第2269話:ぴー子はわかってる子
失礼ではあるが、どうやら『神の親』であるカムイ隊長には一定の敬意を払っているピラウチのヘレグフト王が言う。
「カムイ殿。神に拝謁させていただいてよろしいかな?」
「こちらです」
王様をぴー子の元へ案内するカムイ隊長。
ぴー子は神様の扱いなんだなあ。
でっかくて可愛い神だこと。
ゾロゾロついてく。
「おお、これが神か!」
「ぴい!」
バサッと翼を広げるぴー子。
ぴー子はかなり賢いので、完全に神と崇められたことを理解している。
しかし翼の大きさの割に太り過ぎの気がするな。
巣立ちの時期になると、もっとシュッとした身体つきになるのかな?
「よしよし、お肉持ってきたからあげようね」
「ぴい!」
「ふむ、大きな肉だな? ん? そのバッグにどれだけ入っているのだ?」
「これマジックアイテムなんだ。口より小さいものならいくらでも入るの」
「ほう、そんなものがあるとは。便利だな」
「ぴー子にエサ持ってきてやる時には、特に重宝してるね。王様のお腹をおまえうまそーだなって顔で見てたから、ちょっとぴー子の食欲を満足させてやらないと」
でもいくらでも食べるんだよな。
だから太るのかなあ?
と言ってひもじい思いはさせたくないし。
王様が言う。
「神に対してぴー子と呼ぶのは失礼ではないのか?」
「うーん、でもぴー子って名前を気に入ってるみたいなんだよ。最初ぴー太って呼んだら返事しなくてさ。ぴー子って呼んだら喜んだから」
「二択ではないか」
「世の中そう選べる選択肢は多くないんだ」
「無限にあるではないか。例えばエヘカトルとか」
「エヘカトル?」
どっから出てきたその奇妙な聞き慣れない名前。
ピラウチジョークかな?
「我が国ピラウチの初代王の相棒の神の名だ」
「あっ、そーいえば初代の王様は『神の親』だったんだっけ? すごいねえ」
「うむ、偉大な先祖だ。だから朕は同じく『神の親』であるカムイ殿のことも尊敬しているのだ」
だから王様自ら会談の場へ出てきたのか。
満足げにぴー子を見やっている様子からは、神であるガルーダのぴー子に対する愛情や親しみのようなものが感じられる。
神と『神の親』に対する思いは本物っぽいな。
チラッとカムイ隊長とアイコンタクトを取る。
ならピラウチ側は、カムイ隊長の顔を潰すようなことはしなさそう。
「ところでそなたはどこから大量の肉を持ってくるのだ?」
「ドーラからだよ。ドーラでお肉は骨皮付きでその辺を歩いてるからタダなの」
「野生動物の肉なのか」
「とゆーか野生の魔物の肉だよ」
「ふむ? 魔物の肉は邪気に侵されているのではないのか?」
「そんなことないよ。邪気のあるなしはお肉の味に関係ないんだ。おいしいよ?」
「陛下。トラブルメーカーユーラシアは、魔物の肉なぞ食っているから邪悪なのですぞ」
「おいこら。聖女そのもののあたしを捕まえて邪悪とは何事だ!」
ピラウチはどうか知らんけど、モイワチャッカでは魔物肉を普通に食べとるわ。
この衛兵隊長はメッチャ失礼というか、あたしを必要以上に警戒しているというか。
どんな噂を聞いてるんだろうな?
閣下ルーネビバちゃんグラディウスさんはまた笑っていやがるし。
「王様もぴー子にエサやってみる?」
「む? それは光栄なことであるな。ぜひやらせてもらおう」
「王よ、おやめくだされ! 危のうございます! 所詮相手は畜生ですぞ!」
「あっ、畜生とかゆーな! ぴー子は賢いから、あたし達の喋ってることほぼ理解してるんだぞ」
「カムイ殿、本当か?」
「本当です。神ぴー子は完全に我らの言葉をわかっています」
「ふむ、それはすまないことをした」
「ほらほら、ぴー子が不機嫌な顔になっちゃった」
あれは不機嫌な顔じゃないですよねってルーネが言いたそう。
うむ、ルーネも大分ぴー子の表情を理解してきたな。
あれは不機嫌な顔ではない。
遊んでやるからその無礼者をこっちに寄こせっていう、エンターテイナーの顔だ。
実に面白い。
ぴー子をアシストしてやろう。
「罰として衛兵隊長さんがぴー子にエサをやって機嫌を取っときなさい」
「ワシが何故そんなことをせねばならん?」
「神の不興を買ったまま国へ帰るつもりなのかよ。ピラウチ国民はそれで納得するん?」
「う……」
苦悩の顔になる衛兵隊長。
あーんど期待の表情になる閣下ルーネビバちゃんグラディウスさん。
楽しいイベントタイムだということを理解しているらしい。
へ理屈つけさせたらあたしは一級品だって?
華麗なるロジックだとゆーのに。
王様が言う。
「ゲルテル、この度の会合は平和を求めてのことだ。つまらぬケチはつけたくない。観念してユーラシアの言う通り、神ぴー子に肉を奉納せよ」
「はい、お肉だよ。どーぞ」
「……だ、大丈夫なのであろうな?」
「ぴー子は物事の道理もお約束もわかってるから、衛兵隊長さんに危害を加えないってとこまでは確かだよ」
お肉を受け取り、恐る恐るぴー子に肉を差し出す衛兵隊長。
さて、ぴー子は何するつもりなんだろ?
ワクワク。
「ぴい!」
再びバサッと翼を広げるぴー子。
盛り上げ方をわかってるなあ。
大きなくちばしをゆっくり衛兵隊長に近付け、そして……。
「あっ!」
「ぶははははははは!」
「そー来たか。やるなぴー子」
大笑いだ。
衛兵隊長のカツラを咥えて得意げに振り回すぴー子。
不自然な髪型の衛兵隊長ではあったけど、ぴー子はカツラだって見抜いてたんだな。
「ぶははははははは! 何というハプニングだ!」
「神様は神様でも、ぴー子は笑いの神様だと思うんだよね。エンターテインメントの神髄というものをわかってる」
「さすがはユーラシア。トラブルメーカーの勇名に恥じぬではないか」
「何だその恥ずかしい勇名は。あたしはトラブルメーカーじゃねーよ!」
今のはぴー子の独断だわ。
純粋なエンタメ精神の発露だわ。
「返してくだされ!」
「ぴー子グッジョブ。笑いをありがとう。カツラを衛兵隊長さんに返してあげてね」
首を下げて、そっとカツラを渡すぴー子。
何となく神々しい。
「ぴい!」
三度バサッと翼を広げるぴー子。
「あのバサッとやるのマイブームなのかな?」
「巣立ちの時期も徐々に近付いている。羽を使いたいのではないかな」
カムイ隊長の言葉に納得。
巣立つとどこかへ行っちゃうのかなあ?
寂しくなるな。
「さあ、会場へどうぞ」




