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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第2267話:エサ役はいらない

 ――――――――――三三九日目。


 フイィィーンシュパパパッ。


「おっはよー」

「おはようぬ!」

「やあ、精霊使い君。いらっしゃい」


 皇宮にやって来た。

 サボリ土魔法使い近衛兵はニコニコしている。


「今日はモイワチャッカへ行くとか」

「そうそう。モイワチャッカはお隣のピラウチって国と長年戦争状態にあってさ。和平に向けての第一歩として話し合おうねってことになったの。まあでもお互いに相手を信用してないから、帝国とフェルペダからオブザーバーとして人を出すってことね」

「平和に向けての話し合いってことか」

「いかにも聖女らしいお仕事だよねえ」

「聖女らしいぬ!」


 アハハと笑い合う。

 ドーラや帝国と直接関係のない遠国のこととはいえ、戦争のない世界を目指すってのはあたしの思惑に沿うしな。

 結構お気軽に参加できるのも、今日が楽しい所以だな。

 

「ルーネロッテ様もいい経験になるんじゃないか?」

「かもしれないな。あたしとルーネはガルーダ係だけどね」

「ガルーダ係?」


 これはわからんだろうな。


「あの辺ではガルーダが神様っていう信仰があるんだそーな。で、ガルーダの卵を見せびらかして危険から排除して孵すと、『神の親』って呼ばれて尊敬されるの」

「ほう?」

「この前史上二人目の『神の親』が現れたんだ。その人は傭兵隊長なんだけど、三〇年も続く戦争はバカバカしいって思ってる」

「三〇年は長過ぎるなあ。国土が荒廃しちゃうだろう」

「マジでそう。かなりの国土の広さがあるのに、モイワチャッカとピラウチ合わせて人口一五万人くらいって話だったかな」


 魔物がいるからフェルペダほどの発展は難しいかもしれない。

 でも戦争がなくなりゃ、いかようにでもやりようはあるだろ。


「傭兵隊長は『神の親』として一定の権威を持ったから、モイワチャッカとピラウチの戦争やめようって方向に持っていきたいわけよ」

「その『神の親』誕生にも君が関わってるわけか?」

「うん。傭兵隊長を手伝えっていう『アトラスの冒険者』のクエストだった」

「国家間の関係にタッチするのか。さらっと大冒険だなあ」


 いや、そーでもない。

 『神の卵』を運ぶ行で、モイワチャッカジョークは過激だなとは感じたけど。


「で、『神の親』は話し合いに参加するから、誰かがガルーダの雛を見てなきゃいけないじゃん? あたしとルーネがガルーダ係ってことだよ」

「ようやくわけがわかった」

「最近剣術道場の日にルーネを連れ出しちゃって申し訳ないね」

「道場に参加する以上の有意義な経験をしてるじゃないか」

「まあねえ」

「ドミティウス様も嬉しそうだし」

「お父ちゃん閣下は、ルーネと一緒に行動できるのが嬉しいだけだろうけどな」

「そのルーネロッテ様だが、最近ちょくちょく一人で転移して戻ってこられるんだ」

「あたしと行動してる時もあるけど、余った時間はドーラのギルドへ行ったりしてるんじゃないかな。あたしとしては、ルーネにはもう少し淑女方面にウェイトを置いてもらいたいんだけど」

「そうなのかい? 意外だな」


 どーして意外なのだ。


「ドミティウス様の意を酌んでということなのかい?」

「いや、冒険者関係はいくらでも知り合いがいるから、お貴族様人脈を開拓して欲しいというあたしの事情」

「勝手だなあ」


 自分勝手なんてことはよーく知ってる。

 何故ならあたしは生まれ落ちたその瞬間から我が儘だから。


「ところで明日、クリームヒルトさんの絵を描かせてもらおうかなと思ってるんだ」

「アポは取ってるのかい?」

「取ってない」

「会ってくれるのかい?」

「どうせ暇してるんでしょ? あたしや絵師に興味があるなら会ってくれるはず」


 ダメならダメで、アポ取るだけでもいいしな。


「注意することあるかな?」

「クリームヒルト様に関してか? 結婚されて以降のことはほとんど情報が入ってこないんだ。最近のことは何一つわからないと言っていい」

「皇女様時代はどうだったの?」

「お茶目で明るい方だったよ。といっても子供時代のことは、俺もまだ近衛兵じゃなかったから知らない」

「ふむふむ。双子皇子や他の皇族との付き合い方は? サボリ君から見てでいいんだけど」

「等間隔というイメージだな。特定のどなたかと特に親しくされているとかはなかった」


 バランスを考えてる人かな?

 あるいは権力にあまり興味がなかったのかも。


「ありがとう。明日楽しみだなー」


 さて近衛兵詰め所にとうちゃーく。


「おっはよー」

「おはようぬ!」

「ユーラシアさん!」


 飛びついてくるルーネとヴィルをぎゅっとする。

 閣下が聞いてくる。


「今日は?」

「まあポーズだね。『神の親』たる傭兵隊長カムイさんがどれほどの影響力を持っているかということを、モイワチャッカとピラウチ両国の首脳に見せつけるための」

「うむ。せっかくなら何か土産を用意してやりたかった」

「キールがオールオーケーな貿易港になるだけで十分でしょ。交易ウェルカムだよって両国に言っておこうよ」

「そうだな。国交樹立が先だが」

「じゃあモイワチャッカとピラウチが仲良くなったら国交結ぼうねニッコリって言っときゃいいか」


 簡単なお仕事だな。

 まー今日はモイワチャッカとピラウチは互いに疑心暗鬼なんだろう。

 そんなに話が進むわけない。

 次がありゃいいなくらいの感じだろうから、雰囲気を良くしてやることを考えてやるか。


「ピラウチには港ないんだっけ?」

「我が国の東方植民地シグナハシガか、あるいはモイワチャッカやフェルペダを経由する形になると思う」

「そーいやウルリヒさんが一度だけ東方植民地からピラウチに入国したことあるって言ってた」

「今まで東方諸国とはフェルペダ以外に関わりがなかったからな」

「東方に帝国の植民地は三つもあるじゃん。何で放っておいたん?」

「適した貿易港がなかった、これに尽きる。ウルリヒにキールを手放させて直轄領にするというユーラシア君の奇抜なアイデアは、今後の帝国の東方経営に大変なメリットになる」


 褒められた。

 帝国の東方植民地も行ってみたいけどな。

 ルーネが言う。


「私達はぴー子ちゃんの世話ですよね?」

「そうそう。神様ぴー子にかしずく巫女の係」

「ビヴァ様は?」

「エサ役はいらないな。会談に列席しててください」


 さて、フェルペダへ迎えに行くか。

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