない勝負は嫌い。


「明日エルに会う機会があるかもしれないな。話してみようか。じゃ、明日ね」

「バイバイぬ!」


 転移の玉を起動し帰宅する。

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