第2249話:マジでありそーで困る
――――――――――三三七日目。
フイィィーンシュパパパッ。
朝から塔の村にやって来た。
「さて、問題です。リリーはどーこだ?」
「ベッドの中だぬ!」
「マジでありそーで困る」
アハハ。
今日はリリーを連れてゼムリヤへ行く予定だった。
起きてりゃ食堂にいるかな?
行ってみるか。
「おっはよー」
「おはようぬ!」
「来たかユーラシア!」
食堂にはリリー黒服とフィフィんとこの皆さんがいた。
「おおう、珍しくリリー起きてるじゃないか。寝てたら置いてっちゃおうと思ってたのに」
「ユーラシアは絶対にそう言うと思ってたから、決死の覚悟で起きたのだ」
「決死の覚悟なんかい」
いや、まあリリーは根性入れれば起きられるだけ偉い。
あたしは朝七時三分より前には多分起きられないと思う。
「フィフィは偉いな。この時間に起きて、午前中に塔の探索なんでしょ?」
「そうね。生活のリズムが作りやすいでしょう」
「ごもっとも」
「我も昼に起きて午後に塔の探索というリズムなのだ」
「全然えらそーじゃないのは何でだろ?」
アハハと笑い合う。
自分のリズムを守るのは悪くないんだけどね。
でも人間はお天道様が地を照らす朝とともに活動開始するのが自然なんだわ。
あたしも我が儘だけど、合理性に反することはあんまり。
「伺いましたわ。リリー様とゼムリヤに行かれるとか」
「そうそう。上皇妃様とヴィクトリアさんがゼムリヤへ避暑に行っててさ。何かリリーが心配だから様子見に行きたいって」
「フィフィリアも一緒に来てくれぬか?」
「「えっ?」」
フィフィか。
いいかもしれない。
うちの子達とリリー黒服フィフィ執事なら、人数的にはギリギリセーフだな。
「フィフィリアも知っておる通り、姉上と母上は長い間口も利かぬ間柄だったであろう? 少々心配でな」
「リリーがフラグ立てるもんだから、あたしも何か起きるような気がしてきちゃってさ」
「で、でも私が同行しても何が……」
「いや、本当にあの二人が揉めてるってことがあれば、中立のフィフィが来てくれることは意味があるな」
「そ、そうかしら?」
「揉めてたら揉めてたで書き物のネタになるじゃん。『フィフィは見た! カレンシー上皇妃とヴィクトリア皇女の真実』とかで」
「そうねっ!」
「ユーラシア!」
「笑い事ってことだよ」
「笑い事だぬ!」
大笑い。
実に楽しいな。
爽やかな朝だ。
「じゃ、行こうか」
新しい転移の玉を起動、一旦ホームへ。
◇
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
リリーフィフィクララも混ぜてぎゅー。
ゼムリヤの宮殿にやって来た。
辺境侯爵メルヒオールさんにウルピウス殿下、上皇妃様ヴィクトリアさんと、皆さん機嫌がよろしいですね。
何も起きてないじゃないか。
実につまらん。
メルヒオールさんが言う。
「そちらの娘御は?」
「フィフィリア・エーレンベルクと申します」
「元騎士団長ランプレヒトさんのお孫さんだよ。父親のババドーン元男爵が失脚して」
「ああ、知っている」
「ドーラに流れてきて今は人気作家」
「さっぱりわからん」
「フィフィの著作でーす。冗談抜きで帝都ではメッチャ売れてるんだ。すごく面白いから、じっちゃんも読んでみてよ。どーぞ」
「うむ、すまんな。しかしフィフィリア嬢のレベルはどうしたことだ?」
レベルに興味があったのか。
メルヒオールさんなら当然だった。
「ユーラシアが玩具にしたのだ」
「そうなのですわ!」
「おいこら、人聞きの悪いことゆーな。少し遊んだだけだわ」
リリーのいる塔の村で冒険者をしているの何の。
メルヒオールさんが首をかしげる。
「ドーラの冒険者は随分と簡単になれるものなのだな? 少々疑問に思えるのだが」
「我はユーラシアに塔の村を勧めてもらったのだ」
「とゆーか、リリーの場合は塔の村しか選択肢がなかったな。もちろんドーラでならどこでも冒険者やれる、ってわけではないんだ。リリーがドーラに来た時、直前に素人冒険者歓迎の塔の村がオープンしてたからちょうどいいかなと」
「素人冒険者歓迎というのもわからんな。うちの魔物退治要員を鍛えてくれたのも、その塔の村なんだろう?」
「そうだぞ、爺様。塔のダンジョンは弱い魔物から強い魔物まで階層で順番に出現して、腕試しに最適なのだ。『永久鉱山』で採取した素材も補充されるから、生活の糧にもなりやすい」
うむ、塔の村以上に初心者からベテランまで稼げるようなところって、ちょっと他には考えられない。
『アトラスの冒険者』廃止後は、冒険者志望の者はまず塔の村を目指すっていうセオリーが定着すると思う。
「フィフィリア嬢の場合は?」
「フィフィがドーラに来た時は、お父ちゃんのやらかしのおかげであんま身の置き場がなかったんだよね。それで塔の村にリリーがいるよって教えてやったら行くって」
「罠だったのですわ!」
「うん、罠だった。でも本当のことしか言ってない。引っかかるやつが悪い」
「都合のいいことしか言わなかったのですわ! 酔狂だったのですわ!」
「その辺りの詳しいことは先ほどの本でどーぞ」
「ハハッ、俄然興味が湧いてくる勧め方だな」
商売の基本です。
「ところでじっちゃん。これお土産のお肉だよ。昼御飯の足しにしてよ」
「昼食は食べていくということだな? ところで今日は何かの用だったのか?」
チラッと見てくるリリー。
了解。
じゃああたしの方から。
「まーぶっちゃけ上皇妃様とヴィクトリアさんがうまくやってるか、リリーが心配だったみたいでさ。様子見に来たの」
「我はユーラシアがもう少し遠回しに言うことを期待していたのだが」
「ストレートに言った方がいいとゆーのに。でも問題なさそうでよかったよ。となるとあたしは魚横丁が気になっちゃってしょうがない」
「気になっちゃうぬ!」
アハハ。
魚横丁を案内せよという圧力に屈しろ。
あれ、ヴィクトリアさんもまだ魚横丁に行ってないんだね?
上皇妃様が言う。
「では、妾が案内いたしますわ。お気に入りの店もありますので」
「頼りになるなあ。お願いしまーす」
「精霊達は置いていってくれんか。聞きたいこともあるのだ」
「りょーかーい」
メルヒオールさんはうちの子達に何を聞きたいんだろうな?
というか精霊は人混みが苦手だからという理由で配慮してくれてるのかも。
さて、行くべえ。




