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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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2262/2453

第2262話:威力偵察と物見遊山

 フイィィーンシュパパパッ。


「こんにちはー」

「こんにちはぬ!」

「精霊使いか。いらっしゃい」


 ルーネ新聞記者トリオヤヨイちゃんを連れてイシュトバーンさん家にやって来た。


「また来たのか。どうしたんだ?」

「この子は初めてだよね。帝都のファンシーショップのヤヨイちゃんだよ。セレシアさんとこの店に興味があるようだから行ってくるの」

「あれっ? アンタの顔は見たことあるね。ドーラ人だったのかい?」


 何と美少女番警備員ノアは、ファンシーショップ『ミヤネヤ商店』のお客さんだったでござる。

 ノアの前髪は特徴的だから、ヤヨイちゃんも覚えてたんだろう。

 何々? 妹ココちゃんのプレゼントに利用したことがあるのか。

 意外なところで繋がりってあるもんだなあ。


「ノアは元々帝都の人なんだよ」

「『ミヤネヤ商店』のファンシーグッズは、センスがいいだろう? 妹が好きだから」

「まいど。今後も御贔屓にしていただけると嬉しいよ」

「ノアはプリンスルキウス陛下の暗殺未遂事件に関与して、ドーラに逃げてきたんだよ」

「えっ?」

「もっとも当時プリンスは皇帝じゃなかったけど」


 皆が頷く。

 ほぼ事実だから。

 ほう、という悟ったようなため息を吐くヤヨイちゃん。


「人生色々だね」

「人生色々で片付けるのか。ヤヨイちゃんは大物だなあ。あ、来た」


 イシュトバーンさんが飛んできた。


「よう、今度は何だ?」

「こんにちは。ここは絵師さんの家だったのかい?」

「そうそう。ヤヨイちゃん、セレシアさんに会いたいみたいでさ」

「ああ、予定通りだな」

「何だい? 予定通りって」

「ヤヨイちゃんとこは、腕のいいファンシーグッズ職人を抱えてるんでしょ? あたし達も、セレシアさんの商品と相性がいいんじゃないかって話をしてたんだよ」

「傍からもそう見えるのかい? 何か考えないといけないねえ」

「おい、別嬪さんの店と『ケーニッヒバウム』の契約はどうなってるんだ?」

「やっぱ気になるよね」


 代理店契約になっててホニャララという説明をする。

 何かやるのかって目をイシュトバーンさんがしてる。

 まあセレシアさんにもヤヨイちゃんにもドーラにもメリットになりそうなので、何とか手を貸してやりたいのだ。

 といっても『セレシアン』の商品は『ケーニッヒバウム』に押さえられてるから、やれること限られてるけどな。


「昼はうちで食っていけよ」

「あっ、ありがとう。じゃああとでお肉持ってくるね」


 セレシアさんの店にしゅっぱーつ。


          ◇


「ユーラシアさん、イシュトバーンさん!」

「密会ですか逢引きですかスキャンダルですか?」

「現れるの遅かったね」

「本日二度目なので油断してました」


 新聞記者ズが現れた。


「こちら帝都のファンシーショップのヤヨイちゃん。セレシアさんとこのファッションが帝都で受け入れられつつあってさ。特にヤヨイちゃんの店のお客さんにはファンが多いんだそーな。それでセレシアさんの店を威力偵察? 物見遊山? に行くんだよ」

「威力偵察と物見遊山が同列に語られるのは初めて聞きましたが」

「要は遊びに行こうってことだよ。帝都の新聞記者さん達も記事拾いに来たみたいで」

「「私達もお供します」」


 さらに人数が増えた。

 まーいーや、もう着いたし。


「たのもう!」

「たのもうぬ!」

「まあ、ユーラシアさん。記者をたくさん連れてきてくださってありがとうございます」


 セレシアさんの機嫌がいい。

 イシュトバーンさんが何も言ってなかったから、おそらく暴走もしてない。

 しまったな。

 もうちょっとこのまま落ち着かせた方がいい気がしてきた。

 ヤヨイちゃん連れてきてかき回すべきじゃなかったか?


「ねえ、紹介しとくれよ」

「そーだった。こちら帝都のファンシーショップのヤヨイちゃんだよ」

「遠いところからよくいらっしゃいました」


 握手。

 ここまで問題なし。

 セレシアさんを舞い上がらせずに話を進めねば。

 ウルトラチャーミングビューティーには難しい舵取りが要求されます。


 ヤヨイちゃんが言う。


「帝都で『セレシアン』はかなり注目されてきているんだよ。特に平民富裕層の流行に敏感な子は皆チェックしている」

「そうなんですの? 嬉しいですわ!」

「待った。予想通りではあるけど、貴族の令嬢はあんまり反応ないんだ?」

「お貴族様の審美眼は大したもんだから、興味がないわけじゃないよ。でも今はまだ嗜好は保守的というかクラシカルだね」

「うーん、そうか」


 若干深刻そうな雰囲気を見せたからか、セレシアさんにブレーキがかかった。

 いい傾向だな。


「何か都合が悪いんですの?」

「絶対的に悪いってわけじゃないんだけど」

「お貴族様に売りたいね。今のままじゃ難しいが」


 おそらくヤヨイちゃんの店『ミヤネヤ商店』には貴族の上得意様がいる。

 だからこそこうハッキリしたことが言えるんだろう。

 庶民相手の叩き売りとどう扱いを変えてるんだか知らんけど、ヤヨイちゃんならその辺うまくやりそうだしな。


「令嬢だって無制限に予算があるわけじゃないだろう? 今の時期は社交用のドレスの仕立てに全力だろうよ」

「もっともなことだわ。来年春夏向けには貴族も視野に入れて、気合を入れなきゃいけないってことだね」

「今のままじゃいけませんの? 帝都は人口も多いのでしょう?」


 セレシアさんの言いたいことはわかる。

 現在の『セレシアン』は活動的な女の子向けという軸に立っている。

 元々冒険者してるエルの服が原型だからな。

 貴族の令嬢をターゲットにすると軸がブレるかもしれないと、デザイナー視点で心配しているんだろう。

 このまま平民富裕層向けで押し通す手もあるが、しかし……。


 イシュトバーンさんが言う。


「別嬪さんよ。精霊使いは今後の展開を考えているんだぜ」

「今後の展開?」

「今のままでもそこそこ売れるんだけどさ。やっぱ平民富裕層限定よりも、貴族の令嬢が普段使いするっていうフックがあった方が強いんだよね。憧れポイントじゃん?」

「むしろどうして積極的にお貴族様を狙っていかないのか、アタシにはわからないね」

「ドーラには貴族がいないからなー。イメージしにくいんだよ」

「ああ、ドーラの事情もあるのか」


 ふむ、『セレシアン』はヤヨイちゃんの店と客層が被るはず。

 であれば貴族の令嬢はお得意さんにせねばなるまい。

 どうする?

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