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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第2279話:サービスで教えとこうか

 あたしの穏便な考えとしてはこうだ。


「ラインハルトさんは不慮の事故でお亡くなりになりました。でもクリームヒルトさんのお腹の中には赤ちゃんがいました。クリームヒルトさんは夫の喪に服しながら娘を育てていました。この度三年の喪が明けましたので御報告させていただきます、でいいんじゃない?」

「三年の喪というのに違和感があるんだが。長過ぎやしないか?」

「いーんだよその辺は。夫を結婚後すぐに亡くしてクリームヒルトさんがショックを受けていたの、シシーちゃんが二歳を超えるのを待ってたの、ダールグリュン家の慣習だの適当な理屈をつけとけば」

「よし、そのセンで調整できるか?」

「任せて。新聞記者と打ち合わせしとくね」


 驚くオズワルドさん。


「ユーラシア殿はこの展開を読んで新聞記者を呼び寄せていたのですか?」

「って言えるとメッチャカッコいいけど、実はただの偶然なんだ」


 道案内頼んだだけ。

 でも偶然が必然ぽくなるのが、あたし主演のイベントのミラクルなところ。

 主人公補正すごい。


「いやー、ルーネ連れてこなくてよかったわ。お父ちゃん閣下の怖いところを見せちゃうところだったわ」

「だからルーネロッテを置いてきたのかい?」

「とゆーか本音を聞けないと、解決にならないじゃん。変な歪みが残ったりするとよろしくないから」


 プリンスがニコニコしている。


「ダールグリュン家については、引き継いだ懸念事項の一つだったんだ。無事に片付いてよかったよ」

「めでたいねえ。もう一つサービスで教えとこうか。シシーちゃんは何かの固有能力持ちだよ。かなりレアなやつだと思う」

「「「えっ?」」」

「まさか『繁栄』?」

「種類まではわかんない。でもあたしが今までに会ったことのないやつのような気がするから、『繁栄』なのかも」


 とはいえ十中八九『繁栄』で間違いないとあたしのカンが告げている。

 閣下が言う。


「『繁栄』は嫡男にしか受け継がれないのではなかったのか? 二代も飛んで受け継がれるなどということがあり得るのか?」

「素因っていう、発現してない固有能力の種みたいなもんがあるんだよ。ルーネの『風魔法』も元々は素因だった。発現はしてなかったけど、オズワルドさんにもラインハルトさんにも『繁栄』の素因は受け継がれていた、とすると辻褄は合うね」


 嫡男というか最も期待されてる子で発現しやすい固有能力なのかもしれないし、たまたまかもしれない。

 固有能力もわからんことが多いなあ。

 発現するしないって何で決まるんだろ?

 フィフィなんか素因が多いって話だったけど、一つも発現してないしな?


「とゆーか、シシーちゃんが『繁栄』の固有能力持ちと決まったわけじゃないじゃん。早めに調べとくことをお勧めする」

「そうですか、『繁栄』が……」


 涙するオズワルドさん。

 だから決まったわけではないとゆーのに。


「ラインハルトは自暴自棄気味になっていたのです」

「『繁栄』持ちじゃなかったから?」

「はい。同じく『繁栄』持ちでない私が軽視されるのを見て育ちましたので」


 その頃はダールグリュン家もまだ先代が存命だったんだろう。

 オズワルドさんは『繁栄』持ちじゃなかったから、先代からもネチネチ言われたんだろうなあ。

 オズワルドさんの苦労はお察しするよ。


「固有能力至上主義はよろしくないなー。ドーラにもそーゆー人いるけど」

「ユーラシア君も固有能力を重視するじゃないか」

「自分の固有能力を知らないのは人生を狭めるから、知っといた方がいいってだけだよ。固有能力はおまけに過ぎない。あたしが可愛くて可憐なことに何の寄与もしてないし」


 それこそアデラちゃんみたいに持たざる平民高官もいる。

 できるやつかそうでないかに固有能力は関係がない。

 ラインハルトさんもそう割り切ってれば、追い詰められることはなかったんだろうけど。

 生まれた家の環境ってやつもあるしなー、難しい。


 閣下が言う。


「ユーラシア君なら信頼できる鑑定士に当てがあるだろう?」

「帝都内だと一人しか知らんけど」

「十分だ。鑑定結果が出たら知らせてくれるか」

「りょーかいでーす。あとで行ってくるね」

「オズワルド。もしシシーが『繁栄』ならしっかり教育してくれ」

「わかりました!」


 オズワルドさんの声に熱が入る。

 目標ができて嬉しいんだろうなあ。

 シシーちゃんが『繁栄』持ちでも、まだちっちゃい子なんだから入れ込み過ぎんなよ?

 そしてプリンスと閣下は、再びダールグリュン家の経営能力を利用することに決めたらしい。

 悪いやつらめ。


「ではオズワルド殿。今後ともよろしく」

「いえ、もったいない」

「困ったことがあったら、ユーラシア君を頼ってください」

「ええ? フリがアバウト過ぎる」

「アバウト過ぎるぬ!」


 アハハと笑い合う。

 これにてダールグリュン家問題は一件落着だ。


「他にユーラシア君の方から何かあるかい?」

「えーと特には……そーいや一昨日ヴォルヴァヘイムの近くで、アーダルベルトさんに会ったな」

「ああ、そうだった。聖風樹林を育成するので街道の位置を変えられないか、アーダルベルト国土大臣に視察に行ってもらってるんだ」

「まだ帰ってないのかな?」

「今日帰都する予定だね」

「じゃ、大まかに報告しとくね。あたしのやってる聖風樹の植樹の方は今のところ非常に順調だよ。地図に従ってうまく育ちそうなところ選んでるってこともあるけど、枯れる苗もなく全部根付いてる」

「これで巨大魔物が出現しなくなればいいのだが」

「それなー。魔力溜まりと巨大魔物に関しては、まだ何とも言えないけど」


 時間が経ってみないとわからん部分だ。

 巨大魔物が出ちゃうにしても、頻度が少なくなったり弱い魔物になったりなら一応成功だ。

 でも全然出なくなって大成功ってのがいいわ。


「新街道通すのに邪魔な岩の塊があってさ。ドカーンと魔法で吹き飛ばしたから、いい感じに街道ずらせると思うよ。とゆーかルーネ一緒だったんだけど、閣下聞いてないのかな?」

「聞いてない」

「もーちょっと親子の会話何とかしなよ」


 余計なお世話かもしれんけど。

 お父ちゃんに報告しといてって言っとくべきだったか?


「以上でーす」

「ああ、御苦労様」

「じゃねー。ヴィル、ダールグリュン家に飛んでくれる?」

「はいだぬ!」

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