第2253話:ウシの尻尾
フイィィーンシュパパパッ。
「やあ、チャーミングなユーラシアさん。いらっしゃい」
「ポロックさん、こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
ヴィルを連れてギルドにやって来た。
ポロックさんが話しかけてくる。
「まだ転移先を決めてない転移石碑があるだろう?」
「転移先問題があったね。相談しようと思って忘れてた」
「ユーラシアさんの方から、ぜひここにっていう提案はあるかい?」
「転移の玉や転移石碑をこれからも安定して作れなきゃいけないから、黒妖石の入手先である帝国のガータン。及び加工の外注を出してる、ドワーフのバルバっていう集落は絶対かな」
「ふむふむ。有力な冒険者を連れていって、現地の人と顔繋ぎもしてもらいたいよ」
「ドワーフの集落にはルーネを、ガータンにはリリーを連れてったことあるんだ。もしあたしと連絡取れない時に急ぎがあったら、彼女達に頼んでね」
「わかった」
いずれ他の冒険者やギルド職員も紹介したいなと思ってはいる。
しかし異世界関係が片付いてからになるだろう。
面倒だなー。
いや、楽しいイベントが待っていると考えるべきなのか。
「アルアさんのパワーカード工房も、転移できるといいかな。輸出品のパワーカードのお仕事回してるんだよね。塔の村のダンジョンに潜ってる冒険者にとって、フィールドでの戦い方を覚えるのに適当な魔物が出るってこともある」
アルアさん家の外はあたしもかなりお世話になった。
ギルド行きの転移石碑があるため、新『アトラスの冒険者』でない冒険者にとって都合がいいということも利点だ。
あそこの回復魔法陣は『アトラスの冒険者』廃止とともになくなってしまうのか。
利用者あるいは希望者が多ければ、回復用の石碑を設置してもいい。
「あたしの方からそれくらい。今いい転送先持ってる人がいたら、ビーコン埋めてきて欲しいな」
「ちなみにユーラシアさんは、どんな場所があるといいと考えているんだい?」
「稼げるところ、そこでしか取れない素材があるようなところかなあ? あと急ぎじゃないけど、カトマスと塔の村の間に距離があり過ぎるから、真ん中くらいに一ヶ所欲しいかな。クルクルっていう自由開拓民集落がいいかと思ってるんだ。南部から街道引くと、西域街道と直角に交わるのがクルクルあたりなの」
「ほう、南部への街道」
「西域街道に使われてる魔除けの基石の正体がわかった。ドワーフに大量発注も可能だから、早めに南部へ街道引きたいんだよね。今魔除けの基石のサンプルをバルバロスさんに渡して検証してもらってるんだ」
「ユーラシアさんの構想は夢があるねえ」
あたしは夢見る乙女だからだな。
発展するドーラの未来に邁進なのだ。
「ところでダン来てるかな?」
「ああ、来てる来てる。大荷物で」
「やたっ! 大荷物だ」
「ルーネロッテ嬢も来ているよ」
「ルーネが? ああ、今日午後暇そうだもんな」
「マウさんと一時間ちょっとほど出てたようだ」
「なるほど、ありがとうポロックさん」
マウ爺に教えてもらうとためになるよ。
ギルド内部へ。
不用品を処分して食堂だな。
「ユーラシアさん!」「ゆーらしあさん!」「御主人!」
「何なんだあんたらはもー」
飛びついてきたルーネポーラヴィルをぎゅっとするいつものやつ。
ダンとマウ爺が微笑ましい目で見ている。
「ユーラシア、これやる」
「ありがとう。何かな?」
お肉っぽいけど、見たことないな。
特徴的な見た目だけどどの部分だ?
「ウシの尻尾を輪切りにしたものだぜ」
「おお、なるほど!」
「あたちももらったのでつ!」
「確かに尻尾では売り物になりそーじゃないなあ。これいつもはどうしてるの?」
「従業員のまかないだな。煮ほぐして食ってるようだ」
「むーん?」
それはありなのか?
煮たら脂抜けちゃうし、ほぐしたらお肉の歯ごたえがなくなるなあ。
「歯の悪いやつらには御馳走なんだぜ」
「あ、そーゆー需要もあるのか。でももったいないねえ」
「何がどうもったいねえ?」
「この脂の乗りは絶対おいしいでしょ。煮ほぐしたんじゃ脂抜けちゃうし、お肉のボリューム感が感じられなくなっちゃう」
「だが焼くと食いづらいんだぜ。あんたならどうする?」
「うーん、パッと思いつくのは煮てスープだな。骨と脂で美味しくなるよ。いや、炙るか焼くかしてから煮た方が、香ばしくてうまそーな気がする」
「ほう?」
「脂がしつこかったら香味野菜を加えりゃいいな。ショウガとか」
もったいないと思えるほど、尻尾も魅力的な食材だとわかった。
見た目が面白いから、料理として完成したら店で提供すりゃいいと思うよ。
利益率を高めてください。
ルーネが待ちきれないといった具合で言う。
「私、マウさんに色々教わったんです」
「マウさんは正統派の冒険者だよ。基本に忠実だから勉強になるでしょ?」
「はい!」
マウ爺が持ってるどこぞの転送先だろう。
任せときゃ問題ない。
「ところでマウさん、ルーネはどうだった?」
「嬢からかなり教わっているようではないか。経験が少ないとは聞いていたが、中級冒険者以上の観察力はあるじゃろ」
「だよねえ」
ルーネも嬉しそう。
「問題があるとすると、普段の気の張りようかの」
「あーわかる」
「どういうことですか?」
「ルーネはいつも全力で警戒してるような感じなんだよね。不意打ち食らうよりはよっぽどいいけど、もうちょっと気を抜いててもいいんじゃないかってこと」
「気を抜く、ですか」
納得いかんのかもしれんけど。
「全力で行かなきゃいけない時のためにコンディションを整えておくのも、冒険者の心得なんだよ。いつも全力だと疲れちゃうでしょ? 緊張してるがために相手に警戒されちゃうこともあるし、却ってささやかな予兆を見逃すこともある」
「嬢はいつも隙だらけに見えるじゃろう? 実際には隙などないにも拘らず」
「いや、あたしのマネはしない方がいいかも。変なやつに絡まれることあるんだよ」
隙なんかねーよってしょっちゅう言ってる気がする。
「ちょっと隙を見せといた方が女はモテるものなんだ」
「おい、そんなこと教えていいのかよ」
「お父ちゃん閣下に怒られるかもしれないな。まーいーや」
アハハと笑い合う。
「さて、今日は帰るよ。尻尾ありがとうね」
「バイバイぬ!」
転移の玉を起動して帰宅する。




