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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第2271話:連邦制という選択肢

「あーおいしかった」


 会談は特に波乱もなく終了した。

 食料事情がよろしくないからお昼御飯はロクなもの食べさせてもらえないと思ってたけど、そうでもなかった。

 カムイ隊長が頑張って手配したんだろうな。


 昼食後、あちこちで談笑している様子が見られる。

 うんうん、平和は相互理解から。


「あれ、閣下がモイワチャッカとピラウチの代表と話してるな」

「通貨単位統一についてじゃないでしょうか。資料持ってきてましたよ」

「あ、そーか。ありがたいな。でもグラディウスさんから離れるなって言ってあったのに。危機意識が薄いんだから。ヴィル、一応閣下のガードについててくれる?」

「わかったぬ!」


 ふよふよ飛んでいくヴィル。

 悪魔がいれば話のネタにもなるだろ。

 モイワチャッカとピラウチが順調に停戦から和平の道を選ぶなら、次は国家再建を目指すこととなる。

 通貨単位統一に関して特に反対する理由はないはず。


 ビバちゃんが言う。


「先ほどの昼食のお肉はおいしかったですわ」

「食べたことないお肉だったでしょ?」

「そうね。四つ足なのかしら?」

「ウシに似たあの味は多分キングヌーだな。この辺りの草地に住んでる、かなり図体のデカい草食魔獣だよ」

「私はタレがおいしいと思いました」

「そーだ、ルーネの言う通りだ。醤油と砂糖、酢、ニンニク、あと何かの果汁だな。多分あたしの知らない果物」

「イチジクだと思うわ」

「イチジク?」


 知らん果物だ。

 何それ?


「夏になると出回る、柔らかい甘みが特徴のフルーツよ。フェルペダにもありますわ」

「へー、イチジクは覚えとこ。戦争で荒れてるモイワチャッカでも栽培できるなら、気候さえ合えばそう栽培は難しくないと見た」

「ドーラにも導入するんですか?」

「いずれはしたいね。でも調べてからだな。手間とか収量とか運搬のしやすさとかで、フルーツにも優先順位ってやつがあるじゃん?」


 そういう意味で、この前ビバちゃんにもらったグレープフルーツは価値が高いと思う。

 柑橘の実は丈夫で運搬に向いている。

 おまけに収穫からある程度間が空いても食べられるという特徴があるから。

 輸出まで考えに入れられるんだよな。


「醤油や酢も地域で特徴ありそうだね」

「あなたは色々考えているのね」

「帝国やフェルペダに比べれば、ドーラはまだまだこれからの国なんだよね。統治機構が脆弱だからいつ転げるかわかんない危うさもあるけど、誰でも国を変えられる面白さもあってさ。あたしはドーラをいい国にしたいんだよ」


 統治についてはおゼゼと人員が決定的に足りないのが弱点。

 まず行政府が稼ぐ構造にしなければならん。

 貿易でおゼゼを作るところからだ。


「「ユーラシア!」」

「お?」


 グラディウスさんとピラウチ王ヘレグフトさんが同時に声をかけてきた。

 何だろ? 今日あたしは脇役なのに。


「カムイに聞いた。連邦制はユーラシアのアイデアだそうじゃないか」

「「連邦制?」」


 モイワチャッカとピラウチ両国の面々がポカンとしている。

 連邦制という選択肢を見せておけというグラディウスさんの判断か。

 せっかちだなあ。

 いや、グラディウスさんはあたしよりモイワチャッカとピラウチの情勢を包括的に知ってるだろうから、今話しておいた方がいいと見たんだろうな。


「モイワチャッカとピラウチは何十年も戦争してるらしいじゃん? でもあたしは戦争は嫌いなんだよ。人死にが出て発展が阻害されるしおゼゼ使ってビンボーになるし。ふつーに考えていいことがない」

「ふむ、それで?」


 あれ、王様乗り気なのかな?


「モイワチャッカとピラウチは元々民族的には同族って聞いた。あたしみたいな外国人から見ると、争ってるのは実にバカバカしい。落としどころ見つけて国まとめりゃいいじゃんって考え方になる」

「そう簡単にまとまらんから殺し合いを続けにゃならんのだが」

「要するにモイワチャッカとピラウチで違ってるのは政体だけじゃん? 共和制のモイワチャッカ自治州と王制のピラウチ自治州からなる連邦国家ですよ。新しく現れた神ぴー子の下に統一しますよ、今後ケンカはしませんよっていうアイデア」

「おお!」

「なるほど!」


 モイワチャッカ側の反応もいいな。

 終わりの見えない戦争に飽き飽きしてると見える。

 実現性は高いのか?


「戦争がなくなると傭兵に不満が出るのでは?」

「モイワチャッカとピラウチって合わせて二〇万人もいないくらいなんでしょ? 面積広いのに、人間の数が全然足りてないって。傭兵を丸ごと魔物駆逐開拓要員にしてもいいし、他の仕事に割り振ってもいい。いくらでもやることはあるよ。傭兵が余って困ることなんかないわ」


 まーあたしはモイワチャッカとピラウチが何で争ってたか、その理由も知らないくらいだ。

 傍目でそうした方が効率がいいよっていう考えに過ぎない。

 モイワチャッカもピラウチも譲れないものがあるのかもしれないしな。

 ピラウチの王様が言う。


「朕は賛成だ」

「お?」

「初代ピラウチ王ヘレグフト一世を敬う者が残ればいい」


 ヘレグフト。

 王様の名前は英雄であった初代王にちなんで名付けられたんだな。

 だから初代王と同じく『神の親』であるカムイ隊長を尊敬するということのようだ。

 また王制を打倒しようとするモイワチャッカは、初代王を否定することに通ずるから許せなかったというわけか。

 あたしからも理解しやすい理屈だ。


「即断はできかねます。国へ持ち帰って皆で結論を出しますが、今日出席した我々には連邦制に反対する理由はありません」


 モイワチャッカ側は受け身に思える。

 王制ピラウチに積極的に反対する人もいれば、戦争にならないのであればと消極的賛成の人もいるんじゃないかな。

 他にもいろんな考えの人がいるか。

 考えを一本化するのはモイワチャッカの方が難しそう。

 だけどどう考えたって、戦争ジャンキーは少数派だろ。

 ダラダラと落ち着かない状況は皆嫌になってるだろうから、停戦・和平を納得させることは可能だと思う。


 グラディウスさんと閣下が言う。


「モイワチャッカとピラウチの和平はフェルペダにとって望むところだ。協力は惜しみませんぞ」

「カル帝国も同じです。修好並びに貿易の拡大を求めます」

「じゃ、帰ろうか。ヴィル、フェルペダの王宮へ行ってくれる?」

「了解だぬ!」

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