第2259話:タイミングの問題
「この前のマヤリーゼさんのお茶会のことは、新聞記者さん達知ってるんだっけ? ルーネも出席したやつ」
「「「初耳です」」」
ヴィルルーネ新聞記者トリオとともに『ケーニッヒバウム』へ行く途中だ。
どうでもいいお喋りは楽しいな。
ラブい話も楽しい。
いや、ルーネにとってはあんまりラブくない話なんだったか。
「カルテンブルンナー公爵家ハムレット様の婚約者選びだと感じました」
「ハムレット様もいい年齢ですからね」
「皇帝選前後で公爵家当主のウルリヒ様が注目されていましたから、いい機会だと思ったんですかね?」
「多分ね」
「参加者はどなただったんです?」
「ルーネの他に伯爵家の令嬢二人だそーな。ヒントはここまで」
「「「ええっ!」」」
ええっじゃないわ。
「だって話が漏れてないなら、何かの思惑で内緒にしてるのかもしれないじゃん。さっきのビアンカちゃんの件でも同じだけれども」
「公爵家にも伯爵家にも迷惑がかかるかもということですか?」
「そうそう。これ以上は自分らで取材して、記事にしても大丈夫だと判断してからにしなよ。でないと後悔するぞ?」
想像はできる。
令嬢側もカルテンブルンナー公爵家に嫁げるなら嬉しいんだろうけど、何せ今までのウルリヒさんの行動が地方の大貴族として模範的とは言えなかったから。
最近改善されたようだけど、様子見は必要と考えているんじゃないかな。
その辺はマヤリーゼさんも心得てるから、あえて大っぴらにしない、ということなんじゃないか。
「一方で話せることもあってさ。ルーネ」
「はい。ハムレットと私が、ということはないです」
「あたしの見る限り、ハムレット君とルーネの相性は良かったけどな」
「それがどうして? 家格的には大変お似合いだと思いますが」
釣り合いとしてはね。
相性のこともあって、あたしもお似合いだとは思うけど。
ルーネが言う。
「少しタイミングが早いと言いますか。私自身ユーラシアさんに出会って世界が広がったばかりです。デビュー社交シーズンもこれからということもあります」
「まだまだ出会いがあるということですか」
「状況が味方しなかったね。お父ちゃん閣下が皇帝選に負けて、今の立場が不安定ってことがあるじゃん?」
「はい、わかります」
「通貨単位統一委員会が本格稼働し始めると、閣下も再評価されるだろうけど」
端境期というか人生の夏休みというか。
閣下にとって今はそんな時期だ。
いずれ輝く時期が必ずある。
とゆーか通貨単位統一委員会に存在感がない展開になったら、あたしが困るわ。
「皇帝選に負けた皇族と地方の大貴族が組む、っていう構図に見えちゃうのもちょっとねえ」
「ドミティウス様とウルリヒ様の仲がよろしくないのもマイナスポイントですよね」
「その辺はどうにでもなるけど」
「ええ? 仲を取りもってくださればよろしいのに」
「あたしの都合ってもんがあるじゃん?」
「ユーラシアさんの都合、ですか? 何の関係が?」
「あの二人は仲悪いくらいの方が都合がいいんだよ。ライバル心を煽ったり、頭カーッとさせたりすると言うこと聞いてくれるし。コントロールしやすいの」
「そうですね!」
「ってあたしが言ったことは内緒だぞ?」
アハハ。
ルーネが悪い子になってゆく。
「そーだ、新聞記者さん達の意見も聞きたいんだった」
「「「何でしょう?」」」
おっぱいピンクブロンドのポスターをナップザックから取り出す。
「この絵どう思う?」
「マイケ嬢とウマの絵ですか。とても素敵だと思います」
「ペルレ男爵家領ハムまで押しかけて描かせてもらった絵なんだ」
「画集帝国版の一枚としてですよね?」
「そのつもりだったけど、これはどうなんだと思って。帝都のおっぱいピンクブロンドを期待してる人からすると、裏切られたような気がするんじゃないかなあ?」
「ああ、購買者側の視点ですか」
じっと絵を見つめる新聞記者トリオ。
半乳バージョンのおっぱいピンクブロンドの絵も、イシュトバーンさんは描きたいだろうしな?
「マイケ様は自領ではとっても格好良くていらっしゃるのです。毎日朝駆けをされているそうで」
「それでウマとの絵ですか。イメージが全く違いますね」
「完全に領での姿が地なんだよね。でも帝都にいる時の役割は社交だからって、おっぱいをオフェンスラインに配置するわけよ」
「自分の武器をわかっていらっしゃいますよね」
おっぱいに脱線しかけたぞ。
何の話だったっけ?
果たして画集にこの絵はありやなしや?
「新聞記者さん三人に聞きました! この絵はありだと思う人手を挙げて!」
「「「はい!」」」
おっぱいピンクブロンドを知る三人が三人とも賛成か。
意外だな?
「単純にいい絵ですよ。マイケ嬢のファンも納得の一枚でしょう」
「普段帝都で見せない顔というのはシークレット感があると思います」
「ありがとう。よし、採用しよう! でもイシュトバーンさん、上乳ドレスバージョンも描きたいみたいなんだよ」
「いいじゃないですか。マイケ嬢が王都に来る社交シーズン以降になりますよね?」
「そーだね。画集採用にはしないけど、新聞には載せてくれる?」
「「「ぜひ!」」」
ハハッ、食いついた。
おそらくは『スライムスキン』を使用した、上乳シースルードレスになる。
『スライムスキン』の無料広告が打てるようなもんだ。
これぞウィンウィン。
いや、あたしが勝てるわけじゃないけど、思い通りになるのは楽しい。
「もう一つ。明後日イシュトバーンさんと誰かの絵を描かせてもらおうってことになってるの。アンケート一一位の若き未亡人クリームヒルトさんだと一番いいんだけど、家に連れてってくれない?」
「「「えっ?」」」
躊躇する記者トリオ。
その反応は何なの?
あたしが不安になるわ。
「過去に筆が滑り過ぎちゃって敷居が高いとかある?」
「ないですないです!」
「でも超高級なお宅なので……」
「あんた達皇宮にもふつーに来るだろーが」
「ダールグリュン家邸は別格なんですよ!」
皇宮以上に別格なの?
すごくね?
楽しみが増えたな。
「クリームヒルト叔母様にお会いするのは久しぶりです。もう何年も顔を見ていないんですよ」
「ルーネがいれば門前払いされることはないだろ。明後日の朝ね」
「「「わかりました」」」
よーし、オーケー。
ん? あれは?




